第三話「相棒との出会い」
人は、自分の目の前で大切なものが奪われた時、やはり誰かを恨んでしまう。自分でも神でもなんでもいいから、恨みたいのだ。心が壊れてしまうから、目の前の現実を受け入れたと思われたくないから。
でも分かっているんだ。その恨みは日々に溶けていってしまうことを。楽しさに飲み込まれて、夜が明けるように、忘れてしまうことを。それが、そのことが、俺は悔しくて悲しい。だから、
ーーだから?ーー
「心に刻んで、忘れない、よ。遺伝子に組み込んででも忘れない。だから安心して待っててくれ。」
多分同じく落ちてる女の子に向かって、聞こえるかわならないけど、そう答えた。
そして、、もう一つ言ってやらないといけないことを思い出した。だから落ちる中、屈辱的だが上を向き、多分見えるし、聞こえるだろうクソ野郎に向かって言った。
「最後に、落ちるのはお前だ、クソ野郎。」
あまり、立ててはいけない指の真ん中を立てて。
ーそして俺は地面に叩きつけられた。ーー
落ちている感覚が不意に無くなった。通常それは痛みを伴うはずだが、その来るはずの痛みは、来なかった。なぜなら、
「そりゃ死んでたら痛いわけねぇよな」
叩きつけられた体をゆっくりと起こし、周りを確認した。どうやらまだ白い空間からは抜け出せていないらしい。この無限のように続く白い空間は、本当に誰かいないと自分を見失ってしまいそうな気持ちの悪い雰囲気だった。
あのクソ野郎が言ってたことが確かなら、ここが異世界のはずなんだが、、まぁ、あのクソ野郎のことなど信じたく無かったので、それはそれで、いい。
いいのだが、そうなると、なんで俺は異世界に行けてないんだ?何か条件でも、、というか、
「ここに来てどれくらいたったんだ?」
ーー遡った時が元に戻り、そして。ーー
「意伝子どうすっかな。」
ーーそう言った時、また見計らったようなタイミングで目の前にロボットが現れたーー
人が作った鉄の塊であり、魂が宿らない物。
その印象をそのまま体現したような見てくれをしたロボットが、そこに現れた。
「意伝子を、早く決めろや、ニンゲン。」
前言撤回だ。魂が宿ってないと説明がつかない言い方だった。この白い空間はいい奴が一人くらいしかない。
「何が一人くらいしかいない、だニンゲン。俺もいい思い出なんてないし早く充電したいけど、ここでお前の相手してやってンダ。だからからさっさときめろボケ。」
心が読まれるのはやはり好きではない。あとこのロボット、も、、いやなんでもない、ロボット君はいいヤツだ。うん。すごく。ね?だからその物騒なものをしまってくれ。流石に死んでるとは言え、銃やミサイルを向けられると、心がもたない。
だからロボット君。意伝子ってどうやって決めるのか聞いてもいいかい?
「、、しょうがないナ、あの女神に感謝しろヨ?まったク。、、念じてこの意伝子がいいって言エ。そしたらそれをくれてヤル。」
答えてくれたことに安堵の気持ちはあったが、最初の方はなぜか音がブレて聞こえなかった。俺への恨みてわなければいいのだが。だけど今はそれを聞くよりも言われたことをやってみないといけない気がした。
「時間を操る意伝子がいい。」
「むりダ、ムリムリ。てかわかってんダロ」
「、ワープの意伝子がいい。」
「あーそれもだめダネ、ざんネン。」
やはりダメだった。時間が経ちすぎてる。もう多分他のほとんどの強い意伝子が取られていってる。
もっと早くここに来ていれば、、そう思うより早く宝物が溢れてきて、そんな思考には至らなかった。
あの子を連れ出すためにも、家族と友達のためにも強い意伝子を、ーー
もらわなくてば、そう考えようとした。
しかし、そう考えるより早く、目の前のロボットから声が聞こえた。
「、そうゆうことなラ、話は別だニンゲン。お前は他のやつとはちょっと違うみたいだナ。だから大切なことを教えてヤルヨ。意伝子は、力は、成長スル。意伝子には、無限の可能性があるんだ、その可能性で人間がどうなるかを、あのお方は見たいらしいしナ。だからこソ、『意志』が大切なんダ。どうなりたいか、どうしたいかガ。ナ。」
どうなりたいか、どうしたいか、
その問いは前世で、兄からも聞かれた気がする。
自分の人生の大事な選択を決める時、兄はそう言ってくれた。あの時は、この言葉の意思が、分からなかった、だけど、『今』ならなんとなくわかった。
「どうなりたいかを決めるってことは、自分の覚悟を決めて、前に進む一歩を踏み出すってことだ。どうしたいか決めるってことは、、自分とみんなを安心させるってこと、なんだと思う。」
そう自分の意志を伝えた。
それを、不思議な、ある意味機械的な間があって、
「、、、コレハ。なかなか、いいな考えだと思うゾ。千里。そして、ナ。それを考えた上で、どんな意伝子が欲しい?ニンゲン。」
と、しっかりとした音で答えてくれた。
それが、嬉しく感じた。
前世でしっかりと、兄に言えなかった言葉が、言えたような気がしたからかも知れないけど。そう考えると、このロボットに感謝しないといけない。
大切な兄との思い出やを思い出させてくれたのだから、、だが、今の言葉に、引っかかる点があった。
「なんで、俺の名前を知ってる?」
俺は一度も名前を言ってない、前世でも今でも会ったことなどないのだ、そしてそれだけならまだしも、言葉の前後があやふやだった。
それを不安に思い、
「どうして」と聞こうと、千里が声を発した。が、その声は暗闇に消えていった。そう、暗闇に。
言葉は、起こった事態に、文字どうり吸い込まれていったのだ。
「ーっ!」
ロボットの後ろの白い空間が、ブラックホールのようにぽっかりと空いた。そしてやはりブラックホールのように、喰らうように吸い込み出した。
「これハ、やりやがったナ。このまま俺ゴト、異世界に送るつもりカ。チクショウ。おいニンゲン!早く意伝子を叫べ!今のお前なら、意伝子ヲ取得できるはずダ!だから早ク!異世界に送られる前ニ!」
ロボットの最後の声は聞こえなかった。
そして、生まれた黒い穴は、白い空間を喰らい尽くす勢いで全てを飲み込んでいった。
耐えていた足元の白が、崩れて黒になってゆく、
つまり俺ももう時間がない。
それを理解した瞬間、頭が高速で回り出した。
また、また失うのか、俺は。幸せだと思ったところを全て奪われるのか。また、ありがとうも言えずに奪われるのか、いつも、いつも!俺は!
自分の実力不足に怒りが湧き、せめて何かできることはないかと、抗おうとした時だった。
ーーふと耳元で優しい声が聞こえた気がした。ーー
ー大丈夫だよ、と。ー
その声を聞いた瞬間、安堵と使命感が湧き上がってきた。やらなくては、と。怒りが何かに変わった気がした。
ーー決意が安心を生むなら、安心が決意を生む時だってあるのだ。だからーー
「全部手に入れたい、!何も失いたくない!友達も家族も、約束も全部守れるような意伝子が欲しい!だから、だから、よこせよ。クソ野郎!」
強欲、傲慢、それを大罪と呼ぶのだ。
だが時に思う、願うことを、叶えたいと思うことを
大きな罪と、していいのだろうか。それをもし大罪と呼ぶのなら、俺は大罪人でいい。大罪だろうがなんだろうが、自分の意志を、願いを叶えたい。
もう二度と失いたく無いから、
「大罪上等、もう何も失わないための力を。」
「よこせ」そう言おうとしたが、もう体の大半が吸い込まれて声が出せなかった。だから、最後に起きたことなど分かるはずもなかった。
体のなかの遺伝子が、新たな意伝子と融合していることになど。
そして暗闇が白い空間を侵食していって、なんの存在も残っていない空間を、上からの音が唯一祝福していた。
新たな子どもの誕生を祝うように。
ーそして今度こそ俺は異世界に飛ばされた。ー