そして十六話目
亀はオレに告げた――。
「私はまだお主に名乗っていなかったな、私の名前は……」
この世界は亀が創り出したものだと言った。
亀はこの世界でやりたいことがあったが、それには協力者が必要だと思い、オレを連れてきたらしい。
亀は悩んでいた。
自分の思いを伝えたかった。
嬉しい気持ち、憤り、哀しみを含めた現実世界への希望を、皆で分かち合いたかった。
だが亀の声は小さかった……。
それでも聞いてくれる人はいたが、亀はもっと多くの人達に言葉を届けたいと願った。
亀は神と成り、この世界を創り出し、ここで自分の存在を知ってもらえれば、多くの人達に声を届けることが出来ると考えた。
だが神の声は小さかった。
この世界ではさらに声は小さくなっていた。
その理由をオレが気付かせたらしい。
伝えたいことがあるのに、それとは違う事で興味を引いた後、集まった人達が求めていない言葉を聞かそうとする、その後ろめたさが声を小さくしていたのだと、神はオレに教えられたと言う。
いきなり知らない世界に立たされながら、辿り着ける確証もない目標に、試行錯誤しつつも挫けることなく前進していく姿、その過程にある喜びと哀しみ、怒りと楽しみこそ、神が皆に伝えたかったことなんだと、神の創り出したこの世界で、神が創り出したオレ達に教えられたのだと、神はそう言った。
神は帰ると言った――本当に伝えたいことがある世界へ……本命作品の世界へ。
「私の名は鯛の倒立……ありがとうフクツ、私も頑張るよ。本命作品をもっと多くの人達に見てもらえるように、本命作品自体の品質を上げるために考えてみるよ……」
「いや初めからそうしとけよ……ってかお前作者だったんかい」
……そらなんでもできるわな。
だがオレはなぜか亜空間に弾かれてしまう。
亀を投げ入れたときも戻されてしまった。一話ではゴブリンを亜空間の彼方に飛ばすことが出来たのに……。
オレは亜空間に消えたゴブリンがどこに行ったのかは敢えて考えないようにし、目の前にある問題とだけ向き合うことにした。
ふとある事に気付き、チドリに亀を持たせた。
「その亀を亜空間に放り投げてみろ」
チドリは少し戸惑っていたが、オレが強く求めると思い切り振りかぶり、目をつむったまま亀を亜空間へと投げ放った。
「じゃあな神! 本命作品頑張れよ!」
「おい! もうちょっと別れを惜しむ時間を……!」
神の言葉は途中で途切れ、後には静寂と、神への哀れみだけが場を支配した。
「さて、オレは気付いたことがある」
オレはチドリと魔王に向け語りかけた。
この世界で、オレだけが何の成長もしていない。
そして気付いたことがある。
これまで散々やってきたことでは読者の心はつかめなかった。
オレはこの物語を良くしたいと言いつつ、読者視点で見ていると思い込みながら、実は終わらせることしか考えていなかったんじゃないのか……。
神から本当に与えられたものはチートな能力なんかじゃなかった。
オレはこの世界で教わった。努力することの大切さを、要所々々を掻い摘んだだけの物語では、人の心には響かないんだと言うことを。
「オレはまだ帰らない……このクソみたいな物語を完結してみせる」
全く評価されない男のまま現実世界に戻っても、彼女からの返事が良いものであるとは思えなくなっていた。
「オレはこの世界で認められてから帰る。この世界はオレの物語だ」
目標とする場所があり、そこへ続く道が在る。
その道を往く者には見えるはずだ、希望に輝く光の道が――。
―― 完。
奇跡的にも最後までご一読下さいました読者様には心より感謝申し上げます。
勢いで書き出した処女作を完結まで書き上げる自信をつけるためにも、一度短編を書き切りたいと始めたのが本作であります。
何分見識浅く、想像力も乏しい愚才の身でありながら、処女作と並行して執筆したため、よりお目汚しの駄文となっているかとは存じますが、それでもなんとか完結にまで至った本作を最後までお読み頂きましたことに、重ねて感謝の辞を述べさせて頂きます。
それではこれからも皆様の読書生活が幸多きものであることを願いまして、後書きの言葉とさせて頂きます。
ありがとうございました。
m(_ _)m




