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無愛想で、空気が読めない発達障害の彼女と私が、くっつくまでの物語  作者: null
エピローグ 無愛想で、空気が読めない、発達障害の素敵な彼女

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無愛想で、空気が読めない、発達障害の素敵な彼女

こちらのエピローグでこの物語は完結です。


お目通し頂いているわずかな読者様のおかげで、最終部分まで更新することができました。

それに報いれる出来かは分かりませんが、ぜひ、最後までお楽しみ下さい。

 個人的には世界が変わるほどの出来事が起きたと思っていたが、所詮、それは個人の主観にすぎないらしく、実際の世界は一秒、一秒、普段と同じように時を刻んでいた。


 あの後、授業をサボったことで教師に叱られることもなかった。むしろ、静海は担任の教師に謝られたし、聖名は静海を支える良き友人としてお褒めの言葉を貰っていた。


 自分にとってはもはや終わったことで、些細な問題だったのだが、聖名があまりに厳しく言うものだから、一応、教師には謝っておいた。それで教師が瞳を潤ませたときには、本当に困惑してしまったものである。


 生徒同士でもたいした変化はなかった。元々関わりの薄いクラスメイトたちは変わらず距離感を保っていたし、部活仲間は自分の障害のことを知っても態度を変えなかった。


 特に優奈に至っては、『そんなこと』はどうでもいいから、聖名がどんな言葉で告白したのかを聞かせろ…としつこく尋ねてくる有様だった。…もちろん、聖名に口止めされているため、何も語ってはいない。


 あえて変わったものを挙げるとしたら、加賀茉莉花のことだろう。


 彼女は相変わらず自分に対して無愛想だった。しかしながら、誰かが聖名と自分、あるいは自分の噂話をしているときは鬼のような形相でそれをやめさせた。


 茉莉花がしつこく自分に言うのは、『聖名のことを悲しませたら、殺すわ』――という台詞だ。


 そんなことをしたら逮捕だし、そっちのほうがよほど聖名が悲しむ、と返せば、呆れたようなため息を一つ貰ったのを覚えている。


 聖名と付き合い始めて、数ヶ月あまりが経っていた。


 あらゆるものが移り変わる秋を経て、美しさと冷徹さを煌めかせる冬が過ぎ、そして、穏やか春がやって来ていた。


「…やっぱりちょっと待って、聖名」

「えぇ、またぁ?」


 呆れたような声を発する聖名に、無言で何度も頷いてみせる。もう四度目の『待って』だった。


 春休みに入ってすぐ、静海は聖名の実家を訪れていた。


 聖名のほうは度々静海の家にお邪魔しており、彼女の父とも頻繁に顔を合わせていた。


 静海自身にはとても真似できないな、と思わせるほど自然に聖名は大月家に浸透していった。


 そうしているうちに、聖名が自分たちの関係を明かそうと提案してきた。


 父に『上手くやっていけるのか』と不安がられてしまわないかと心配しつつもそれを伝えたところ、父は『なんとなく分かっていたよ』ととても嬉しそうに笑って二人の背中を叩いた。


 そして、今日は、静海が聖名の家にお邪魔する日だった。


 聖名はすでに静海との関係を両親に伝えているらしかった。その辺りに何の躊躇もないのは、彼女自身が黄金色をした家族愛に包まれて生きてきた証拠のような気が静海にはしていた。


「静海ったら、そんなに緊張しなくても大丈夫だってば。今日はお母さんだけだし、とっても楽しみにしてくれていたんだから」

「…どうしよう、期待外れとか思われたら」

「思わないってば、ほら、行くよ」

「わっ、ちょっと…!」


 急に腕を絡め取られた静海は、そのままぐいぐいと蛍川家の玄関まで連れて来られた。


「分かった、分かったよ、聖名。行くから、離して!恥ずかしい!」

「だーめ。逃げちゃうでしょ」

「私をなんだと…」

「こういうことには臆病な人だと思ってます」

「うっ…」


 ああだこうだと言っているうちに、聖名が玄関の扉を開けた。


 玄関先で出迎えてくれた聖名の母親は、とても品のある美人であった。聖名の可愛らしい感じとはあまり似ていない。彼女は父親似なのかもしれないと思った。


 柔らかな表情とウィットに富んだ冗談(静海にはよく分からなかったが)で娘のパートナーを迎え入れた聖名の母親は、少し静海と言葉を交わしただけで、たいそう彼女を気に入った。


「とても面白い子ね、静海さん」と笑う聖名の母親は、気を遣ったのか、挨拶もそこそこに買い物へと出かけた。


 家を出る際、彼女が聖名に言い残した、「あぁ、うるさくしてお隣さんに迷惑だけはかけないように」という言葉の意味は静海には分からなかったが、聖名には理解できたらしく、顔を真っ赤にして大声を出していた。


「ごめんね、お母さんってば、品がないうえにうるさくて」

「そんな、上品でとてもいい人だよ。娘のパートナーが私みたいなのでも歓迎してくれるんだから、間違いない」


 聖名のファンシーな雰囲気の部屋に通された静海は、部屋の窓から見える桜の木を眺めながらそう言った。


「もう、変な自虐しないで」静海の隣に並んだ聖名が少しだけ悲しそうに呟いた。「静海は私にもったいないくらい、素敵な人だよ」


 上目遣いで見上げてくる聖名を見つめ、静海は気恥ずかしさから顔を片手で覆った。


 数ヶ月、聖名と恋人としての時間を重ねて分かったことがいくつかある。


 一つ、意外なことに聖名は、いわゆる『愛の言葉』を口にする際の羞恥に対し、あっという間に耐性を身に着けてしまえる人間だったこと。


 二つ、聖名がする上目遣いは、関係性が変わるとそこに破壊力が備わるということ。


 三つ…。


 ガチャリ、と聖名が窓の鍵を外し、観音開きの戸を開けた。


「ん…気持ちいい…」


 吹き込んでくる春風に目を細める聖名の横顔を盗み見ているうちに、自然と目線が彼女の艷やかな唇に向かう。


 春の陽光に透き通るようにひらひらと舞う桜の花びら。それを凌駕する、聖名のちょこんとした可愛らしさに見惚れてしまった。


 どくん、と鼓動が一つ強く鳴り、息が詰まりそうになる。


 聖名は静海の視線に気づくと、ふっ、と照れ笑いのはにかみ顔を浮かべた。


「なぁに、静海。じろじろ私のこと見つめて…どうしたの?」


 静海は何も答えずにバックからカメラを取り出し、無言のまま構えた。


 以前の聖名だったらその突飛な行動に目を丸くしただろうが、今の彼女は違う。


 静海が切り取ってしまいたい、と感じた表情、姿勢、角度を維持したまま、じっと彼女を見つめ返す。


 パシャリ、と時を切り取る音が何度かした後、静海がカメラを下ろしたことで、聖名も体勢を変えて口を開いた。


「時間、止まってた?」


 からかうように聖名が尋ねると、静海は恥ずかしそうに視線を逸らし、頷いてみせる。


「うん」

「そっか」


 子どものいたずらを許す母のように、慈しみ深い表情で微笑んだ聖名。それを受けてもなお、静海はじっと聖名のことを――その可愛らしい桜色の唇を見つめていた。


「写真だけじゃ、足りない?」


 吐息交じりの聖名の問いかけを受けて、静海はかあっと全身が熱くなるのを感じた。


 これが件の三つめ…どうやら聖名は、こちらが聖名に触れたがっているとき、なんとなくそれが分かるらしかった。


 だから、すぐにこうやって甘やかされる、もとい、誘われてしまう。


 声もなく、こくりと頷くと、聖名が静海に対して両手を広げた。


「えへへ、じゃあ、おいで」


 一歩、踏み込み、そして、触れるだけのキスを落とす。


 もう、何度したかも分からない口づけだ。それなのに、いつも心臓は破裂しそうだし、恥ずかしくてたまらないし…でも、ぞっとするほどの充足を感じる。


 顔を離せば、幸せそうに笑う聖名と目が合った。


「ふふ、欲しがりさんめ」

「だ、だって…!」

「だって?」


 こてん、と聖名が首を傾げる。最近分かったことだが、この可愛い仕草もわざとやっているらしい。


「聖名が、とても可愛いんだ…」


 思っていることを口にする。


 簡単なことだけど、難しいことだ。


 人は自分の気持ちを口にしようとするだけで、不安にもなるし、恐ろしくもなる。その一言で人を傷つけることもあるし、傷つけられるきっかけになることもあるからだ。


 ――でも、伝え合わなければ、変わらないことは確かに多い。手に入らないものだって、きっと。


 伝えることで手に入れられた宝物のことを想い、目を伏せているうちに、今度は聖名のほうから顔を近づけてきた。


「あぁもう、私も我慢してるって言ったよね、静海」


 首に絡められる両手、離すものかという意志が驚くほどに心地よい。


「だから、あんまり可愛いこと言わないで」


 最初は触れるだけだった口づけも、次第に深く、深くつながりを求めようとするみたいな行為に変わっていった。


 ざらりとする舌の感触に鳥肌が立つ。


 浮上するあてを探しているような聖名に貪られているうちに、頭がぼうっとしてくる。


 どう応えたらいいか分からずにされるがまま、だ。


 永劫にも感じられる時間の後、聖名がようやく唇を離した。


「はぁ…もう、静海ってば、ごめんね」

「…それは文句なのか、謝罪なのか…」

「可愛いこと言った静海が悪いと思います!」


 幸せそうに笑う聖名に、自分も嬉しくなる。


 不意に、ゆらゆらと桜の花びらが外から入り込んできた。


 静海は、なんとなくそれを指先で捉えようとした。すると、聖名も同じ考えだったようで、桜の花びらは二人の指先の間に挟まれた。


 互いに妙に驚いて、見つめ合う。


 パチパチと何度か瞬きした後、どちらからともなく彼女らは鼻先を寄せて笑った。


「聖名」

「なぁに?」

「…こうやってたくさん言葉を、指先を、気持ちを重ねて生きていこう」


 暖かな春の匂いに交じり、聖名の甘い香りが漂ってくる。それだけで、私のなかの希望は恵みを受けて育っていきそうだ。


「そうすれば、たとえ誤解の糸が絡み合っても解いていけると思うから」

「えへへ、もちろんだよ、静海!」


 幸せそうに返事をした聖名と、静海はどこまでも共に歩いていきたいと心の底から思うのだった。

『無愛想で、空気が読めない発達障害の彼女と私が、くっつくまでの物語』、これにて完結でございます。


いかがでしたでしょうか?

発達障害をテーマに初めて作品を創りましたが、彼ら彼女らの懊悩や魅力が、可能な限り齟齬なく伝わっていると幸いです。


また、最後までお付き合い頂いた読者の皆様、本当にありがとうございます。

おかげさまで、ラストまで更新を終えることができています。


去年は、全ての創作物は、それをご覧になって下さる人がいてこそ成り立っているのだと考えさせられる年でした。


拙かろうと、今年も百合を基調に色んな作品を書くつもりです。

なので、またどこかで読み手として応援頂けるととても嬉しいです。


蛇足にはなりますが、もし気が向いた方がいらっしゃれば、感想や評価を頂けると今後の勉強になりますので、よろしくおねがいします。

もちろん、厳しいご意見もお待ちしております!


それでは、また、どこかで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ともすれば、取り上げるだけでも批判されそうな題材を、丁寧に、そして、良い事だけでも悪い事だけでもないんだ、ということを見事に描ききれていると思います。 [一言] ありがとうございます。 わ…
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