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魔導軍師ハンニバル  作者: 古河新後


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第39話 鉄の艦が浮く理由

 リタはタラップで繋がる開いた二番艦の側面扉からリアンと共に中に入った。

 中は全て鉄で出来ていた。鉄の扉、鉄の壁、鉄の階段。踏みしめる床も全て鉄だ。

 なぜ、重い鉄が浮いているのか、実際に乗った今でも不思議でならない。


「……少し揺れてる」

「海の上に居るのだから当然でしょ?」


 先を歩くリアンは、変な事を言うのね、と呆れながら先に進む。


「何で鉄が浮くんでしょうか?」


 ふと、思った事を口にしてしまった。すると、リアンは立ち止まり不振な眼を向けてくる。


「貴方……本当に帝国海兵なの?」

「!」


 しまった……コレはしてはならない質問だったか。

 リタはチリッ……と“イフリート”の顕現を考える。


「船が浮く理論は基礎の基礎よ? 当然すぎて忘れる事はあるかもしれないけど、その質問は帝国海兵として相応しくないモノよ」

「す、すいません……」


 『魔女』だとバレたワケではなく、単に怒っている様だ。


「『浮力』よ」

「え?」

「見たら解る通り壁は鉄でも中は空洞でしょ? 艦は何も中まで詰まった“鉄の塊”と言うワケじゃない。だからこそ、水を押し退ける抵抗力を利用して浮いてるってわけ」

「……?」

「水面に落ちた葉っぱを見たことはある?」

「あります」

「原理はそれと同じ。水は空洞のある物質じゃないから、受け止めようとする力が作用するわ。ソレに抵抗する質量になると沈んでしまう。葉っぱは浮くけど、石は沈むでしょ?」

「それは……葉っぱが軽いからでは?」

「その通り。海にとって艦は“葉っぱ”になってるのよ。だから“浮く”の」


 一通りそう言うとリアンは再び歩き出す。細かい原理はよく解らないが、本当に魔法は使われていないと言う事だけはわかった。


「お、艦長どうしたんですか? 知らない男を連れてますけど」

「ウェンツァイ、彼は技士志望の新兵よ。名前はリタフ」

「技士志望か。俺はウェンツァイ。二番艦の技士統括長だ。ウェンチーフって呼んでくれ」

「ど、どうも」


 ウェンツァイより求められた握手にリタはぎこちなく応じる。


「はっはっは。そう緊張しなくてもいい。技士が増えるのは良い事だ。特に船の技士は退役してからも働き先が絶えない。お前さんは良い選択肢をしてるぜ、リタフ」

「ウェンツァイは軍を止める予定は無さそうね」

「そりゃ当然さ艦長! 技術の最先端を行くのが帝国軍ですからね! 時代の先頭を見れる特等席をそう簡単に降りるヤツは居るんですかい?」

「貴方の学ぶ意欲にはいつもは助けられてるわ」

「ベテランが必要でしょう。特に艦長の技量に着いていくには俺達じゃないと無理ですよ」

「ええ。これからも期待してるわ」

「って事で、リタフ。配属はリアン艦長の下に来い。技術不足でも俺がきっちり仕上げてやるよ」


 作業の続きに戻るウェンツァイと別れて、リアンの案内の下、先に進む。時折すれ違う作業員と挨拶をかわしつつリタは艦の更に奥――静かな鳴動を感じる部屋の前までやってきた。


「ここが機関室よ。言わば艦の心臓部ね」

「心臓……」


 手動のロックを特定の手順でリアンは外してキィ、と少し軋んだ鉄扉を開く。

 中は通ってきた通路よりも更に狭い……と言うよりはごちゃごちゃした印象を受ける。

 歩けるだけの通路は確保しつつも、壁や天井には何がどうなっているのか解らない程に鉄が絡み合い、通り道となる足場が上にも設置されていた。無論、作業する人も何人か居る。

 フシュー! となにかが吹き出す音と、ゴウン……ゴウン……と重く低い音がどこからか響いていくる。


「リタフ、こっちよ」


 思わず見とれていると、リアンが更に扉で隔てた場所へ案内した。


「これが艦全体のエネルギーを賄う『Aエンジン』よ」


 無数の細い線に繋がれた三つのキューブ。人の頭ほどの大きさで、表層に光が走る様に発光してる。


「これで、艦のあらゆるエネルギーを賄ってるわ。実際に動いている所を見るのは初めてでしょ?」

「は、はい……」


 理解は出来なくても、コレを壊せば鉄の船は完全に沈黙する。“スプリガン”さえも退けた船の力がこんなに小さなモノから生み出されていたとは……


「はい、ここまて。部屋を出て」

「あ……はい」


 “イフリート”で焼き壊そうと考えたが、リアンの静止に思わず従った。


「ここは、特に艦の機密だから技士長の立ち会いか私の許可がないと入れないの。だから、今回は特別よ」


 キィ、と閉じられた扉に無数のロックが再びかけられる。


「…………」

「もっとじっくり見たいなら、海軍技士になって機関部配属になりなさい」

「は、はい……」

「次は甲板に行きましょう。機関部は空気がこもってるから息継ぎにね」

「わかりました」


 リタは機関室の出口に向かって歩き出すリアンの背に続きながら、自分が今いる場所がどれ程、敵にとってのウィークポイントであるかを考えた。

 この場で“イフリート”を解放すれば敵の戦力を一気に削る事が出来る。ここを破壊する事が出来れば――


「…………」

「? どうしたの、リタフ」


 リタは一人で戦える程に心が戻ったワケではなかった。

 アンバーの率いる科学戦隊によって植え付けられたトラウマは簡単に克服できない。


「……いえ」


 今は……確実にこの情報をハンニバルに届けよう。

 リタはポケットの記憶石を強く握り、リアンの後に続く。

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