とりあえず八話目
オレはだいたい理解してきた。この世界の奴らはどいつもこいつも馬鹿ばかりだという事を。
なぜすぐそこに魔王城が見えているのに河を渡って行こうと言う発想にならんのだ。
川岸まで行くと小舟を陸に上げて何やら作業している老人がいた。
どうやら網の補強をしている漁師らしい。魔王城まで運んでほしいと頼んでみたが、恐ろしいからと断られてしまった。まぁ気持ちは分からんでもない。
オレは残りの全財産を渡し船を買い取った。魔王を倒せば物語は終わるから、これから先のことを考え金を残しておく必要が無くなったからな。
船は手漕ぎ式だった。もちろんオレに操舵技術などは無いが、疲れを知らない体でとにかく思い切り漕ぎ続けたら程なくして対岸までたどり着いた。
早速魔王城の中へと踏み込む。展開はテンポ良く進めないと読者が離れてしまうからな。
魔王城の中では死霊だの魔法生物だのと、それっぽい魔物が襲って来たが、宝剣エクスカリバーを持つオレの敵ではなかった。
やがて辿り着く最奥の部屋――。
重厚な扉を押し開くと、部屋の奥に一人の老人がオレを待っていたように佇んでいた。
そいつは灰褐色のローブを目深に被り、頭からは角が生え、耳は尖り後ろ腰からは尻尾が生えていた。
「人間にょ……よくぞここまで辿り着いたな」
「今噛んだよな」
「……予が誰だか知らなかったでは済まされんぞ」
オレは魔王との間合いを詰めながら宝剣に手をかけ鞘走らせた。鞘の中で錆が擦れ合う不快な音が、広い室内に響き渡った。
ついに最終決戦だ。オレはここが分水嶺、天下分け目の魔王城とばかりに叫んだ――。
「さあ読者の皆さん今です! 評価ボタンを押してオレに力をお与え下さい!」
魔王は間合いを詰め終わる前に先手を打ってきやがった。
鷹のように伸びたどす黒い爪先をオレに差し向けると、不敵な笑みを浮かべ魔法で攻撃してきた。
「タンスの角にぶつけた小指!」
油断してなかったと言えば嘘になるが、魔法で攻撃してくることは想定の範囲内で、十分対応できる自身があった。
地水火風のあらゆる魔法に対する圧倒的な心の余裕が、オレの心を傲慢に装飾していき、直接心を攻撃してくる精神攻撃魔法の可能性を失念させていた。
オレの心は並盛り……否、小盛り程度の耐久力でしかない。彼女に告白してもし振られたらどうしようと、何年もの間ウジウジと勇気を絞り出せずにいたほどだ。
さすがは魔王。オレの最も弱い部分を的確に狙ってきやがった。
オレは腰から砕け落ちる感覚に襲われたが、なんとか踏みとどまり、魔王が次の詠唱を終えるより前に宝剣を叩き込む。
「この一撃で終わらす! さぁ、今こそブックマークを!!」