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無愛想で、空気が読めない発達障害の彼女と私が、くっつくまでの物語  作者: null
プロローグ そこが、『彼女』の特等席

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そこが、『彼女』の特等席

初めましての方は初めまして、そうではない方はお久しぶりです。

いつも百合作品を投稿させてもらっているnullというものです。


今回は高校生同士の恋愛に、『発達障害』という要素を付け足させて頂いております。


『発達障害』、ご存知の方はご存知でしょうし、そうではない方も多くいらっしゃるでしょう。

もしかすると、当事者の方もいらっしゃるかもしれません。


私は仕事上、発達障害の方と接する機会がとても多いため、『彼ら』の魅力と懊悩を少しでも伝えられればと思って、今回、筆を執りました。


もちろん、普通の百合小説として気軽に読んで頂けるとは思いますので、深く気にされずとも問題はございません!


…ただ、もしもこの物語が終わるところまでお付き合い頂けたとき、この作品が、『彼ら』について何か考えるきっかけになれると幸いです。


はじめに断っておきますと、発達障害の方の特性は人それぞれであるため、みんながみんな物語の中のような特性を示すわけではございません。

それに、全ての方が困っているというわけでもございません。


それでは、お楽しみください!

 五両列車の一番後ろの車両の、さらに一番後ろのドア。駅に列車が到着しても、終点まで開くことのないドアの前。


 そこが『彼女』の指定席。いわゆる、いつものポジション。


 蛍川聖名ほたるがわせなは、自分の手元にある携帯を操作しているふりをしつつ、『彼女』のほうを盗み見ていた。


 たいして手入れをしているようには見えないのに、艶やかな光をまとう癖毛っぽい黒髪。


 すらりと伸びた、無駄な脂肪のついていない四肢。


 窓の外を睨むように眺めている、丸々とした瞳。


 美しく、気高い狼を彷彿とさせる少女だった。『彼女』――大月静海おおつきちかみという少女は。


 秋口の車内は、寒いような暑いような、よく分からない空気感でいっぱいだったが、静海の周りだけは、一際強い冬の冷気が巡っている気がした。


 ガタン、ガタン…と規則的なリズムを刻んでいる車輪の音。


 他人という他人が詰め込まれたこの空間に、居心地の良さなどまるで見当たらない。聖名は経験したことはなかったが、都心のほうの満員電車はもっと人間らしい時間を奪われるのではないかと、彼女は勝手に考えていた。


 聖名が使っている電車はローカル線。通勤、帰宅ラッシュの最中にはさすがに席に座れるかどうか怪しいくらいは混むが、少し早めの時間に家を出れば、座席は普通にがらんどうだ。


 それにも関わらず、静海はいつもあの場所に立つ。そして、窓の外を流れる毎日代わり映えしない風景を鋭い目つきで眺めるのだ。


 聖名が、自分とは違う世界が見えているのだろうかと思いたくなるほど、静海は毎日それを繰り返す。


(大月さん、今日もクールだ…)


 携帯の画面はすでに自動で消灯しており、その半透明の黒には、ぼうっと静海を盗み見る聖名の顔が映っていた。


 周囲には、聖名と同じ制服に身を包んだ少女たちがチラホラといて、誰も彼もが右にならえするように、手元の携帯に視線を落としている。


 それは他の乗客だってそうだ。


 疲れた様子のサラリーマンも、優先席に座る妊婦も、大学生らしい青年も…。一様に、携帯を見つめている。


 かくいう、聖名だって普段はそうだ。例外は…静海と一緒になるこの空間、この時間だけ。


 朝7時45分すぎの電車のなかだけは、いつも伏し目がちになる聖名の瞳は持ち上がり、大月静海をこっそりと捉える。


 高校に着いても、まだ時間に余裕が生まれてしまうこの電車に聖名が乗るのは、全てこのためだ。


 一方、静海の猫のような両目が捉えるのは、目まぐるしい変化を見せる携帯の画面ではなく、流れて行く田舎の風景。


 場所によってはビルが立ち並ぶ景色も見られるが、基本的には林や山、田園風景だ。


 そんなものを見ていて、何が楽しいのだろうかと不思議に思うが聖名も人のことは言えないのが現状だ。


 そうしているうちに、車内に終点到着のアナウンスが流れる。


 乗客の何人かが早めに席を立って出口側の扉に並んだが、聖名も静海も動かない。聖名はある程度人が少なくなると立ち上がるが、静海は本当に最後まで動くことはない。


 聖名は毎朝電車から降りるとき、『もう少し粘ってたら、大月さんと一緒のタイミングになるかな…』と迷っては諦めてを繰り返していた。


 それは今日も変わらない。


 電車が止まったって、静海の瞳の奥には魅力的な何かが映っているのだろうと言いたくなるくらい動かない彼女を置いて、聖名は降車する。


 聖名にとって、気分的に置いて行かれているのは、いつだって自分のほうだった。


 後ろ髪引かれて、何度も古ぼけた赤い列車を振り返る。


 朝の太陽光が窓に眩しく反射するから…聖名の目に、静海の姿は見えなかった。


 とにもかくにも蛍川聖名は、猫も杓子も首を折って携帯に夢中になっているなか、窓の外の風景を目で追い続ける大月静海のことが気になって仕方がなかった。


 高校1年の秋――季節の移ろいが、葉を染め、町を染め、そして人を染めんとする季節のことだ。

お目通しありがとうございます。


一章が終わるまでは毎日投稿しますので、お付き合い頂けると幸いです。

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