ハーレム?!
「(しっかし考えてみりゃものすごいハーレムよね)」
「(? ハーレムって――…誰の?)」
突然話が意味不明な方角へ飛んで付いて行けなかった。いや、この女の思考回路はどうもぶっ飛んでるのがデフォルトなようで、これから先これに付き合っていかなきゃいけないのかと思うだけで頭痛がして来る。
と言うか、確かにここは王宮で一般にハーレムと言うものがあるとすれば正にここにあるはずなわけだが、生憎今ここの主はこの女で当然のことながら女王だ。歴史には詳しくないしそう言ったものに興味もない俺が「例外など絶対にない」と断言はできないが、それにしたって女王の治世にハーレムはさすがに存在しないだろう。
と思ったら、やっぱりこいつの思考回路はぶっ飛んでいた。
「(あなたの)」
「…。」
――。
「はあ?!」
何がどうしてそうなった?!
視界の隅で突然素っ頓狂な声を上げた俺にスズがびくりと肩を震わせたのが見えたがこっちはそれどころじゃない。
そもそも白彦は国王じゃないし、ここはあくまでも日女巫女の神殿兼王宮だ。なのに何をどうすればこの王宮が白彦のハーレムなんて話になる?!
「(あのね、よく考えてみなさいよ)」
なのに倭代の方はそれがわからない俺の方こそ頭が悪いとでも言わんばかりの当たり前の顔つきで、まるでモノを知らない子供に教え諭すかのような口調で、
「(ここは女王の宮殿で、あなた以外は女王以下女しか立ち入ることさえ許されてない場所なのよ?)」
「(…らしいな)」
宗教の世界では一般に女人禁制のケースの方が多いが、ここは逆らしい。まあ、肝心のトップが女なんだから男女入れ替わった発想になるのは必然とも言えるが、白彦がここに住まわされているのはあくまでもアルビノのこの身体が宗教的シンボルとしてインパクトが強いからであって、別にここにいる婢達すべてが白彦に仕えているわけじゃない。現実的な問題からスズを筆頭に確かに白彦付きってことになってる婢達ももちろんいるにはいるが、それだっていいところ4~5人程度。パワハラ、セクハラし放題のこのご時世なら気が向けば、なんて話もないこともないのかもしれないが、それでも4~5人程度でハーレムはさすがに言いすぎだろう。
「(じゃあ、なんであなたはここに住むことが許されてると思ってるの?)」
「(そりゃアルビノだからだろ?)」
白人の存在さえ知らないこの時代の人間からすれば、この異質すぎる外見は特別視を誘うのに充分すぎる価値がある。いつの時代のカリスマも能力だけじゃなく、何らかのハッタリを利用して強烈なインパクトを群集に与えることでより大衆心理をコントロールするのが常套手段ってもんだ。
「(そ。宗教的権威を維持するためにこの国では必要なのよ、アルビノが)」
「(そんなことくらいわかってる)」
だから、何が言いたいんだよ?
なのに、倭代は突然話をはぐらかそうとでもしたのか、
「(ところでこの時代、日本の総人口がどれくらいだったか知ってる?)」
「(さあ…)」
知るわけないだろ。古代史なんてお前と違って俺は専門外なんだ。まあ、医療は専門だからアルビノが日本では2万分の1くらいの確率でしか生まれて来ないってことくらいなら知って…
「(これはあくまでも学説のひとつでしかないけど、60万人くらいだったんじゃないかって言われてるのよ)」
「(…ちょっと待て)」
邪馬台国の人口がそのうちの一体どの程度を占めていたのか見当も付かないが、日本全国でたった60万の中の、更に2万分の1?!
「(この国の中限定で、アルビノの男子が果たしてそう都合よく常時生まれてなんてくれるものかしらね?)」
「…。」
いや、それは奇跡以外の何物でもないだろう。だとすれば今回の神籬の儀だって数十年…いや、下手をすれば建国以来初めて行われた可能性だってある。
「(でもね、もし父親がアルビノならアルビノの子供が生まれる可能性は格段に上がるわよね?)」
「。」
それは当然だ。少なくとも片親が確実にアルビノ因子を持っているんだから両親共アルビノ因子を持っているかどうかわからない場合よりずっと確率は高 ――…
「(…まさか…)」
倭代の言わんとせんことが見えて来て、冷や汗が流れた。
「(次の神聖な「白彦」サマの母親になれるかもしれないって、考えてみればすごいステータスよね)」
「(待て待て待て待て)」
「(≪倭人の条≫によると卑弥呼の宮殿には1000人の婢が仕えてたって話だから…)」
「(1000人?!)」
いくらこの時代としては巨大な建築物ったって、この建物の中でそんな数の人間が働けるわけないだろ!!
「(ま、話半分と仮定しても毎晩頑張って1年半。次会う時は離乳食食べてる子供がいるって計算になるのかしら?)」
「(何の計算だ!!!!!)」
お前今なんか恐ろしい話しただろ?! 恐ろしいと言うか、悍ましいと言うか…!
誰がっ?! 何をっ?! どう頑張るって?! え!?
「(でもほんとびっくり。卑弥呼に会える男はひとりだけとは知ってはいたけど、まさかそんな役割も兼ねてる男とは思いもしなかったわ)」
「(だからそれはあくまでもお前の勝手な妄想だろう!?)」
話を勝手に進めるな!!
「(何言ってるのよ。私はここに来るまでずっと絶対宦官だと信じてたわよ)」
「(かんがんって…)」
倭代お前、何か更に恐ろしいこと、今サラッと言っただろ、サラッと。
「(女の園に権力者でもない男がひとりだけ許されてるなんて、普通に考えたらそれしかないでしょ)」
「(そうかもしれないが!)」
だが、この女の恐ろしさはこんなもんじゃなかった。
「(え…それとも何?)」
「?」
突然、逆に倭代の方が予想外の衝撃を受けたかのような表情になったせいでこちらの興奮の箍を外されて。
「(――もしかして、…まさかほんとにないの、あなた?)」
「(何の話だ!!!!!)」
この女と手を組むなんて、やっぱり一世一代の間違いだったと思い知らされた。
何がどうしてこうなった…。




