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Iam estis  作者: Muffin
弥生クッキング
22/85

セピア?!

 てなワケで、まずは宮殿内の婢達の虹彩の幅測定から始まった。

 だが、自分で言うのもなんだが白彦は雲の上の人。彼女達にとっては顔を見ることさえタブーな存在らしく、ましてや直接目を見るなんてそれこそ憚られるようで、いざ測ろうとしても目を逸らされたりしてなかなか思うように測れない。

 宮殿に上がれる婢達でさえこのレベルなんだ、宮殿の外の一般人なんて考えるまでもなくもっての他状態だろう。だが、男の虹彩測定もしなきゃいけない以上、宮殿を出て外での交流が不可欠になるのがわかっているだけにこれは頭の痛い問題だ。

 となれば、相手と直接目を合わせているようには少なくとも見えないモノが必要だ。かなりの至近距離にはなるがこちらからは見えるがあちらからは見えずらい、そんな都合のいいものが。


 なんて、そんなもの遮光器(サングラス)しかないだろ。


 それに俺だって一生宮殿の中に閉じこもって生活するわけにはいかないし、建物の外に出るとなればどちらにしても今のこの身体には遮光器はどうしたって必要になる。

 そんなわけで色々と試してみることになった。木の板、竹、革、布、動物の骨…思い付くものなら何でも片っ端から試しているとさすがに工夫できる箇所にも気付いて来て、毎回少しずつながら改良を重ねることができるようになっても来ているのが自分でもわかる。

 鼻梁のカーブ、眼窩の窪み、耳に当たるフィット感、エトセトラ エトセトラ。21世紀なら格安量販店に行けばほんの数千円で買える程度の眼鏡だって、それらに負担をかけないようにする条件はすべてクリアされている。より快適なあの形を作り出すまでに人類は一体どれだけの時間をかけて試行錯誤を繰り返したのか。


『 実現できる可能性が100%だとわかってるゴールを目指すだけなら、できるかどうかもわからないものをゼロから考え出すよりはよっぽど簡単なはず 』


 確かに倭代の言うとおりだ。

 そもそも正解があるかどうかもわからないものを試行錯誤するより、どうすればああなるのか、と言う逆からの発想で目指すゴールは目標とする完成形が見えている分ずっと容易い。もちろんそれに見合う技術や詳しい知識は俺にはないが、

「確かこんな感じのものだったと思う」

 なんて曖昧な記憶と知識だけでも、それさえなくてやる奴よりはずっと条件的には恵まれている。もちろん試行錯誤は必要になるが、それでもその原理やそうしなければならない理由の見当が作る前から付いているのは圧倒的なメリットだ。

「白彦様、お食事をお持ちしました」

 なんて先人の苦労に感謝しながら今日も石器片手にシャコシャコ竹を削っていると、いつものようにスズが食事を運んで来てくれた。


   だが。


「――またイカか…」

 もうここしばらく毎日毎日、なぜか気が狂ったようにイカばかりが出て来る…単純に今がイカの旬なのかもしれないが、さすがにもうちょっと他にあるんじゃないのか、と愚痴くらい言いたくなるレベルに、本当に毎日毎食イカ尽くし。

 春先なんてそれこそ他にいくらでも食材はあるだろうに、何だってよりにもよってイカなんだ。いや、別にイカがまずいとは言わないし、低脂肪高蛋白な栄養価的にも優秀な食材なのも認めるが、こう毎日イカ刺しばかりじゃさすがに飽きて来る。イカ刺しはイカ刺しでもちろんうまいが、正直な話もうちょっとバリエーションも欲しいし、何よりアニサキスが怖い。この時代だと調理法はあまり豊富とは言えないようだが、最低限火を通して貰った方がまだ安心して喰える。

 だが、そんな俺の反応にスズの方が心底恐縮しまくって、

「お気に召しませんでしょうか…?」

「いや、そんなわけじゃないんだが…」

 別にイカが嫌いなわけじゃないし、粗食は粗食で慣れれば案外悪いものでもないとも思うが、それでもやっぱりもっと牛肉や豚肉なんかも喰いたいと思うし、何よりこう毎日毎日同じもんばっか喰わされてるとさすがに飽きても来る。せめてもうちょっと調理方法が違ってればまだ気分も違うんだけどな。

 でも、ある日から突然食卓にイカ刺しばかり並ぶようになったのには驚いた。もちろん21世紀じゃないんだからそうそう色々な食材が並ぶような豊かな食生活を期待できないのは受け入れるしかないと諦めてはいるが、それにしたって何でイカ…。

 ついつい溜息も出てしまうと言うものだ。

「申し訳ございません。日女巫女様が毎日いかをお出しするように、とおっしゃられまして…」

「え?」


   倭代が?


 あの女、そんなにすごいイカ好きだったのか…って、違うだろ! あの女ひとりの趣味趣向になんで俺まで付き合わされなきゃいけないんだ!

 ところが、なんとそんな我儘女王の身勝手に付き合わされているのは実は俺だけじゃなかったらしい。

「いえ、私たちも毎日いただいています」

「…は?」

 私――()って…え? そんな大量にイカを毎日献上させてるのか、あの女?

 オイオイオイオイ、冷凍技術どころか冷蔵技術もないこの時代にそんな大量の人間に生のイカなんか喰わせまくったら食中毒騒ぎが起こるのは時間の問題だろう。一体何を考えてるんだ、あの女は?

「ちょっとひと言言って来る」

「あの…っ、白彦様…っ?!」

 医者としてもそれはさすがに看過できない。宮殿を管理する立場としても少しはリスクを考えるべきだ。


 てなワケで倭代のところまでやって来たわけなんだが。


「あら、今度は何?」

 行ってみると倭代も食事時だったようで、相変わらず「姫巫女様命!」な黄金たちの憤慨した視線がなんとも痛い。もともとこうやってしょっちゅう現れる俺が黄金たちにはどうやら面白くないらしく、すっかり嫌われているのはさすがの俺でも理解はしている。理解はしているが倭代に苦言を呈せるのはこの宮殿では俺のみ。俺が言わなければ倭代の専横は進むばかりだ。

「何? じゃない! お前がどれだけイカ好きかは知らないが、抵抗できない婢達までお前の趣味に付き合わせるな!」

 このパワハラ女王が!


   ところが。


「別に私だってイカなんか大して食べたくはないわよ」

「。」


 …。


「――は?」

 いや、でもお前の食卓だってイカばっかり――…

「でもイカ墨なら手っ取り早く手に入るでしょ」

「…イカ墨?」


   何だって?


「メモも取れないのって色々と不便じゃない」

「――って…」


 まさか、筆記用具(インク)を作るつもりなのか?!


 オイオイオイオイ、弥生時代に文字なんかなかったはずだろ、日本には! そんな時代にイカ墨インク(セピア)とか、またお前は過去を改変しようとしてるのか?!

「(何言ってるのよ。弥生時代に作られた硯、九州で出土してるでしょーが)」

「(知るか!)」

 だから俺は医者であって考古学者じゃない!

 ―― じゃなくて、…は? 弥生時代の日本に既に硯があった? 聞いたこともない。そもそも日本に文字が伝来したの自体が飛鳥時代とかじゃなかったか? 文字もないのに何で硯があるんだよ?

「(だからあったんでしょ、文字が。この時代にも)」

「(嘘だろ…)」

 待て待て待て待て。それ俺が習った歴史と全然違うし、そもそもこの宮殿内で文字なんか見た記憶一度もないぞ?

「(まあ、文字って言っても税収なんかの管理に使った数字とか記号のレベルだけだろうし、それがわかる識者もごくごく限られた大きな国の、それも官吏だけだったでしょうけどね)」

「(だとしても…)」

 いや、考えてみればこれだけ整然とした田んぼや建物を作るだけの高等技術があるんだ。稲作と一緒にある程度の数学や文字程度の文化なら輸入されていても何もおかしくはない。一般庶民にまでは普及していなくても、文字を理解する程度には教養のある渡来人がこの時代の日本には確実に住んでいるはずだ。

「…。」


 もしかして、弥生時代って俺が想像してたよりよっぽど文明進んでたりするのか…?






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