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魔導軍師ハンニバル  作者: 古河新後


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第45話 ハンニバルさんは“嫌”なおっさんかな

 内陸とブルームをつなぐ連絡路にも慌ただしく、兵たちが動き始めた。隠れて伺っている、ラシル、モナ、ミカの三人も物々しい様を察する。


「これは……マズイんじゃないか?」

「もしかして三人が見つかったのかしら……」

「…………」


“ラシル、“プランB”が必要な時はわかりやすく合図をする。ソレを見たら“使い魔”全開で全員で迎えに来い。その時までは待機だ。感情的に動くなよ? 皆死ぬぜ?”


「……合図を早く出しなさいよ」


 ラシルは今すぐにでも“スプリガン”で迎えに行きたい衝撃を腕を組みんで抑えつつ、ハンニバルの合図を待つ。






 ガイダルの拳をキャスの命令でギリギリ受け止めた“バエル”だったが、即座に粉々に四散。受け止める許容量を超えた衝撃にリタとキャスは大きく吹き飛ばされた。

 二人の身体はブルームの上り坂から落下する様に宙に身を晒す。


「バエル! あたし達を包んで!」


 キャスの指示を“バエル”は実行するものの、ガイダルによって体積を散らされ、自分を包む程度の面積にしか広がり切らない。


「! キャス!?」

「ぐうっ!」


 キャスはリタの身体を抱きしめる様に掴み、自分が激突する建物の屋根との間に挟まる選択肢を取った。

 衰えぬ勢いのまま跳ね、二人はカッター会場の広場に落下して停止する。


「……はっ……かっ……」

「キャス!」


 落下の衝撃を自分と“バエル”で全て受けたキャスは、横隔膜がせり上がり上手く息が吸えない。そのまま意識を失うと目を閉じた。


「…………」


 リタはキャスが死んだワケではない事に安堵。しかし状況は――


「建物を盾に包囲しろ!」

「片方は炎を使うぞ! 狙撃手は普段よりも2ブロックは遠巻きに配置!」

「状況によっては戦艦からの砲撃もある! 絶対に近づくな!」


 『帝国』兵士全てが、リタとキャスに銃を向けて距離を取っていた。


「イフリート!」


 リタは“イフリート”で自分たちを囲むように炎の壁を作る。目眩ましをしている間に海に飛び込み――


「片方は死んだかのぅ?」


 囲いの中へガイダルが着地した。追ってきたのだ。


「…………」

「まだか。しかし、実に惜しいわい」


 ガイダルは顎に手を当てて首をコキっと鳴らす。


「気を失のうとる娘っ子は何故、スライムに鋭い武器を命令しないのかのう?」


 傍から見ても“バエル”の変形性は変幻自在。自信を護る様に覆う以外に、鋭い剣や槍の形状に変換する事も可能であるとガイダルは見抜く。


「……キャスはお前達とは違う」


 リタはキャスの変わりに宣言した。


「『魔女』と“使い魔”の関係は他を傷つける為のものじゃない! 護り、共に歩む為の物だ!」

「カッカッカ。皆、そう言うのよ。己の信じるモノ全てがまだ信じられる間は(・・・・・・・)のぅ」


 ガイダルは笑う。それは卑下したモノではなく、相手の思想を全て受け入れた上で、上からねじ伏せる為の理解だった。


「じゃが、結局は世の中は(コイツ)よ。夢も、道も、想いも、立ちはだかるモノを乗り越えるだけの武力が無ければ何の価値もないわい」


 ガイダルの視線はリタではなく“バエル”が心配そうに寄り添うキャスへ向く。今、一番見てみたいのは、“殺す”と宣言するキャスの姿だ。

 傍らの人畜無害な“使い魔(スライム)”も恐ろしい凶物へと変わるに違いない。その為には――


「お前さんの死体でも見せてやるかのぅ」

「! イフ――」


 次の瞬間には、ゾフッとリタの背中からガイダルの腕が突き出ていた。






 何だ……何をされた……?

 私……身体を……あれ……? いつの間に……貫かれて……


「カッカッカ。さて、娘っ子を起こすとするかのぅ」

「させ……ない……」


 咄嗟に……貫いているヤツの……腕を掴む……

 力が入っている……のかわからない……でも……できる限り……全力で……


「お主の価値は死のみぞ」


 パキッ、って音がして……視界が急に……傾いた……

 身体から……力が……抜ける……引き抜かれた……腕の支えが……なくなって……立って……


「さて、こっちの娘っ子はどんな反応を見せるかのぅ」


 まて……まって……ダメ……だ……キャスは……






「キャスは戦うのは怖くないの?」


 リタはペルキナ部隊から助けられた夜、眠りに着く前にキャスと少しだけ話していた。


「普通に怖いよ? なんで?」

「それはこっちの台詞よ。アンタだけ一人で私を助ける役回りだったじゃない」


 ラシルの作戦において、最も危険な役割はキャスだった。


「バエルも居たから! それに、あたしはリタさんを失う方が怖かったよ」

「……私を?」

「あ、リタさんだけじゃないよ。ラシルちゃんもモナさんもミカさんも、一応……ハンニバルさんも。誰が一人でも失うって考えると、それ以上に怖いものは無くなるんだ」

「……そう」

「あたし一人っ子で村では娘みたいに皆慕ってくれてたんだ。だから、なんか皆と達と一緒にいるとお姉ちゃんみたいで嬉しい」

「……ならハンニバルの立場は?」

「あー、ハンニバルさんは“嫌”なおっさんかな」

「ふふ。そうね、彼は少し“嫌”ね」


 まるで秘密を共有する姉妹のように二人は笑って眠った。






「ほぅ」


 ガイダルはキャスへ近づく歩みを止めて振り返る。

 そこには身体を貫かれ、首を折られても尚、立ち上がったリタが居た。


「首と心臓。急所の2カ所破壊じゃ。何故立てる?」


 ガイダルはワクワクしながらリタに問う。


「マモ……ル……」


 周囲を囲む炎がリタへ集まる様にその身を焼き尽くす様に包んで行く。


「イフリートォォォ!!」


 ゴッ! と炎が凝縮するようにリタへと収束すると、次の瞬間には閃光と共に熱波が弾けた。


「カッカッカ!!」


 ガイダルは一度、呼吸(・・)をするとゆっくり手を回し、腰に溜めるように腕を引く。次の瞬間に放った空掌にて自身へ襲いかかる熱波を散らす。


成ったか(・・・・)! ワシの求める強敵(モノ)に!」


 目の前に立つは炎のように揺れるフードコート姿のリタだった。

 “イフリート”の瞳がガイダルへと向けられる。

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