とりあえず序章
オレは津屋崎フクツ(18)、通っていた高校の卒業式を控えた二月の某日、進学のための上京を控え最後のチャンスと、思い切って前から気になってた同級生の女子をデートに誘いだした。
デートのプランはベタだが鉄板。
宮地嶽神社の段上から見下ろす参道は宮地浜まで一直線に続き、二月と十月の一年に二回だけ、海に沈む夕日が参道の延長線上をなぞるように照らし出し『光の道』を浮かび上がらせる。
某アイドルグループが出演したCMでも話題になった。嵐を呼ぶとか、嵐を呼んだとか言われる絶景スポットだ。
この光景を見せたところで告白し、感動を恋のトキメキと勘違いさせる。
吊り橋だか釣り堀だか知らないが、利用できるものは利用させてもらう。
準備は万端。場所取りも最高の位置をキープ。手には松ヶ枝餅。
そろそろ夕陽が海に差し掛かってきた。
沈む夕陽が海岸線から光の道を示しだした。
オレは覚悟を決め生唾を飲み込む。
ずっと……好きだったんだ……。
なんだか入試の面接のときより緊張してるな……。
この一言を口にすると、今までの自分には戻れなくなるような気がしていた。
少なくとも、二人の関係はこれまで通りとはいかないだろう――もし断られたら……。
いや、決めただろ!
もう心のなかに押し込めておくのはやめるんだ!
当たって砕けろ!
まるで光の道がオレの行く末を暗示するかのように、こちらに向かって黄金の絨毯を敷き伸ばしてくる。
大丈夫だ、オレの行く先は光り輝いている。
オレは想いを言葉に綴り、彼女に送った――。
彼女は突然の告白に驚き、戸惑い、緊張し、松ヶ枝餅を落とした――。
二人は慌てて反射的に手をのばす――と屈んだ勢いで頭をぶつけ合い、体勢を崩してしまった。
彼女が階段から足を踏み外し倒れ込む。
オレは彼女を庇うため身を投げだしたが、そのまま二人とも階段を転げ落ちてしまった。
――あんなに人でひしめいていたのに、誰にも当たらず転がり落ちるなんて!
下手したら死んでしまうかも……なんてことを思う心の余裕を感じながら、すぐ目前まで迫った光の道をオレの目は捉えた。
「あれ? こんな目の前に見えるほど下まで落ちたっけ?」
そう思った時にはすでに、オレの意識は光の中へと吸い込まれていた……。
――なんだここは? オレはどうなったんだ? 彼女に告白して……返事は聞いたっけ? 松ヶ枝餅は落ちたんだっけ?
状況が理解出来ないでいるオレの前に何かがいることが分かった。
オレの眼前の空間が歪み、人の形を生み出している。光しかないこの空間で、そこだけが歪に見えた。
時を待たず、不思議な声がオレの脳裏に響いた。
「掴んだぞ……お主は誰だ?」
誰だとはなんだ……と言いたいところだが、兎にも角にも現状が理解出来ない。取り敢えず声に反応して変化を見てみよう。オレは自分でも感心するほど冷静だった。
「オレは津屋崎フクツと言う者です、あなたは誰ですか?」
「私……私か、私は神だ!」
――終わったああああああああああああ!
オレは死んだんだ。彼女からの返事も聞けないまま、松ヶ枝餅も食い終わらないまま。
あぁ……こんなに早く死ぬなら受験勉強なんてしないでもっと遊んでおけば良かった……。
「いやちょっと待って、キミ死んでないから」
――心が読まれた!?
「あぁ、今はちょっと何ていうか、精神的に私とお主は一つであって一つでない状態と言うか……」
「あ、そっち系ですか。大丈夫ですよなんとなく知識はありますから。……で、異世界ですよね?」
「あ、うん、そこはすんなり受け容れるのね。えとちょっと頼みがね……終わったらすぐ戻れると思うから」
「オレ彼女に告白して返事待ちなんですよねぇ、今階段から落ちるとこ助けに入ったし、結構イケそうな気がするんですよ。さっさと終わらせて戻りたいんで、取り敢えずそっちの世界に移動しませんか?」
――オレは一世一代の大舞台を終えたばかりで有頂天になっていた。すぐに戻れると、このときは思ったんだ……。