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Iam estis  作者: Muffin
黒い羊
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電話?!

 結局、俺のためにとウドの用意してくれた背負子は黒金を背負って山を下りるためのものになった。傷口の方は処置済みとは言えしばらくは動かさないに越したことはないし、せっかくの背負子だ、使わない手はない。

 と言うわけで「大丈夫だから」と言い張る黒金を強引にウドに預け、黒金の家に立ち寄ってから王宮に帰ることになったのだがその途上、相変わらず倭代は好奇心の塊だった。

「ところで黒金、あなた何で赤金に家に帰って来て欲しがってるの?」

「。」

 思わぬことを聞かれて一瞬言葉を失った黒金だったが、

「――誰がどう見たって僕より赤兄の方が鍛冶師にはふさわしいから」

 ぼそっ、とおもしろくなさげに呟いたその言葉に違和感を抱いたのは俺だけじゃなかったようだ。そりゃまあ確かに赤金くらいの体格があればそのほとんどが力仕事と言える鍛冶師には充分すぎるほどふさわしいのかもしれないが、まだまだ成長期の始まってもいない10歳やそこらの子供と比べてふさわしいもへったくれもないだろうに、黒金がそこまでのコンプレックスを抱えるほど自分を卑下する理由は思い当たらない。それに片親だけとは言え半分は血が繋がっているんだ、これからぐんぐん背が伸びる可能性だって十二分にある。むしろあのふたりの姉を見てもその可能性の方が果てしなく高い。


   だが。


「あのね、そんな話してるんじゃないの。もしかしてあなたが鍛冶師になりたくなくて赤金に跡継ぎ押し付けようとしてない? って話してるんだけど」

「。」


   …え?


「なんでそんなこと…」

「何となくそう思っただけなんだけど――…図星だった?」

 意地の悪い笑顔になった倭代に一瞬頭が付いて行かなかった。詳しいことはわからないが赤金の様子を見る限りこの時代、鍛冶師なんて充分すぎるほどのエリート職だと思ったんだが――実際これから鍛冶師はどんどん需要が増していく最先端の技術職だし、あの赤金がそれがわかっていて血統を理由に辞退するほどの国家機密色の強い職業なのは否定のできない事実だ。普通ならその跡継ぎに生まれて鍛冶師にならないと言う選択肢はないだろう。

 いや、もちろん21世紀の常識ではキツい汚い危険の三拍子揃っている職ではあるんだろうが、この時代の仕事なんて基本的に肉体労働しかないし、そう言う意味ではどれもこれも似たようなものだ。そんな中でも最先端技術の中央に位置する鍛冶師なんて、普通に考えれば他人に憧れられる職業のひとつに数えられて当然な気がするんだが――…なりたくないって、まさか本当に?

 さすがに意外過ぎて驚いた俺の耳に飛び込んで来たのは、自分の将来を決めかねている子供らしい言葉だった。

「別に鍛冶師になるのが嫌なわけじゃない。父様のことは心から尊敬してるし、鍛冶師の仕事だってすごくかっこいいとも思ってるけど」

「―― けど(・・)?」

「…。」

 そこで黒金は明らかに躊躇っていた。

 それはそうだ、まだたったの10歳やそこらなんだ。既に自分の将来の職業を決めている小学生なんてそうはいない。まだまだたくさんの夢にあふれて無謀な未来さえ夢見ていたって当然の年齢じゃないか。

 とは言え今は時代が違う。20歳を過ぎてもまだ将来像がぼんやりしている21世紀の俺達とは違って、10代半ばには既に働き手として最前線に立って当然のこの時代、10歳は既に将来を決めなければならない年齢なのかもしれない。実際、同じ年頃のスズは既に宮女として働いている。この時代の10歳は21世紀の20歳にも等しい程度には大人への入り口年齢なのかもしれない。

 そんな黒金が、こんな時末っ子なのだと思い知らされるような表情になった。

「――誰にも言わないって、約束してくれる…?」

 考えてみれば赤金とは20くらい年が離れている。これだけの年齢差があればそれはさぞかし甘やかされて育てられただろうことは想像に難くない。それどころかこの時代なら、親子でも決しておかしくはない年齢差だ。

「口は堅い方よ?」


   ホントかよ…疑わしい…。


 とは思ったものの、もちろん口にはしない。口は禍の元とはよく言ったものだとさすがに俺だってわかっている。

「父様にも母様にも、もちろん赤兄にもだよっ?」

「はいはいはい、もちろん白金にも黄金にも言わないから安心なさいな」

白姉(しろねえ)金ヶ姉(くがねえ)のことも知ってるの?」

 驚いた顔を向けた黒金に、そりゃ知ってるに決まってるさ。っつか、あのふたりの一番傍にいる日女巫女様だからな、これでも。

 とはまさか言えるはずもないが、

「知ってるわよ、同じ王宮で暮らしてるんだから」

「ああ、…そうか」

 黒金にはこれでも充分な説明になったらしい。白金達の里帰り事情がどうなっているのかは知らないが、まあ、黒金が宮殿事情なんてそうそう知るはずもないのは確かだろうしな。

 なんてこっちはこっちで勝手に納得している間、黒金は黒金で考えていたらしいが、やがて意を決したらしい。

「――鍛冶師の仕事がいやなわけじゃないんだけど」

「―― けど?」

 そこまで言ってそれでもまだ躊躇う黒金には黒金なりの事情があるんだろう。この時代の職業事情や相続事情は俺にはさっぱりだが、それでも赤金の言うように「一子相伝の秘術」なんてオマケの付いている職業であればそのプレッシャーは相当なモノだろうし、もし黒金の言うように実子の黒金よりも義理の息子である赤金の方を跡継ぎにと本当に父親が望んでいるのであれば、その心情は複雑なものもあって当然だ。

 せめてもの幸いは黒金と赤金の仲がうまく行っていて、かつ赤金自身に黒金の立場を脅かすような意思がまったくないことくらいで――…まあ、腹違いとは言え親子ほども年の離れている幼い弟相手に本気でライバル心を燃やすようならそれはそれでどうかとも思うが。これだけ年が離れていれば赤金の方だってさすがに憎くもなれない、そんなところだろうか。

 そんなことを考えていた俺の耳に飛び込んで来たのは、黒金の予想外の言葉だった。

「でも僕は、もっと色んな世界を見てみたいんだ」

「。」


 …。


「――…え?」

 色んな世界って――…

「世界はこの国よりずっと大きくて、世の中には色んな言葉を話す人たちがいるんだって母様が言ってた。赤兄たちみたいに姿かたちの全然違う人たちがたくさん暮らす母様の故郷にも行ってみたいし、海の向こうには冶金術だけじゃない、もっとすごい技術を持ってる人たちの暮らす国があるんだって父様も言ってた。そんなすごいものを僕はたくさん見てみたい」

 さすがは国際児と言うべきか、外の世界に対する許容力がものすごい。未知のモノを怖いと怯えるその前に一歩踏み出す好奇心が先に立つのはその血のなせる業なのか。一般にリスクを厭わない新規探求傾向は遺伝子に刻み付けられているものだが、そんな遺伝子を受け継いでしまった黒金に基本的に常時工房の中に籠りっきりの鍛冶師の仕事は向いていないのかもしれない。

 きらきらと目を輝かせて見たこともない世界に対する憧れを語る黒金に少し考えるそぶりを見せた倭代は、そして相変わらずの突拍子のなさを見せ付けてくれた。

「じゃあ、その鳩をきっちり飼い慣らすことが出来たら日女巫女様の名前で旅に出られるようにしてあげる」

「本当に?!」

「女に二言はないわ」

「オイ、お前一体何を…」

 そりゃ女王の勅命ともなれば黒金の父親だってゴリ押しして息子を跡取りになんてしずらくはなるだろうが、鳩を飼い慣らすのと鍛冶師の跡継ぎを放棄させるのと一体何の関係が…


   だが。


「(――電話、あると便利よね)」


   …まさか…。


「(黒金が伝書鳩を連れてあちこち情報収集して来てくれたら、外交問題も片付けやすくなると思わない?)」

「(黒金をスパイにし立てるつもりか、お前?!)」

「(外交官と言ってよ、人聞き悪いわね)」


   …マジかよ…。






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