第41話 世界は随分と平和になったらしい
アンバーと別れ、『ブルーム』の中心を横断しつつ、適当に話せそうな奴に声をかけ、他の兵器や戦艦について色々と情報を仕入れる。
今回の帝国の軍事技術は昔みたいに多くの部隊による兵列を広げるモノではなく、積み上げた技術により機動力と攻撃力がかなりの高水準に至っている様子だ。
帆船にカノン砲を積んでイキってたのが骨董品になるくらいに今の戦艦は桁が違うらしい。
「ある意味、『ミステリス』は噛み合ったか」
こちらの主戦力は『魔女』と『使い魔』と言う“個”だ。
『ミステリス』が圧倒的な大多数で攻める事が出来てもあの火力を前にすれば数の優位など全くの無意味。海から一方的に地形ごとふっ飛ばされて終わり。
内陸への干渉は警戒から遅々として進んでいない様子だが、時間の問題だろう。
調べれば調べる程、技術差が大きい。しかし、『帝国』には無いモノをこっちは持っている。それを上手く使って敵を“情報の霧”に放り込んでようやく、対等か。
「それも踏まえて、やっぱガンズとガイダルの爺さんだよな」
あの二人だけは別格と言っても良いだろう。
未だに【海神】と【魔拳神】を名乗ってるトコを見るに、世界でも三指に入る戦力で間違いない。
逆に考えればそんなモンを島国に送って来るって事は――
「ハハハ」
世界は随分と平和になったらしい。
“ハンニバル。クソくだらねぇ講釈たれてねぇで、とっとと指示を出せ”
“司令官さん、これが新メニューね!”
“司令官様……皆の命を救いたいと思うのは……おかしい事なのですか?”
「……少しだけ橋を渡るか」
オレはやけに盛り上がっているカッター勝負を見ている一人の兵士にさり気なく声をかけた。
「よう」
「ん? おう、お前も賭けに来たのか? っていうか……お前警邏班か?」
「サボりだよ。この任務は娯楽が少なねぇからな。楽しそうな様子だったんで、腹くだしたとかって離れた」
「良い手だな。ここの食べ物は合う合わないがあるらしいぜ。生で食べるなってお達しが出てる」
「ハハハ。ソイツは有益な情報だな」
と、少しだけカッター勝負をソイツと眺める。
「クッソ、大穴はCチームかよ! リアン艦長のトコは面倒な規則が多いって言うが……その賜物か?」
「皆必死だな。景品でもあんのか?」
「ケーキだよ。ウチの艦長がお菓子作りが趣味でな。1位のチームがホールケーキ総取り。2位以下は何もなし」
「そりゃ、大事だ」
行軍での甘味は貴重も貴重。似たような栄養は携帯食からも摂取出来るが、美味いモンから摂りたいのは何時の時代になっても変わんねぇな。
……アレは変わったか?
「やっぱり、今回も居るのか?」
「あん? なにが?」
オレはこっちの言葉を話半分で聞いている様子を見てからその事を聞く。
「『強化兵士』だ。今回の遠征に何人か居るのか?」
「ハンニバル。次は【海神】と戦るんだろ? 俺も連れてけ」
「ハハハ。お前は陸戦だ。サンダーとエクエルも前線に出るからな。護ってやれ。得意だろ?」
「……」
「乗り込み戦にはならないんだよ。逆にそうなったらこっちの負けだ。カノン砲は近づけば近づくだけ命中率が上がる。だから――」
「誰も志願したがらないんだろ?」
「まぁな。だが【軍神】が陣頭に立つなら話は別だ」
「……『連合軍』なんてクソの集まりだろ。ここまでする意味なんてねぇ」
「クソの集まりでもお前らみたいな奴が居る。師匠はオレを『連合軍』に行かせた。その意図をオレは理解しているし、オレしか出来ないと思ってる」
「……どんだけお人好しなんだよ、お前は」
「ハハハ。そう評価してくれるのか?」
「テメェと付き合えば嫌でもそうなる」
「そうか。なら作戦は成功だな」
「なんのだ?」
「六道天那にオレを惚れさせる。オレの人生をかけた作戦だ!」
「はぁ!? 誰がテメェなんかを!」
「ハハハ。まぁ陸戦の方が過酷だ。なにせオレの弟子がオレにも師匠にも出来なかった事をやろうとしてる。だから、エクエルにはオレよりもお前が必要だ」
「……エクエルの周りには龍那もいる。お前には俺は必要ないのか?」
「逆だ。お前が必要だから全部終わらせるのさ。随分と遠くまで来ちまったからなぁ。そろそろ水平線の見えるあの基地に帰りたいだろ?」
「……大馬鹿ヤロウが」
「全員で先に帰って待ってろ。またサンダーの作る『大地蟷螂』の卵黄スープを囲んで食おうぜ」
「……俺はパス」
「ハハハ」
ソレが【軍神】ハンニバル・K・バルカと多くの戦いを共にした【ファング】六道天那の最期の会話だった。




