とりあえず三話目
高い外壁に囲まれた内側に町があり、その中心部にある城にこの国の王が居る。
ここは始まりの町、全ての物語がこの町から始まる。
今、外門での検問を待つため、一人の男が一匹の亀を手に自分の順番を待っていた。異世界から来た勇者フクツである――。
「いや、ちょっと待て……」
「ん、どうした?」
フクツは何やら堪えきれない思いで肩を震わせている。
「どうしたじゃねぇよ! なにナレーション入れてんだよ。ずっと一人称でやって来ただろ。そして何でお前は亀になってんだよ! オレ言ったよなぁ? 読者ウケする動物になれよ、そこらへんは幅が効くだろ? 変身できる物の幅がよぉ!」
「う〜む。一応この物語は福津推しだからな。福津で動物となればウミガメだろう」
「知らねぇよ! そんなマイナーな着眼点に読者はついてこれねぇよ! せめて自立歩行出来るものになれよな! ずっとオレが持って移動すんのか? どこの奇妙な冒険だよ! ってかお前ウミガメですらねぇじゃん。その姿ただの亀だよな!?」
「待て、亀は歩けるぞ」
「おいおいおいおい、うさぎと亀じゃねぇんだよ、お前が自力で魔王のとこまで歩いてる間に物語終わってるぞ!」
「おい、お主の番だぞ。早く行け」
町に入る門には警備の兵士が検問しており、通行する者達を一人ひとりチェックしていた。
門兵がフクツの体をチェックしながら口頭で問いかけてきた。
「お前、さっきから一人でわめいて……大丈夫か?」
フクツは再び顔を染め上げる。喋る亀がいることを告げても異世界なら通じるかも知れないが、無駄な時間を取られるだけだろうから黙っておくことにした。
門兵は一通りのチェックを終えると通行手形の提示を求めてきた。
「え? 通行手形なんて聞いてないぞ?」
「あ、忘れてたわ」
「忘れてたじゃねぇだろ! どうすんだよ、始まりの町に入ることも出来ねぇって……!」
神なら魔法的な何かでどうにか出来ないのか。
フクツは亀に便宜を求めたが、どうやらそういった力は無いらしい。
物語が始まる前の段階ですでに手詰まりとなってしまったかに思えた。
「あの、門兵さん……」
門の内側から小走りに駆け寄って来たのは先程ゴブリンに追いかけ回されていた男だった。
男は門兵の手に何やら包みを握らせるとニコりと微笑んで愛想を振りまいた。
「この方は僕の知り合いです。異国からいらしたのでまだ手形を発行してもらってないんですよ」
門兵は握らされた包みの中身を覗き見ると、満足げな顔をして答えた。
「お前は宿屋コガの息子のチドリだな……今回は特別だぞ」
門兵はフクツに門を通るように促した。
チドリはフクツの腕を引っ張り町へと引き入れる。
「他の門兵に気付かれると不味いですから早く」
少し町の奥まで入ったところまで駆け、チドリは息を切らせて立ち止まった。
「チドリって言うのか、おかげで助かったぜ。ありがとうな」
「い、いえいえ……助けて頂いたのは僕のほうですから、このぐらいは……」
オレは考えた――。
このチドリと言う男と仲良くなっておいたほうが良いんじゃないのか、今の感じだと亀はアテにはならない。この世界の常識的なことを知っておかないと、このままでは移動もままならないぞ。