猫の声
「現代社会において蔓延する非効率への対策に人々は消極的である。」
朝、出勤前の慌ただしい時間帯。私はスピーカーから流れる難しい話をBGMに、キッチンで朝食の準備をしていた。
足元では飼い猫がニャアニャアと言いながらまとわりついている。
「それを解消する技術は既に整っている。」
なおも流れる話を聞き流しながら弁当箱にご飯とおかずを詰めた。
「少々強引な手を使ってでも、技術を可能な限り導入し効率化を図るべきだ。」
そして、足元で鳴き続ける猫のために皿にフードを盛りつける。
「さもなくば人類の発展はますます遅くなるどころか、衰退の可能性すらある。」
「はい、ご飯だよ。」
そう声を掛け、フードの盛られた皿を猫の前に置いた。
「・・・ああ、ありがとう。」
スピーカーからお礼の声が響く。
「どういたしまして。・・・にしてもこの子、普段こんな難しいこと言ってたんだな。」
カリカリと音を立ててフードを頬張る猫を見下ろしながら、私は呟いた。
「さて、私は仕事に行ってくるよ。」
「気をつけて・・・」
猫からの返事を聞いた私は、翻訳機の電源を切り家を出た。