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Iam estis  作者: Muffin
三種の神器
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冷蔵庫?!

「(オイ、倭代お前、埴輪って…)」

 登り窯はまだわかる。それに必要だからレンガも、ってのも。

 だが、埴輪なんて特別生活に必要になんてなりそうもないものを何でわざわざ作らなければならないのかがさっぱりわからない。それはもちろんそろそろ古墳文化も発生する時期ではあるが、正直無理矢理時代を進めようとしているだけにしか見えない倭代の意図がまったく見えなかった。

 それともまさか、自分の墓を埴輪で飾り立てようなんてことを今から考えているのか…言われてみればちょうど卑弥呼の時代当たりから古墳が作られ始めるんだったよな、なんてあやふやな記憶も掠めなくもなかったが、いや、でもこいつは死後自分の業績を讃えて貰おうなんてそんな下らない無意味な自己顕示欲に支配されるような女では少なくともないはずだ。それでなくても現実的で、死後の世界云々なんてそれこそ鼻にもかけないタイプだし。

 そう言う面に限っては俺は倭代を絶対的に信じていたんだが…買い被りすぎていたんだろうか。

 なんて少なからず失望感が掠めかけたその時だった。

「(うん。やっぱり三種の神器ってあると便利よね、と思って)」

「。」


 …へ?


「(――――――――三種の神器?)」

 って――確かあれだよな。天皇家が先祖代々受け継いでるって言う、皇室の正当性を証明する剣と鏡と勾玉―― は?

「(剣と鏡と勾玉を埴輪で作ろうってのか?)」

 意味が分からない。大体そんなものが一体何の役に立つんだか、だし、それをわざわざ焼物で作ろうだなんてこと自体も意味不明だ。


   なのに。


「…剣と鏡と勾玉?」

 返って来たのはあまりにも想定外だと言わんばかりのキョトンとした呆れ顔だった――って、え? お前が言ったんだよな? 三種の神器って?

 その反応の意図が掴めずこっちの方がよっぽどクエスチョンマークを飛ばしまくっていると、はたと言われたことの意味を理解したらしい倭代は突然納得顔をして、しかし次の瞬間、何やらかわいそうなモノでも見るような目付きで俺を見ると、

「…剣と鏡と勾玉って、あなた一体いつの時代の話してるのよ…」

「…?」

 いつの時代、って――三種の神器って言ったらそれしかないだろ、いつの時代でも?

 言われた意味が分からない。それ以外の三種の神器なんてあるわけが――…

 と思いかけて、歴史の授業で聞いたことのある小話がふと脳裏を過った。


   まさか…。


 いや、まさかとは思うがさすがにこれはまさかだよな? いくらなんでもそれはさすがにありえない。

 ありえない。俺はそう信じたかっただけなのかもしれない。


   だが。


「(三種の神器って言ったらテレビ、冷蔵庫、洗濯機に決まってるでしょ)」

「(弥生時代の話をしてるんだよ、俺は!!)」

 お前の方こそ一体いつの時代の話してるんだよ?! この状況下で普通高度経済成長期の話題が出て来るか、普通!? 大体にしてそもそもの発端は埴輪だぞ?! 埴輪で何をどう間違ったらテレビに繋がるんだよ?!


   ところがだった。


「(そりゃテレビはさすがに不可能だけどね)」

 そりゃそうだ。テレビ一台作るのに一体どれだけこの時代にないものが必要だと思ってるんだ。それに、テレビなんて電気がなきゃまず始まらないし、仮に受信機や映像機があったとしても、それを流す放送局や番組を作るスタッフがいなきゃ意味もない。番組を作るにはカメラも必要だし、マイクも要る。要するにこの時代、必要になるすべてが片っ端からないんだから作れるはずもなければ現実問題として作るメリットさえない。

 と、ここまでは俺も倭代も意見は一致していた。

 だが、倭代が違っていたのはその先だった。

「(洗濯機と冷蔵庫があるだけでも生活の質が大分変わると思わない?)」

「(それはそうかもしれないが!)」

 だから! テレビも冷蔵庫も洗濯機も、家電ってのは結局電気があって初めて成立するものであって発電技術のないこの時代にそんなもの、作れるはずがないだろう!!

 それとも何か? 発電所でも作ろうってのか、この弥生時代に?! そいつはすごいな!!

 半分以上やけくそになっていた。登り窯までは妥協しよう。だが発電所はさすがにやりすぎだし、と言うかそもそも文系の倭代が電気の作り方なんか知ってるわけがない。ついでに言っとくが俺だってどうすれば発電機が作れるのかなんてとこまではもちろん知らないし、さすがにいくら何でもそこまでの無茶ぶりなら俺は全力で拒否するぞ。人間出来ることとできないことってのがあるんだ。


   ところがだった。


「(ずっとね、不思議に思ってた埴輪があるのよ)」

「(不思議な埴輪…ああ。確かにあのファンキーな形は意味不明だよな。技術的に稚拙だっただけにしても、あれはさすがに…まあ、だからって兵馬俑(へいまよう)レベルを求めるのはそれはそれできついのかもしれないが)」

 踊る人間だか何だか知らないが、正直ふざけ切っているとしか思えないあのデザインは笑いしか誘わない。実際縄文時代だってあれだけのクォリティの土偶が作れていたんだ、サイズが大きくなったからってあそこまで稚拙なデザインになる理由もわからないし、そもそも死者を弔うために作るのならもうちょっと真面目と言うか真摯的な造形であっても良さげなものを――あれじゃ子供のおままごと用のおもちゃ的な何かを狙ったとしか思えないじゃないか。

 なんて意図で言った言葉を、しかし倭代は違うものを意図して言っていたらしい。

「(ファンキー? ああ、あの人型埴輪のこと?)」

「(埴輪って、人型じゃなかったか?)」

 普通埴輪と言われたらあれを想像するだろ、誰だって。

 と思ったが、それは大きな勘違いだったらしい。

「(人型の埴輪なんて埴輪のうちのごくごく一部分よ。むしろレアな方)」

「(そうなのか?)」

 それは初耳だ。でも言われてみればなんか馬とか鶏とかのも見たことがあるような気もする。

「(埴輪のほとんどは用途のわからない円筒型なの)」

「(円筒型?)」

 そう言えば――なんか博物館か何かで古墳の上にずらっと筒状の素焼きのモノが置かれていたような…あれか。っつか、あれも埴輪って呼ぶのか。

 でも、確かにあれこそ意味不明だよな。あんなにたくさん並べて一体何の意味があったんだか…って、考古学者にもわからないのか。

「(一般には死者に捧げる食べ物を入れる壺用の台、とか、墓荒らしの侵入を防ぐための防御壁なんて言われてるけど、食べ物にしちゃ数が多すぎだし、防御壁にしちゃモロすぎでしょ)」

「(だよなぁ)」

「(で、ひとつ考えたんだけど)」

 と、倭代が何やらいつもの悪だくみを考えている顔になったせいで嫌な予感がして来た。こいつがこう言う顔をする時は大抵碌なことを考えてないんだ。

「(壺を置く(・・)ための台じゃなくて、もしあれが壺を入れる(・・・)ための容器だとしたらどう?)」

「(…壺を――…入れる…?)」

 言っている言葉の意味は分かるが、言わんとせんことの意図がわからない。必要なものは既に壺の中に入っているんだ、その壺をわざわざ更に別の容器の中に入れる必要はないだろう。容器を二重にする理由なんて――…

 とそこまで考えてはたと思い出した。

 二重の容器。つまり――魔法瓶のことを言っているのか?

 この時代の技術じゃさすがに真空を作り出すことは不可能だが、それでも二重にすることで保温性は確実に高まる。暖かいものを温かいまま保温するなら確かに二重容器にするのは有効だ。

 だが、そもそも話をしていたのは保温じゃなくて冷蔵庫、つまり保冷の話じゃなかったか? 最初から冷たいものを運搬するのにはある程度有効だろうが、さすがにそれで冷蔵庫は言いすぎなんじゃ…

「(ジーアポットって言ってね、古代エジプトで使われてた素焼きの気化冷却装置があるのよ)」

「(…気化冷却…)」

 って、それもしかしなくても恐ろしく科学的な話なんじゃ…?

「(素焼きの壺の二重構造でね、間に湿らせた砂を詰めてあるの。外気温でその水分が蒸発すると壺の中が気化冷却されるってわけ)」

「(マジかよ…)」

 古代エジプトの時代に気化冷却? さすがは天下のエジプト文明様だな――…って。

「(ちょっと待て。まさかお前、それを日本でやるつもりか?!)」

「(日本は多湿だからうまく機能するかどうかはわからないけど、水を足すだけでいつまででも使えるんだし、試す価値はあると思わない?)」

 そりゃ確かに夏場の食中毒回避にも役立つしあって助かる技術には違いないが!

「(円筒埴輪は実は古代の冷蔵庫でした! って、学会もきっとびっくりよね♪)」

「(お前絶対おもしろがってるだろ!?)」






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