星座?!
「(で、モノは相談なんだけど)」
「…?」
なんて屈辱感にも感動にも似た何かにのほほんと打ちのめされていた俺がバカだったんだ。
「(星座ってあなた、どのくらい知ってる?)」
「(…星座?)」
って、あれだよな? 北斗七星とかカシオペアとか…
「(実は私、天文学ってさっぱりなのよねぇ…)」
「(知ってて始めたんじゃなかったのか?!)」
天文学ド素人が観測でカレンダー作ろうとか、そんな無茶苦茶なこと考えてたのか?!
…いつも思うがお前、マジで専門家舐めすぎだろ…。
「(とりあえず見えた星書き込むことは始めたんだけど、こんなの書いててもどれがどれだかそろそろわかんなくなって来ちゃってて…)」
「(…当たり前だろ)」
星なんて所詮はただの点だ。点だけ書いてたってそりゃわからなくもなるに決まってるだろ。それでなくてもこの時代、俺達の時代とは見える星の数が桁違いなんだし。
「(とりあえずあれナンチャラに似てるな~、とか自分で勝手に色々星座作りながら描いてたんだけど、なんか見てるうちにどれもこれも同じに見えて来ちゃってそろそろ限界って言うか…)」
「(たった二ヶ月でギブかよ…)」
…こいつがすごいんだかただのバカなんだか、わけがわからなくなって来た。
大体にして。
「(俺だって星空なんてそれこそ何年ぶりに見たかわからないくらい久しぶりなんだ、星座なんてせいぜい北斗七星とカシオペアとオリオン座くらいで北極星だって判別できないぞ)」
「(うわ、あなたもなの?! 予定外~)」
「(だから俺を勝手に数に入れるな!!)」
何だその「コイツ使えない~」的な言い方は?! 星見てる暇があったら医学論文読んでいたさ、医者だからな!!! それが悪いか!
なんて他人を憤慨させるだけさせといて、完全に無視するのがコイツの流儀だったんだよな、今更だけど!
「ねえ、あなた? スズ、って言ったっけ?」
「は…はい!」
「あなた、星座ってわかる?」
「スズを巻き込む気か?!」
いきなり話の矛先をスズに向けたワンマン女王に慌ててスズだけでも庇わなければ、と言う本能的なモノが働いたが、
「星座、とは…?」
「ん~、星見てて何かの形に見えない? って話」
「星が何かの形に、ですか…?」
スズにとっても倭代は逆らうなんて考えることもできない絶対の女王だ。無視する、なんて選択肢は最初からない。失礼のないように、間違った返答をしないように慎重に言葉を選ぶしかない。
が。
「――申し訳ございません。ちらちらと揺れているようには見えますが、それでも私にはただの点にしか…」
しばらくじっと何気なくこれと決めたある一点の星を必死になって見つめていたスズだったが、恐縮し切ったように口にしたその回答に、一瞬俺も倭代も頭の中が真っ白になった。
って、ただの点、って――…
「ぶ…っ」
先に噴き出したのは倭代の方だった。
「ご、ごめん。そりゃそーよね、私の言い方が悪かったわ!」
ただの点っ、ただの点って…っ、ぶっひゃひゃひゃひゃと女王の威厳もへったくれもかなぐり捨てて腹を抱えて爆笑する倭代に、自分が何かとんでもない粗相でもしたのかと真っ青になって俺に救いを求める涙目を向けるスズだったが――…わ、悪い、スズ…その返答は完全に盲点だった。噴き出しこそ抑えたものの、俺もさすがに今は待ってくれ状態だ。
「ゴメンね~、星ひとつひとつじゃなくて、いくつかの星を固まりにして何かの図形に見えない? って話だったんだけど…」
未だに目尻には涙まで滲ませてひーひー笑いを堪えながら、倭代…それじゃ全然謝ってることにはならないだろ。スズにとっては一大事なんだぞ。
だが、自分がとんでもない勘違いをした事実に気付いたスズは急いで空を見上げ、必死になって何か自分の知っている形に見えそうな星座を探し出す。
「そ、そうですね…あれなど私には高坏に見えますが…っ」
「どれ?」
「あ、あちらのこう…真ん中がくびれて上部の丸い…」
今度は突然頬を寄せられてスズは完全にパニックだ。倭代にとってはスズと視線の角度を合わせるためだけなんだろうが、ワタワタするその姿からも心臓の鼓動がバクバク口から吐き出しそうな気分になっているのが傍目にもわかる動揺振りで――倭代の奴、少しは自分の身分ってもんを考えろよ…誰も彼もが俺みたいに身分フリーな感覚なわけじゃないんだぞ。
なのにホントこのマイペース女王は、
「ああ、あれね! なるほど…じゃあ命名。あれ高坏座!」
「…。」
勝手に星座作るのかよ…まあただの目印なんだし、どうでもいい話だが。
「他は? 他は何か形に見えない?」
「他、ですか…? 少々お待ちを…」
なんてすっかりスズを倭代に奪われて天体観測ツアーになってしまった。まあ別に目的があって来たわけじゃないからスズさえ嫌でなければ俺は構わないんだが、――天体観測か。確かに古代エジプトでもストーンヘンジでもテオティワカンでも、どの古代文明でも天体観測技術だけは国家事業になるレベルに重要視されてるんだよな。暦がどれだけ重要なモノなのか、カレンダーが当たり前にある21世紀では考えもしなかったが、確かに言われてみれば一日はともかくとして、年と言う単位になれば星を観測するしか日付を理解する方法なんてないんだ。
ある程度の集落規模になれば狩猟採集だけじゃ人口は支えられなくなる。定住するためには安定した収穫が確保できる農耕に頼るしかない。そして農耕には暦がどうしたって必要になる。
「では、その高坏の上に何か大きな獣が後ろ足を延ばして飛び上がっているような…」
「ああっ、確かにあれなら動物に見えないこともないわねっ! でも牛はあんなに後ろ足で飛び上がったりはしないし、馬にしては首が短いし、もっとすらっとした感じの敏捷な…――獅子?」
「? 獅子、とは…何か大きな動物の名前なのでしょうか?」
「え? あー…」
…墓穴掘りやがった…古代の日本にライオンがいるか。そう言えばこの時代に来てからと言うものライオンどころか猫も見かけないよな。ネコ科の動物はこの時代の日本にはいないのか? いや、イリオモテヤマネコとかいるんだからヤマネコは昔から日本にもいたはずだが――あれも限られた小さな島の話で本州でヤマネコとか、考えてみれば聞いたこともない。
そうか、猫がいないのか…だからこの時代から既に鼠返しなんて、米倉庫には必須な文化だったのか…今更納得だ。
そして、そんな感慨にふけっている俺なんか完全無視で相変わらずの倭代のハッタリは炸裂していた。
「大陸にいる獰猛な動物よ。牙と爪が鋭くて足も速くて人間より大きくて、あなたなんか襲われたらペロリなんだから!」
「そのような恐ろしい生き物が異国にはいるのですか…?!」
だから幼気な幼女を無駄に怯えさせてごまかすなよ、このハッタリ女王が。
間に合わなかったこの章の最終部です。
次の章に移るか迷ってたんですが…やっぱりこっちの章に組み込むことにしました。
次章はいつも通り土曜日更新予定です。




