とりあえず二話目
それは赤子が鳴き声で気持ちを訴えるように、電車に乗り損なったときに閉じた扉の前であたかも動じてないふりをするように、ごく自然と認識し、そう思い想像力を働かせただけで、オレに向かって来るゴブリンの背後に亜空間へと通じる穴が口を開けた。
オレはほとんど無意識のうちに体を回転させると、先頭のゴブリンに後ろ蹴りを食らわし、体ごと吹き飛ばされたそいつは、そのまま亜空間へと吸い込まれていった。
亜空間はオレの意志ですぐに閉じ、吸われた奴が落とした棍棒を拾ったオレは、次に迫るゴブリン目掛け思い切り投げつけた。
投げた時に何となく感じ取ったが、オレが思った通り、棍棒はゴブリンの頭部を打ち砕き、夏場の海水浴場で聞こえてくるような音を木霊した。
「お、逃げるか」
圧倒的戦闘力の差を見せつけられ、残りのゴブリン達は森の中へと逃げ去っていった。
オレは特に追うこともせず、初戦を振り返って特盛りの程度を認識した。
気づけば森から逃げ出してきた男がまだ近くにいて、こちらを見ていた。
その顔は当然ながら驚愕に満ち満ちていて、ゴブリンに追われていたときよりも、今オレに対してのほうが恐怖を感じているようにも見える。
まぁいろいろ聞かれても面倒だから適当にあしらっておこう。
「もう大丈夫だぞ。礼とかいらんから行きなよ」
「あ、ありがとうご、ございました!」
逃げるように走り去る男を見送り、オレはふと気になったことを神に聞いてみた。
「おい、神。聞こえるか?」
「なんだ? 軽々しく声をかけるな」
「ちょっと思ったんだけどよぉ。この物語が人人気出ねぇと帰れないんだよなぁ……?」
圧倒的な戦闘力があることは分かった。
異世界転移にチート能力、これで魔物をやっつけていって、最終的に魔王を倒す……って、この物語って面白いか?
「なにが言いたい?」
こいつ、またオレの思考を読みやがったな。
「つまりよ、何か物語があっさりし過ぎてんだよ。もっとこう……むっちむちの姉ちゃんが仲間になったりよ、熱い友情で結ばれた友達と戦わないといけなくなったりしねぇとよぉ……」
「面白くない……と、そう言いたいのか?」
「いやオレが言いたいとかじゃなくてね、読者の気持ちになって考えてみろよ……読むか? こんな素人の書いた作文をよぉ」
少しの間沈黙が場を支配した。気候は程よい暖かさで、そよぐ風が心地良い。
「どうしろと言うのだ?」
神にも分からないことはあるらしい。だが神と謳うからにはそれなりの力、能力を期待しても良いだろう。
「お前この世界に実体化は出来るのか?」
「女になってお主とラブストーリーなんてやらんぞ」
「こっちこそゴメンだぜ。オレには現実世界に待たせてる女がいるからな」
「待っているかは分からんだろ」
…………オレの言いたいことはこうだ。
まずテレビでもそうだが、数字を取ろうと思えば食い物と動物が王道だ。
神がなんでも良いから読者ウケしやすそうな動物の姿で実体化して、ずっとオレと一緒に旅をする。
あとは行く先々でとにかく飯を喰い、さも饒舌に食レポをしつつ魔王を討ち倒しに行く……。
「これをやるだけでブックマークが倍に跳ね上がるはずだぜ」
「お主……そんな事考えてる間に早く城に行けよ。まだ初めの地点から全く動いてないんだぞ……」
――風が少しだけ寒く感じ始めていた。