とりあえず十話目
「皆様、明けましておめでとうございます。謹んで新春をお祝い申し上げます」
「おいコラちょっと待て」
……なんだこの亀は、新年早々人の話を遮りやがって。
「お主、何を当たり前な顔して連載再会しとるんだ。読者がいなかったら削除するんじゃなかったのか」
何たる無能な亀だ。
二人もの熱烈な読者様がコメントを残してくれているのに見てないのか。
やはり亀だけに鈍いのか、もはやこの鈍さは呪いのレベルに達しているな。
「いやいや、感想残してくれた二人は本命作品からの同情票ではないか。コッチで読者をつかんで本命作品に呼び込むどころか、仕儀が逆になっておるぞ」
……分かってないなこの亀は。
始めは逆でも、最終的に目的を遂げることが出来れば良いのだ。新たに会社を立ち上げても、利益が出るまでには三年掛かると言うではないか。
「お主……三年も続かんだろ……」
「もちろんだ。オレは一分でも早く元の世界に帰り、告白の返事を聞きたいんだ。そんな悠長に構えてられるか。って言うかお前当たり前のようにオレの心と会話すんなよ」
「現実世界に戻るにはこの作品の人気が出ないとならんのだぞ」
今更設定のおさらいなど言われなくてもわかっている。
すでにプロット……プランはできている。
オレは読者がつかなくても現実世界に戻れる抜け道を見つけたのだ。
「抜け道だと?」
「そうだ、たとえ評価されなくても、ブックマークを貰えなくても、現実世界に戻れる秘中のバイパス……書籍化だ!」
「おいちょっと待て、ハードルが上がってるぞ!」
「大丈夫だ、プランはあると言っただろう。オレはこの狭き門……ナローパスを通って見せる! なろうだけに!」
このクソほどにも理解力の無い亀にも解るように説明してやろう。
要はこの作品に商業的価値があれば良いのだ。金の臭いがすればレーベルはすり寄ってくる。そして書籍化さえしてしまえば読者は後からついてくるのさ。
「お主それ……考え方が逆だぞ」
「黙れ亀! そして刮目せよ!」
オレはこの世界に来た時に与えられた万能能力で亜空間を開くことが出来る。そこから書籍化へと通じる秘中のアイテムを取り出した。
「なんだそれは?」
「ふ……見て分からんか、タンバリンだ。さらに!」
オレは宝剣エクスカリバーを鞘から引き抜き天を差した。
そして闘気を剣に送り込むと宝剣が七色に輝きを放つ。
ここまでしても亀は未だ理解しがたいと言った顔で呆けている。一体どこまでズレているのか。
「亀よ見よ、そして聞け! これらは書籍化へ向けたほんの序章に過ぎない、つまり……!」
主人公が持つ特徴的アイテムに光る剣……これらは全て商品化を見越したものだ。
こういったものをちょくちょく出していくことでこの作品に付加価値を与え、さらに新たな商品化アイテムのアイデアを読者から募る……。
「これこそが“読者巻き込み型ノベル”だ!」
「お主、いろいろ間違えてるぞ……」




