運命のいたずら
「ねぇ、誰か腕のいい土器職人知らない?」
思い立ったが吉日は倭代の専売特許だ。瞬発力がいいと言うか行き当たりばったりと言うか、理論や想定を考えるよりまず先に身体が動く。文系の学術形態がどう言う法則で成り立っているのかは知らないが、少なくとも理系では絶対にありえない研究パターンだよな。理系はまず理論ありきだから。
そう言や本人もいつぞや「フィールドワーク中心」みたいなこと言ってたよな…それとも文字文献のない時代が専門ならそうなってむしろ当然なんだろうか。
ともあれ、そんな倭代の質問に、
「そうですわね…では、日女巫女様のお眼鏡に適う腕かどうかはわかりませんけれども赤金などはいかがでしょう?」
「…赤金?」
ふと、思い出したかのように白金が赤金なる人物の名前を推挙して視線が集まった。
…っつか、どっちかっつと婢全員で慄いた、っつか…何だ、この異様な雰囲気は?
まるで信じられないものでも見るかのような目で白金の方を見る周囲の婢達に何だか妙な違和感を覚えたが、その理由は当の白金の口からすぐに暴露されて理解した。
「とは申せ、赤銅色の髪とその巨体と火の点きやすい性格が災いして化け物と恐れられ、山に籠って日がな一日ただひたすらひとりで土を捏ねている変わり者でよろしければのお話なのですけれど」
「赤銅色の髪?」
ってそれはつまり白人ってことか? 現実問題としてここには白金や黄金みたいな明らかな白人がいるんだから、赤毛の白人がいてもおかしくはない。なるほど。それで「赤金」か…白金と言い黄金と言い、まんまだな。
普段黒目黒髪のアジア人しか見慣れていない弥生人からすれば、ブロンドほどではないにしても赤毛は充分目を引く異質な存在だろうし、ペリーが鬼や天狗なんかだと言われたのと同じで異質な外見はそれだけで畏怖される。ましてやそれが自分達より明らかな巨体であれば恐怖の対象として猶更だ。
そんな予測は間違っていなかったらしい。
「恥ずかしながら、私共の不肖の兄ですわ」
ぶすっ、とおもしろくなさげに黄金が言葉を継いで――って、このふたりの兄?
って、兄妹かよ…そりゃ白人に決まってるよな。ごくごくわずかな例外を除いてほとんどの場合黒目黒髪で生まれて来るのが当たり前の日本人と違って、白人は生まれてみるまで自分の子供がどんな髪の色でどんな虹彩の色を持って生まれるのかわからない。そのくらい親子間、同じ両親から生まれた兄弟間でさえも色が違っているのが白人では当たり前なんだから、ブロンド姉妹の兄が赤毛でも何の不思議もない。
だが、このふたりの兄ともなれば相当なイケメンだろうに…赤毛ってだけで忌避されるとは何とも気の毒な話だ。世が世ならモデルやアイドルみたいな華やかな世界で活躍することだってできたかもしれないのに、たまたま生まれたのがこの時代のこの国だったってだけで鬼子扱いで世捨て人人生か…運命のいたずらってのは残酷なもんだ。
「土を捏ねることしかできない者ではございますけれども、その分土を捏ねることでしたらきっと日女巫女様のお役にも立てますかと」
「性格的には少々難アリですけどね」
「ふーん…」
…なんと言うか…黄金がキツい性格なのを差し引いても実の妹にここまで言われる赤金がさすがに不憫になって来た。一体どんな性格なのかは知らないが、とは言え何しろこの黄金の兄だ。妹に負けず劣らずの相当キツい性格の可能性は確かにある。
なんて、見たこともない赤金のことを何となく想像していた俺の耳に、
「じゃあとりあえずその赤金、白彦に紹介してあげてくれない?」
「…へ?」
って…。
「待て待て待て待て!」
正直黄金だけでも充分辟易してるってのに、それよりすごいのが出て来たらどうしてくれるんだ! 確かに誰か紹介してくれ、とは言ったが誰でもいいわけじゃない! 最低限、会話は成立する相手でないと俺だってさすがに――…
「それは構いませんけれども…」
白金っ、そこは構ってくれ!! 万が一にも黄金以上の奴とか、想像しただけでも俺には無理だ!!! 大体わざわざそんなワケありを敢えて選ばなくたって、別に土器職人くらい他にいくらでもいるだろ!
「何しろ本当に山奥に隠遁しております者ですので、白彦の足で辿り着けますかどうか…」
「…。」
途端、今日は菜の花畑探しで足腰ボロボロ状態なのを思い出してしまった。
そうだ、いくらなんでもまた山奥まで歩いて行くのはさすがにこの身体にはキツすぎる。それでなくても白彦はモヤシなんだ!!
なのに。
「大丈夫大丈夫。こんなでも一応は男なんだから、少しは歩いて鍛えなきゃね」
「他人事だと思って言いたい放題言いやがって、てめえ!!」
好きでこんなモヤシな身体に転生したわけじゃない! っつか、一応って何だ、一応って!? こんなとか言うな!!
反射的に思わず英語の時のノリでタメ口が出てしまっていた。
当然、
「白彦! 日女巫女様に向かっててめえとは何事です!」
「あらあら、その言葉遣いはさすがによろしくありませんわよ、白彦」
「…っ」
当然黄金だけでなく白金からも苦言が飛び出したが、言われなくてもさすがにそのくらいはわかっている。わかってはいるが――…正直俺にとってあいつは日女巫女である前に倭代なんだ。中身だけの話とは言え実際あっちの方が年下なんだからタメ口になるのはある程度当然の結果だし、その上あの性格を知っていて今更敬語なんか使えるはずもないだろう。
と、言い分だけならいくらでもあるわけだが、悲しいかな本当のことなど言えるはずもないのが現状だ。
そんな俺の実情をわかっているだろうにニヤニヤしてフォローする気もない倭代が相も変わらず憎たらしい。
「じゃ、白金。連絡取って貰える? 約束が取れ次第白彦を行かせるから」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
また山登りはさすがにキツい。せめてもう少し体力が付いてから…
「可能な限り早く土器職人に会いたいのはあなたの方でしょ」
「それはそうなんだが!」
確かにアルコールは欲しい。一日でも早く欲しいのは事実だが、物理的な問題でできることとできないことってもんが世の中にはあるんだ!!!




