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Iam estis  作者: Muffin
教育制度
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グルントシューレ?!

「学校ったって、そんな簡単に行くわけないだろ」

 そもそも義務教育の発想自体がないんだ。この時代じゃなくてもそこに通ったこともない親に学校の価値なんてわかるわけがないし、それでなくても子供は21世紀でこそ「勉強が仕事」なんて言って貰えているが、日本でだって戦前くらいまでは完全に労働力としか考えられていなかったんだぞ。仮に授業料を取らなかったとしても、それでも貴重な労働力を収入にもならないものに強制的に持って行かれれば例え微々たるものとは言えそれでもマイナスでしかないんだから親だっておもしろくはないだろうし、家庭の状況次第では子供がいないだけで仕事に行き詰まるケースだってあるだろう。

 児童労働は医者の立場から言わせて貰ってももちろん反対だが、かと言って時代と言うものがある。10歳やそこらで既に立派な労働力として期待されているようなこの時代に就学制度なんて、やっぱりさすがに不可能なんじゃないのか?

 と言うのがマトモな人間の発想だろう。仮に21世紀レベルの教育施設を整えられたとしても社会がそれを許さない。産業革命以降のモノに満ち足りた時代じゃないんだ、言い方は悪いが無駄に遊ばせておく労働力はそもそもない。要するに「働かざるもの食うべからず」って奴だ。


   だが。


「―― 子供って、とりあえず何歳くらいまで生きられれば事故にでも遭わない限り大体成人できるようになるの?」

「いきなりだな」

 突然そんなことを言われてもそれこそ医療状況次第だが、マトモな衛生環境と医療設備の整っていない発展途上国の、栄養状態の悪い低所得層に生まれた子供達だと大体5歳くらいか。5歳を超えれば本人にもある程度自衛意識が出て来るし、生物学的な免疫能力も付いて来るからな。

「5歳かぁ…やっぱ小学校がどこの国でも大抵6歳から始まるのって、医学的な根拠もあるのね」

「…まあそうだろうな」

 ひとりでトイレに行けるとか昼寝しなくても夜まで起きていられるとか、そもそも授業中ちゃんと座って教師の話を聞いていられるとか、5歳未満だとその辺がまだちょっと難しいから、そんなのまで相手にしてたんじゃ本来勉強だけ教えればいいはずの教師の負担が大きすぎるしな――って、最近はそんな『家庭で教えるべきこと』も教師に押し付けるモンスター・ペアレンツが当たり前になっているらしいが…子供ひとりひとりにいちいち親身になれる教師はもちろん理想だが、だからって担当している子供の数が親とは桁違いなんだ、子供の人間的成長のすべてを赤の他人の教師に期待するのはただの親の育児義務放棄ってもんだろう。子供を人間性の面で育てるのはあくまでも親の仕事。だからこそ「親の顔が見てみたい」なんて言葉もあるんじゃないか。

 親は子供が社会で生きて行くために必要な愛情やしつけなんかの一般的な常識を教え、教師は生徒が社会に出た時自立して働くための専門知識や脳の効率的な使い方を教える。

 本来はそう言う線引きだったはずなんだ。なのに一体いつの間に親の分まで教師がやらなきゃならなくなったんだか…性欲だけでその行為の結果を考える能力もない精神年齢の奴が親になるからそう言うことになるんだよな。

 ま、性欲は年齢で自動的に備わっても来るが、常識は本人がその気になって勉強しなきゃ一生身に付かないモノだから仕方がないんだが。常識のない奴にとっては常識なんかなくても何にも困らないのも現実だし、困らなければわざわざ苦労して学ぶなんてモチベーションが上がるはずもない。

 そして、そう言う人間にも性欲だけは立派にあるから子供が生まれ、親が必要性を感じていないモノをその子供が学ぼうなんて気になるはずもなく、結局そう言う家系は世代を重ねるごとにどんどん常識感覚が削り取られて行く。

 残念ながら人間非社会的な方向に転ぶのは簡単だが社会的な方向に転ぶには相当な努力が必要になるものだ。親の悪いところを受け継ぐのは自然な流れだが、それを反面教師にしていい方向に軌道修正するにはその子供ひとりに相当な忍耐力と努力を要求するから生半可な覚悟じゃどうにもならない。ああはなりたくないと言うよっぽどの経験でもない限り不可能なのが現実だろう。

 人間の差に遺伝的要素なんてほぼ関係はない。運はもちろん大きいにしても、結局環境要素と当人の精神力の差が結果を生んでいることがほとんどだ。高貴な血統とか、そんなものあって堪るか。血液型さえ合えばどんなに家格に差のある人間の間で輸血したって何の問題も起きやしないんだ。内臓移植だって――生殖だって。

 人間(かたがき)ひとつ脱ぐだけで結局はみんな同じ。個人差なんて微々たるもので、所詮その人物の特徴のひとつ程度の差でしかない。それを必要以上に拡大解釈するのはそれこそ権力者が自分の保身のためだけに押し付けた妄想に過ぎない。

 なんてことを考えていた俺とは違い、倭代は学校設立に向けてひとり勝手に具体案を練っていた。

「じゃあ、当面は1年制で考えるにしても、とりあえず目標は6歳以上10歳未満ってとこかしらね」

「…何が?」

「就学年齢」

 …本気か?

「10歳以下ならまだ労働力としては大したこと期待してないでしょ、親だって」

「いや、それでも水汲みとか下の弟妹達の世話とか…」

 それなりにいくらでも仕事はあると思うぞ? まあ、4年間あればかなり色々と教えられるとは思うが…ドイツのグルントシューレ ( 注 : 日本の小学校に該当。中高一貫教育に当たる8年制のギムナジウムの前に子供の通う学校 ) も四年制だしな。


   ところがだ。


「だから、子供には勉強の対価として給料を支払うのよ」

「。」


 …。


「―――――――――――――――――― は?」





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