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魔導軍師ハンニバル  作者: 古河新後


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第25話 魔女VS追跡部隊

 帝国は『ミステリス』を残して世界の全てを掌握し、その支配域は全世界に及ぶ。


 しかし今も尚、完全な平定には至っておらず、内乱の鎮圧や危険思想者の排除などの必要性から帝国には特定の任務に特化した部隊がいくつも存在していた。

 中でもペルキナ部隊のような少数精鋭となる部隊には特別な資格が求められる。


 ペルキナ部隊に選ばれる基準。

 それはどんな劣悪な環境にも適応し、敵の痕跡を見落とさず、泥や灰にまみれても標的を追走する。

 肉体的にも精神的にも常人を越えるモノを持つ者だけが配属される部隊である事からも、あらゆるイレギュラーに対して即座に適応する事が可能だった。

 それは隊員の一人一人が、である。






 “バルバトス”はミカの命令に従い、向かってくるゲイツと他二人に対応する。

 先端が尖った爪のような指は岩を削る威力がある。人間が受ければ肉と骨を容易く削ぐ。


「危機感覚が全力で警告してやがるぜ!」


 ゲイツは笑いながらそう言うと、前に滑る様に身体を反らして“バルバトス”の攻撃を避けるとその股下を抜けて背後に出る。

 “バルバトス”は後方へ抜けたゲイツへ振り返り追撃――


「うっは♪」


 ゲイツは立ち上がり向き直ると引っ掻く様に振るわれた攻撃を側面へ倒れる様に転がって避ける。“バルバトス”はそのゲイツを更に追いかける様に向き直るが、


「おいおい、ダンスは四人でやってるんだろ?」

「無視は辛いぜ」


 遅れた二人がナイフを“バルバトス”の首と腹部へ差し入れた。しかし、感覚は空洞に針を指した様に何も手応えがない。


「マジもんのバケモノじゃん」

「どういう原理で動いてんだか」


 “バルバトス”は纏わりつきを振り払う様に腕を振り回し、ナイフを刺した二人は咄嗟に距離を取った。


「けど、解りやすいよな」

「全くだぜ」


 “バルバトス”はゲイツではなく、距離の近い二人を狙う。拳を振るうも、フェイントもない単調な動きなど彼らからすれば、子供を相手にするも同然。避けるのは雑作もなかった。


「……やはり、“バルバトス”だけでは無理か」


 明らかに翻弄されている様子にミカは憤慨した。

 “バルバトス”の本懐は“連携”にある。ミカと共に戦う事で的確な指示を細かく更新し、それに伴い複雑な行動も可能とする。

 二体一身。それが“バルバトス”の本領だ。

 しかし、現状はミカが身を出せば後ろで控えている敵の攻撃に晒されてしまう。


“時間は私達の敵よ。リタの救出に時間を掛ければかけるほど、私達が危険になる可能性が高くなる。敵がその戦術を取ってきたら迷わず――”


「――! ナイフを捨てろ!」


 静電気が場に走る。ゲイツの言葉と二人がナイフを手放すのはほぼ同時だった。電撃が走るが、手放したナイフへと引っ張られ直撃を間逃れる。


“残りも投入するわ。それで敵の全戦力を全員の“使い魔”で対応する”


「消える馬に……出たな『巨人』!」


 スゥ……と姿を現す“麒麟”とその後ろから崖道を塞ぐほどの大きさを成した“スプリガン”が片膝を着いて現れた。






「ゲイツ、引くぞ」

「逃げろ、逃げろ」

「あ、オメーら判断が早ぇよ!」


 場の維持に三人は拘らない。“バルバトス”“麒麟”“スプリガン”の三体に背を向けて後方へ駆け出す。


「逃がすな! “バルバトス”!」

「“麒麟”! 行って!」


 “麒麟”が追撃に駆けようとしたその時、後方から爆発音と共に飛来した網が纏わりつくとそのまま縺れて倒れた。


「流石」

「はっはっは。愛してるぜー、マードック」

「お前ら待てって!」


 “バルバトス”が追う。しかし、何かに躓いた様に転んだ。


「ペルキナ部隊名物の捕縛陣だ。動けば動くほどそのワイヤーは絡まるぜー」


 ゲイツと二人は“バルバトス”の攻撃を回るように回避しつつワイヤーを絡ませていた。

 足を縛られた程度では引きちぎる出力を持つ“バルバトス”であっても関節の起点を抑えられる絡まり(・・・)であったのなら、力の入れようがない。


「おーっと――」


 すると、三人に影がかかる。

 “スプリガン”が握り潰そうと腕を伸ばしてきた。しかし、その動きも顔に放たれるロケットによって阻害される。


「隊長! 2時の木の影と11時の岩影です!」


 “麒麟”と“バルバトス”に指示を出した声から、ゲイツはモナとミカの大体の位置を割り出していた。

 周囲の音を聞き分ける。これもペルキナ部隊に必要なスキルである。


「バケモノは砲術兵が牽制しろ! 他は前進しつつ2時と11時の遮蔽物に掃射!」


 覗き見る事さえも出来ない弾幕に、位置が割れた11時(モナ)2時(ミカ)は“使い魔”に指示を出す事も出来ず隠れ続けるしかない。

 唯一“スプリガン”が重々しい身体を立ち上がらせる――


「お前は立つなって」


 ロケットが飛ぶ。“スプリガン”の崖際の足下へ着弾させると、立ち上がりかけた足は崩れ落ちる足下に再度膝をつく。


「バケモノの動きが止まりました!」

「交代で牽制しつつ、前進! 投擲距離に入ったら『魔女』に手榴弾を投げ込め!」

「了解!」


 ペルキナ部隊は少しずつ前進し、三人の魔女を確実に詰めて行く。


「……ここまでは――」

「……作戦通り――」

「……キャス、任せたわよ」


 注意が三人に向き、ペルキナ部隊が前に出た事で後方に縛られているリタから距離と意志が離れた。

 その様子を主戦場となっている場所の更に崖上から伺っていたキャスは、


「行くよ、バエル」


 キリッとする“バエル”を抱えて、勢いよく飛び降りた。






 ペルキナ部隊は、三人の『魔女』と“使い魔”への牽制に集中する。

 無論、目の前で起こるイレギュラーにも常にアンテナを張るが、何よりも『巨人』(スプリガン)の存在が無視出来ないモノだった。

 彼らの中で後々の進行作戦において『巨人』(スプリガン)を使う『魔女』(ラシル)は“八咫烏”と同等に危険な存在であると理解している。

 故に、この場に居るのなら確実に始末しなければならない。


「バルバトス! 一度下がれ!」

「麒麟! 一度消えなさい!」


 ミカとモナは身動きの取れない“使い魔”に指示を飛ばすも、自分達を狙う銃声によって声がかき消されて上手く行かない。

 本来は常時出現型である二体は、至近距離で命令をして動かすのが主流の“使い魔”。故に、飛び道具のように使うことはこの様な弊害を生む。

 魔力の及ばない位置まで離れれば強制的に消えるのだが、現状はそこまで距離を取れば戦場から離れる事となってしまう。


「スプリガン! 二人の盾に――」

「! 10時! 崖上だ!」


 この銃声下でも声を的確に聞き分ける事はペルキナ部隊全員が出来る事だった。

 崖上から“スプリガン”に指示を出すラシルの位置を特定すると、そちらへも牽制が行われる。


 徹底的に三人の『魔女』へ注意が向いている時も、ムートと後方の数人は背後のリタにも注意を向けていた。

 敵の狙いが明らかに囮として動いていることは明白。ソレにあえて乗り、敵を――


「うっわぁー! バエルー! 着地させて!」


 釣る。


「ウィルキシュ、ズーカー、来たぞ! 一緒に来い!」


 ムートは“バエル”をクッションに着地したキャスの姿を背後に見つけ、一番近い部下二人に指示を飛ばす。


 誰よりも“奇襲”を理解している我々にその手は通じん。

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