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魔導軍師ハンニバル  作者: 古河新後


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第32話 予定は変えない

「以上がナギから聞いた『宮殿』の判断だ」


 早朝。

 五人は起きて早々に、ハンニバルより昨晩のナギが持ってきた“十人会議”の結論を聞かされた。


「アルトにネールが……それにラディア様まで」


 全員と面識があるラシルは、その実力も知っていた。ブルームを奪還する人選としては悪くない選定である。


「オレはラディアの事は知ってるが、他二人は知らん。二つ名で大体は察せるが、どんな奴らだ?」

「【古鉄】アルトは『宮殿』守護の責任者よ。彼女の使い魔は広く反応性に秀でた“群”ね」

「群か。なるほどな」


 ラシルの情報からハンニバルは【国母】がアルト選んだ理由を悟る。


「【雷鳴】ネール様は私も面識がある」


 ミカが思い出す様に告げた。


「どんなヤツだ?」

「とにかく“速い”に尽きる。普通の人間の速度を1として、鍛練した『魔女』が5とすると、ネール様は50だ」

「ほー、そりゃ速ぇな」

「参考にならないレベルだ。それに加えてネール様は常に退屈しており、何か刺激を求めてる」

「ガイダルの爺さんとどっちが強い?」


 ハンニバルの質問にミカは反射的に出る本心を口にしようとして、止める様に間を置く。そして、


「ネール様だ。あの男は何も対応出来ずに倒されるだろう」

「ハハハ。なるほどな」


 『魔女』ならそう言わざる得ないとハンニバルは察する。


「そのお二方に加えて、ラディア様も赴かれるのですよね? それでもブルームの偵察は必要な事なのですか?」

「ああ。その予定は変えない」


 モナの懸念は理解できるが、今後の事を考えて敵の情報を得るのは必要最低限の行為だった。


「けど、しばらくは隠れるのよね? 皆の傷もまだ完全に治ってるワケじゃないし」


 リタは現状に置いて、ラシルとミカの怪我は無視できないモノであると告げる。

 薬草で治療は早めているものの、ラシルは片眼の距離感にまだ馴れず、ミカはガイダルに砕かれた拳はまだ治りきっていない。

 キャスに関しては“バエル”に支えてもらっており、動きに支障はなかった。


「でも……あたし達さ。捕まっちゃうんだよね? 出てったら」


 あっ……と他四人は上位『魔女』三人の出撃と言う話題に引っ張られて、その事が頭の隅に飛んでいた。


「ハハハ。その件はオレとナギで何とかする。お前らは別に狂ってない。ただ、すこーしばかり“現実”を知っただけだ」


 今回の出来事が後の『ミステリス』にどの様な影響を及ぼすのかは解らない。だが、今は戦争に勝つ事だけを場の全員が考える。


「ハンニバル。ネムリアは『星丘の樹』を管理する魔女よ。補足されたら(・・・・・・)間違いなく逃げられないわ」

「何となく解るよ。だから予定をラディア達とズラす」

「ズラす?」


 首を傾げるキャスにハンニバルは、


「今日、ブルームに侵入する。後々を考えるとタイミング的には今がベストだ」





 港街ブルーム、内陸橋前。


「うぐぅ!?」

「がっふ!?」

「ほげぇ!?」


 ハンニバルは、モナと“麒麟”にブルームの入り口付近を巡回している兵士を三人仕留めさせ、物陰にズルズルと引きずる。


「よしよし、体格も良い感じだな」


 三人の兵士は身ぐるみを剥がし、口と目を塞ぎ、身動き出来ない様に縛り上げた。

 魔女五人は兵士の装備を物珍しげに見つつ、ハンニバルは昔と文字が変わってない事を確認する。


「この細長い木と鉄の棒ってなんだろ?」

「キャス、それはあんまり触らない方が良いわ。民を多く殺してるモノよ」

「ええ!? これで?」


 ラシルは逃げる民に殺す際に向けられた武器を見て憤慨する。


「簡単に破壊できそうな物だが……」

「ミカ、侮らない方が良いわ。私もソレに攻撃されたことがあるから」


 モナはラシルを助けに来た時に、ソレに撃たれた事を思い出す。


「よし、それじゃ潜入メンバーは着替えろ。巡回が交代制ならモタモタは出来ないからな」


 ハンニバルはそそくさと軍服に着替える。しかし、魔女五人はじーっと見たままで固まっていた。


「ん? どうした?」

「ハンニバルさんはバエルを抱えて向こうを向いててください。着替えるんで」

「ハハハ。そりゃ失礼」


 キャスに、見張りの“バエル”を抱えさせられたハンニバルは五人に背を向けて座った。






「敵の航空技術は、広域燃焼を可能にするか」

「空を取られる……思った以上に厄介な状況です。艦はもう少し沖合いに離した方が良いのではないでしょうか?」


 三番艦艦長――リアンは、ガンズの元へ調査報告書を持って、戦艦の布陣に関して相談に赴いていた。


「提督でさえ無事ならば、帝国海軍はいくらでも立て直せます。どうか御身を大事に……」

「布陣は変えん」

「……提督!」

「リアン、そこがお前とジドーとの差だ」


 ガンズはリアンが船乗りとして未熟な様を指摘する。


「港に居る時点で嵐が来ると解れば船は出さない。だが、航行中に嵐に遭遇したのならば、お前はどうする?」

「……停船し錨をおろします」

「生存率を考えた良い選択だ。だが、その判断は時間と状況を無駄にする。嵐を利用すれば更に先へ進み、船は予定よりも早く航路を終える」

「……リスクに似合いません。船や船員達を失うリスクがあります」

「そのリスクをリスクとせずに進む艦と乗組員がワシらには居る。嵐の度合いを見間違うな。艦の行動は軍全体の士気に影響する」

「……はい。軽率な発言でした」


 正体不明な敵の兵器に恐れを抱いてしまったが……【海神】にとっては数多に経験した1ページに過ぎないのだとリアンは再認識させられた。


 その時、提督室の扉が開いた。

 現れたのはジドー。彼は魚の干物を手土産にガンズの元を訪れた。


「よう! 提督、戻ったぜ!」

「! ノックも無しに、失礼ですよ! ジドー艦長!」


 ジドーは目くじら立てんなよー、とリアンへはリンゴを投げてキャッチさせる。

 提督にはコレね、と干物を近くの壁に引っかけた。


「構わん。調査結果を聞こう。どうだった?」

「海流なんかは特に気になる所は無かったっすよ。ぐるっと回って大陸じゃなくて島って事は確認できました」


 ガンズはジドーへ島周辺の調査を海回りでさせていた。


「港も三つくらい確認したっす。それと幾つかヤベーモンを見つけました」

「危険な物か?」

「海からも確認できる程にでかくて光る樹に、宙に浮かぶ宮殿とか」

「宙に? こちらからは確認できませんが?」

「あぁ、山の向こうにギリ隠れる感じで浮いてるんだ。て言うか、バカでかいクレーター上に浮いてる。そこに向かって、ソリを引っ張る馬とか居たぜ」

「どうやってソレを確認したのですか?」

「そりゃ、上陸したに決まってんだろ。ジドー海賊団はとにかく行ってみるがモットーなんだよ」


 自分達の動きによって状況が大きく傾く事を理解してない様子のジドーにリアンは頭を抱える。


「提督、コレはオレの勘っすけど……その宮殿が敵の根城っすよ。まぁ、陸路は全くの不明ですけどね」

「そうか」

「それと、一番気になったのは海からの視線を常に感じた事っすね」


 海からの視線。それは本来なら気のせいと言える事だが、この島周辺ならばそう言う生物が居てもおかしくはない。


「…………そうか。やはり常識が違うな」

「是非とも観光してみたいっすね。実に残念だ」

「後に記録師と測量士を四番艦に送る。此度の調査内容を詳細に記録せよ」

「了解っす」






 ブルーム沖合い。


「…………」

「ね、ね? 変な鉄が浮いてるでしょ? ステルス様」

「……そうね。どうりで……“デビルフィッシュ”が暴れるワケね」

「どうします? クラーケン達を誘導してバクッとさせますか?」

「ブルームにも大きな被害が出るわ。私は一旦、『星丘の樹』に戻る。『宮殿』から何か通達が来てるかもしれない。マレード、貴女は距離を置いてブルームを見張ってて」

「唄っていい?」

「ダメ」


 序列8位【深海】ステルスは人魚のマレードにそう言うと、ブルームで何が起こっているのか確認するために、港街『星丘の樹』へ向かった。

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