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Iam estis  作者: Muffin
Dr. 白彦
42/85

秋田美人?!

「しっかし、それにしても大した美少年ねぇ…」

 ひとまず人心地付いたところで包帯を巻いた鳩を手渡されて嬉しそうにする黒金をマジマジと眺めていた倭代の本心はそこにあったらしい。

「さすがはあの白金・黄金の弟と言うべきか…そこの赤鬼(あかがね)とホントに血、繋がってんの?」

「…。」

 倭代、お前…もしかして今、ものすごく失礼なルビ振らなかったか?

 なんて周囲の視線を気にすることもなく相変わらずマイペースな女王様ぶりだったが、しかしそんな倭代に言われるまでもなく黒金は確かに鬟を下ろしてきれいに着飾れば美少()でも通じるような美少年だった。兄姉達と違って髪や瞳の色こそ日本人として充分通じるレベルの黒いものだったが、肌は白いしまだ子供だからだろうが体格も華奢で、外見上は多少エキゾチックな顔立ちの日本人、と言う感じだ。他の三人と違ってこれならこの国の中でも飛び抜けた「美少年」程度の違和感で生活にも溶け込めているのだろう。

 実際赤金と違って身なりもちゃんとしているところからして、どうやら普段は里で普通に暮らしているようだし。

「黒金は父親の血が濃いんだよ」

 さすがの赤金もふくれてぶっきらぼうな口調になったが、

「ってことは、あなたたちの母親が金髪ってこと?」

「ああ。俺達の母親は攫われて来た蝦夷(えみし)だからな」

「なーるほどねぇ…」

 なんて倭代はひとりで納得していたが、…待て待て待て待て。蝦夷? 蝦夷って確か、東北で暮らしてた倭人のことだよな? いくらこの時代の生活範囲が狭かったったって、東北だって立派な日本国内だし人種的には同じ黄色人種だろ。なのに何で東北人だと金髪になるんだ?

 わけがわからずこっそり倭代を突くと、

「ああ、There is...(古代の東北にはどうやら白人がいたんじゃないかって学説があるのよ)」

「(…マジかよ…)」

 東北に白人? そんな話聞いたこともない。

「(ほら、色白の秋田美人って言うでしょ? あれも実は白人の遺伝子が混じってるからなんじゃないかって説があって)」

「(…オイオイオイオイ)」

 いや、それはただ単に東北は日照量が少ないから日焼けしないってだけであって…ある程度の日光の健康への有用性はもちろん否定はしないが、基本的に紫外線は肌にとっては過酷な刺激物でしかないからな。

 だが、そこへ思わぬことを言われて固まった。

「(もちろん私も半信半疑だったんだけどね、木ノ葉見て思い出したのよ)」

「…木ノ葉?」


   何でここで犬が出て来るんだ?


 と首をかしげると、

「(犬って人間にくっ付いて移動する上突然変異しやすいから、その遺伝子情報調べることでその民族の移動経路を割り出せるんじゃないかって考えた人がいるのよ)」

「(…犬の遺伝子って…)」

 考古学ってのはそこまでやるのか。名称こそなんか泥臭いフィールドワークだけやってる学問に聞こえるが、実際にやってることは科学技術の最先端だな…まあ確かに犬の多様性を考えるとそれはそれで非常に興味深いアプローチ方法ではあるが…

「(で、秋田犬だけは他の和犬と違って明らかに洋犬にしか見られない遺伝子が見付かったらしくて、秋田美人は白人遺伝子、なんて話になったんだとか)」

「(…マジかよ…)」

 おもしろい研究内容ではあるが、いくらなんでも飛躍しすぎだろ、それはさすがに。大体秋田犬は一度絶滅しかかったからシェパードやマスティフなんかの洋犬と交配して種を維持したとか聞いたことあるぞ? それに秋田犬なんて日本犬に見えるのはシルエットだけで顔立ちなんかはあからさまに洋犬だし、そんな遺伝子を今更調べて証拠に持って来られても…

「(でしょ。だから私も信じてなかったんだけど――どうやらほんとにいたみたいね、白人が)」

 なんて目の前でその証拠を突き付けられてはこっちも否定の余地もない。確かに黒金こそいわゆる国際児的な顔立ちだが、赤金を筆頭に白金も黄金も完全な白人顔だ。もしかしたら「白彦(アルビノ)」を生み出すために、東北くんだりまで白人女性を攫って来るような非人道的な慣習が宗教色の強いこの国にはあったのかもしれない。まあ、単純に考えれば白人ってだけで充分アルビノに見えるのが現実だからな、白人を知らない黄色人種からすれば。

 呪術世界におけるアルビノ崇拝はアフリカなんかでは未だによく聞く話だが、まさか古代日本でも同じことをしていたとは…もしかして俺は、いつか生贄にされるためだけに生かされているんだろうか…?

 なんて、考えるだけでぞっとして来た。いや、実際神籬の儀なんて生贄の儀式そのものだしな。下手をすれば白彦なんて、日女巫女が儀式を生き残るための食料として宛がわれただけのものなんてことも充分ありうる。アルビノの肉体を呪術的用途で用いるのなら、お守りに肉体の一部をミイラ化して持ち歩くなんてのより、食べて血肉にするのが究極だ。実際、世界には呪術的な意味で死んだ肉親の加護を求めて葬式としてその肉を食べる習慣のある部族もつい最近までいたんだし―― いや、迷信ってのは根強いもんだからもしかしたら非公式にはまだいるかもしれない。

 だが、不運にも事故死した健康な死肉とか言うならいざ知らず、万が一それが強力な感染症か何かで病死した遺体だとすれば、下手をすればそれを食べた健康な遺族だって全員もれなくあの世逝きだ。そんなアホらしい迷信のために一家揃って全滅とか、バカバカしいにもほどがある。

 なんて考えるのは衛生第一の医者の発想であって、本人達は真剣にそれを信じてやってるんだろうな、と言うのがもどかしすぎるところなんだが。

 だが、これで古代日本の邪馬台国にどう見ても白人にしか見えない白金達が実在している理由がわかった。そして、そんな迷信のためにわざわざ東北まで戦争を吹っ掛けに行っていたのならそれは戦争なんて絶えるはずもない。倭国大乱なんて言ったってやってることはトロイ戦争と同じじゃないか。色白美女をめぐって戦争を繰り返してただなんて、今も昔も洋の東西を問わず男ってのは本当にどうしようもない生き物ってことなんだろうな。

 結局、どこまで行っても戦争の究極の目的は女、ってことか。まあ、生物学的に突き詰めるとオスってのは、進化繁殖のための遺伝子の一時保管庫でしかないからな。大体同族同士で殺害も辞さずに争い合うなんて、考えてみれば種の繁栄の法則からは完全に逆行したただの愚行だし。


   ―― いや。


 白彦なんてそんな奇跡に縋らなければならないほどこの時代、寒冷化で農作物が採れなくなっていた――そう言うことなんだろうか。






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