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魔導軍師ハンニバル  作者: 古河新後


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第24話 彼女達の作戦

「もー! ホントにハンニバルさんの人でなしー!」

「少しは『ミステリス』の事を思っているかと思ったが……」

「あの考えは少し共感できそうに無いわね」


 崖の上まで“スプリガン”に上げてもらったキャス、ミカ、モナはハンニバルの判断には未だに納得できなかった。

 自然と不満が漏れる。


「…………」

「ラシルちゃんもそう思うでしょ!?」

「私はハンニバルの言う事は“理”に適ってると思ってるわ」


 ラシルはハンニバルに刑を執行する紋章を持つ関係上、その動向には常に気にかけていた。結果として誰にも教わらなかった“合理的な視点”も理解できる様になって来ている。


「今、この瞬間は……私達にとって未知の状況よ。敵の能力も、それほどの力を持っているのかも想像できない。正直、リタを救う事でどんなリスクが生まれるのか……全く分からない」

「それでも助けなきゃ!」


 目の前にどれだけのリスクがあるのかをキャスは理解していない。それはリスクを考える事に置いては明らかに未熟な思考。

 しかし、それ故にこの場でも失われない、『魔女』として他者を想う“誇り”は無くしてはならないモノだった。


「ええ。私達は『ミステリス』の魔女よ。民も仲間も絶対に見捨てない」


 ハンニバルに頼れば敵に勝てるかもしれない。けどその結果……『魔女』で無くなってしまったら戦いに勝利する意味がなくなってしまう。


「私達の戦いで敵を倒さなければならないわ。これが正しいと……ハンニバルに認めさせる為に」

「ああ」

「そのとおりね」

「よーし! リタさんを助け出して、みんなで帰ってハンニバルさんにあたし達の力を見せつけよう! ほら助け出せたじゃーんってさ!」

「はは、そいつは良いな」

「その時は目一杯謝ってもらいましょう」


 キャスのおかげで程よく士気は上がった。しかし、そう容易くは行かない事はラシルも理解している。


 最悪、私が……皆を護らないと……


 序列最上位の者として、いざという時は自分が命を賭けねばならぬと心に秘めた。






「運が悪かったな、ペルキナ部隊。ガイダル様はさっき、占拠した鉄鋼の街へ工作作業者と行っちまったし、『博士』は研究に没頭してて二日は実験室から出て来ない」

「いや、全然構わねぇよ。戦車も居りゃ『巨人』も吹っ飛ぶだろ」


 ペルキナ部隊は占拠したブルームへ例の件を報告すると、即座に戦車一台と小隊を編成し“機甲小隊”としての増援を派遣した。

 行軍は戦車の速度に合わせてなので遅めだが、それでも夕方になる前には待機している部隊と合流が出来る算段である。


「ん? なんだありゃ?」


 交通拠点を横切り、崖道への経路に入った時だった。


「おいおい……マジかよ……」


 木が倒れて道を塞いでいた。

 『巨人』に対して戦車と言う戦力は外せない以上、どうにかして退かさなければならない。


「仕方ねぇな。誰か工作小隊を呼んできてくれ! 木を切って、戦車で引いて道を開ける」


 仕方無しに機甲小隊から一人が離れて工作小隊を呼びに戻る。

 ペルキナ部隊の二人は無線で一番車に連絡を入れた。


「隊長、こっちは木が倒れて道が塞がれてます。そちらへ向かうのは数時間遅れそうです」

『…………リンド、ショーンよく聞け、今すぐ機甲小隊と港拠点まで退避し、“機甲中隊(・・)”を要請しろ』

「まさか……」


 目の前の倒れた木は意図的なモノ……


『その“まさか”だ。ここからは海も見える。可能なら戦艦からのアプローチも要請してくれ』

「りょ、了解!」


 『巨人』の魔女が攻めてくる。ムートは念を入れての増援要請を行った。






「…………」


 崖の上から“麒麟”と共に姿を消し、下に布陣するペルキナ部隊をモナは確認する。その奥に拘束されて倒れるリタの姿も。


「…………」


 踵を返して、トーン、トーン、と僅かな凸部に足を駆けて移動すると、作戦地点で準備する三人の元に合流した。


「モナ。リタは?」

「生きてるわ」

「ほっ……」

「良かったぁ……」

「でも……ひどい怪我に身動き一つ出来ない様に拘束されてた」


 その言葉に場は一層、早く助け出さねばと言う意志が強くなる。


「敵の足止め出来たわ。それでも持って数時間。この間に、リタを助けて私たちも離脱するわよ」

「ああ。やってやる!」

「ラシルちゃんの作戦は絶対に上手く行くよ!」

「後は敵が上手くこちらの思惑通りに動いてくれるかどうか……」


 モナの懸念はもっともだった。

 ラシルの中には葛藤が未だ残る。

 本当にこの作戦で良いのだろうか……? もっと良い作戦があるのでは――


「ラシルちゃん」


 その考えは、キャス、モナ、ミカの視線を前に振り払った。


「行くわよ!」






「総員、警戒態勢! 敵が来るぞ! 増援が合流するまで交戦中だと思え!」


 ムートの指示に部下全員が戦意を纏う。

 一番車を中心に部隊を緩く展開。“スプリガン”の出現を警戒しての布陣である。

 各々の役割を十全にこなす事で、ペルキナ部隊は『猟犬』として数多の敵を捕らえ、時にその喉笛を喰らい千切って来た。

 その牙は衰えることなく、今も研ぎ澄まされている。


「! 隊長! 前方! 距離200! “鎧”です!」


 最初の接触と同じ様に“バルバトス”がペルキナ部隊を目指して駆けてきた。


「やはり助けに現れたか! 砲術兵は射撃準備! 捕縛連携3! 行け!」

「了解!」


 ムートの命令が飛び、ゲイツを含む三人の隊員が“バルバトス”へ向かって(・・・・)行く。


「三人だと? その程度でバルバトスが止まるものか!」


 ペルキナ部隊より見えぬ様に木の影に隠れるミカは声を張り上げる。


「バルバトス! 目の前の奴らを蹴散らせ!」


 『狩人』の名を冠する“使い魔”が『猟犬』の先遣とぶつかる。

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