表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/17

とりあえず九話目


 オレは魔王の(ふところ)まで一気に飛び込んだ。

 魔王は再び精神攻撃魔法の詠唱を始めている。


「久しぶりに会った人の(メンタル・)名前が思(ペイン)い出せな……」


 一瞬を五等分したほどの差でオレのエクスカリバーが先に魔王の体を突き抜けた。

 魔王は断末魔の叫び声を轟かせその身を昇華させ消滅していく。

 完全に消え去る前に負け惜しみの捨て台詞を残して逝きやがった。


「こ、これでは……人気作には……な……れん……ぞ」


 この言葉はオレの心の奥深くに突き刺さった。


「なんだ? 今のは魔法なのか!?」


 オレはしばらくの間その言葉に縛られ見動きが取れずにいたが、幸いにして時間と共に心は落ち着きを取り戻していった。





 魔王城からの帰り道……道じゃなくて河だけど、魔王が最後に言い残した言葉が徐々にオレの思考を侵食していき、城下町まで来たときには心まで完全に支配されていた。


 これで終わっていいのか?


 異世界に来た。チート能力で苦もなく魔物を退治し魔王まで倒した。

 この世界的にはハッピーエンドだろうが、これって読者は面白いと思うか?




 オレは大切なことから目を背け続けていたんじゃないのか?

 元の世界に戻ることばかり考えて、魔王を倒せばそれで良いと思い込み……ボロ剣を宝剣だと偽り、ブックマークや評価の数で強さが変わると読者を惑わし、最も大切な……伝えたいことを作品に込めるという、物語の根幹に関わる部分に気付かないふりをして、自分自身でさえ(あざむ)いて来てたんじゃないのか。



 町に戻ってもオレはそのまま王城まで行く気にはならなかった。

 ひとまず飲み物でも飲んで落ち着こうと入った酒場で、オレは以外な顔見知りと再会した。


「あ、勇者様……」


 そいつは灰褐色のローブを目深に被り、頭からは角が生え、耳は(とが)り後ろ腰からは尻尾が……。


「――って魔王じゃねぇか! お前さっき死んだよな!? 昇天して消えてったよなぁ!?」


「す、すいません予は肉体が消滅しても精神的には不死でして、一度昇華したんですけど、魂は飛ばされたあと対岸でまた復活したんですよね」


「ですよね……じゃねぇよ! そんでなんでテメェが人間の町の酒場で酒飲んでんだよ!」


「いやぁ私勇者様に倒されちゃったでしょ? 魔王失格かなぁと、これからどうしようかなぁと考えてまして」


 何なんだこいつは、豆腐並の(ザコ)キャラのクセにメンタルだけはコンクリですってか。その強さを実践にもってこいよ。おかげでこっちは物語が薄っぺらすぎて悩んでんだよ。


 そうだよそもそもこいつがもっと強ければ物語にも深みが……ん?


 なんか思いついたぞ――。


 そうさ。魔王が強ければ物語にも深みが出るんじゃないのか?

 魔王が強ければ勇者は経験を積む旅の中で様々な苦労や挫折、出会いと別れを繰り返し、やっとのことで辿り着く魔王城……。

 試行錯誤して手に入れる勝利と栄光……。


 打たれても折れず、倒れてもくじけない。


 そんな昭和な雰囲気で中年層を取り込みつつ、テンポ良い展開で若年層を惹き込む。

 そして亀でなんとか女性層……は諦めるとして。


 とにかくこれだ……この物語に必要なのは強い魔王だ。

 そしてオレなら可能だ……強い魔王になることが!


 オレは魔王が飲んでいた酒を奪い取り一気に飲み干すと、グラスをテーブルに叩きつけ叫んだ。



「ミルクじゃねぇかっ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 個人的には斬新なアイデアが垣間見えて面白いと思いますよ♪( ´∀`)bグッ! [気になる点] ちょっと内容が浅すぎる感じがしました。 もう少し他のキャラに深みを持たせて、 世界観も広げてみ…
[良い点] メタ小説的なところ。 [気になる点] ラノベでメタ小説ってあるんでしょうか? [一言] すごいアイディアなんじゃかないか、って気がします。 メタラノベ? 頑張ってください。
2021/12/25 17:16 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ