とりあえず十二話目
事ここに至り、オレは大切な事を見落としていたことに気付いた。
いくつかの砦を造って中ボス的魔物を配置したまでは良かったが、それらを討伐しに来る冒険者がいないのだ。
いや正確には冒険者はたくさんいる。
砦の情報も知れ渡り、彼らは一刻も早く辿り着かんと日々悪戦苦闘しているのだが……。
「遅いっ!」
冒険者共ときたら同じ地域でコツコツとレベル上げに勤しんでいて、砦まで寄り付く気配が全くしない。
小さなクエストや派生的イベントばかりこなし、一向にメインストーリーが進んでいないのだ。
「これじゃ早い展開を望む若年層が逃げてしまうじゃないか!」
「安心しろ、元からこの作品に継続的読者はおらん」
オレは亀を亜空間に投げ込んだ……。
「コラー! お主なんてことするんだ! 仮にも神だぞ私は!」
亀は亜空間から弾き戻されて来た。
亀は吸い込まないのか、神だからなのかは知らないが、今はそんな事より重要な問題を解決しなければならない。
「よし、こっちで勇者を用意してさっさと砦まで来てもらおう」
「また何か良からぬ事を企んでるな……」
もう亀のガヤにも慣れてきたが、まぁ読者に対しても分かりやすいストーリーは大切だからな、説明してやろう。
「知り合いに一人、魔王討伐隊に参加している奴がいるだろう。奴を利用する」
この世界にオレの知り合いなんて元々一人しか居ない。
「亀はチドリにもオレと同じように能力を与えることが出来るか?」
「案ずるな。お主はすでに万能だろうが、自分でやってみろ」
なるほど、言われてみれば自分でも出来そうな感覚がある。何事もやってみることだな。
ついでにオレは瞬間移動の魔法が使えないか試してみた。
亜空間を開き、頭の中でチドリを強くイメージすると、亜空間の先が奴のいる場所と繋がった感覚を覚えたが、こちらから向こう側に移動するイメージがどうにもつかみきれない。
ならばとこちら側に引き寄せることを試し見る。
「よし、掴んだぞ」
オレはそのまま一息に引っ張り出し、チドリを魔王城に召喚した。
「わわわ、フクツさんじゃないですか、これは一体……」
「ふ……今はフクツではない。大魔王フクツとなったのだ」
オレは簡単に事情を説明してやった。
「つ、つまりボクが勇者となってフクツ……大魔王様のところまで来る……と?」
「そうだ」
これでストーリーは決まった。
勇者が魔王を倒す。王道だが、だからこそ万人からの支持を得やすいというものだろう。




