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子供の涙には弱いのです?

あれから、1番内容量が多い私のインベントリ内に、全ての物や遺体をいれ、女の子はバスコンの奥の寝室に寝せ、あの血生臭い場所を離れた。

セイは途中から見ていた様で、顔を顰めていた。

今は寝室で女の子の様子を見ている。


「…きゃぁ!、貴方は誰ですの?母様?父様?ばぁや?」


しばらくすると寝室から叫びが聞こえ、私は助手席から移動し寝室に向かう。

目覚めてしらに居場所なら混乱して当たり前だ。


「落ち着いて、ここは安全だから、ね?」


わたくしをどうする気ですの⁈」


セイが宥めるが、女の子の反応は悪い。

そこに、私がわってはいった。


「はい。貴方は少し落ち着こうね?セイはココアでも入れてきてくれる?」


セイは、頷くとすぐ寝室から出て行く。


「さて、私はユカ。一応Bランクの冒険者よ。さっき居たのは、セイ、私の息子よ。ビックリさせてごめんなさいね。……貴方の名前を聞いても良いかしら?」


私は女の子を怖がらせない様に、ゆっくり近づき、ベッドサイドの椅子にすわる。

冒険者カードを見せて身分をあかす。

すると、少しは落ち着いたみたい。


わたくしはキャロルと申しますの。わた、わたくし…私の、母様や父様は……」


「ええ。私達が着いた時には手遅れでした」


思い出したのか、話終わらないうちにポロポロと、大粒の涙を流しながら、静かに静かに泣きはじめた。

声を殺して泣く姿に見てるこちらが辛くなる。


恐らく両親にあの隠し場所に入れられ、皆が惨殺されるのをずっとずっと、聞いていたのだろうと、想像できた。

自分も殺されてしまうかもしれない恐怖と、独りぼっちになってしまうかもしれない恐怖に侵されながら、耳に入るのは身近な家族の悲鳴、怒号。

震える身体をギュッと抱え込んで、周りに聞こえない様に息を殺す。

襲ってきた連中に悟られないように静かに耐え抜いた。


そっとベッドに近づき、泣いてる女の子の小さな背中をさすってあげる。


「もう、ここには恐いものはいないわ。声を出しても大丈夫よ」


背中をトントンしてあやしつつ言うと、暫くして、堰を切ったように大声で泣き出した。

悲しい時に泣けないのは辛い。

辛い時に1人は、胸が張り裂けそうになる。

私は女の子が泣き止むまで抱きしめて続けた。




しばらくするとキャロルは泣き止み、居心地が悪そうにモゾモゾと動き出した。


「あの、恥ずかしいところをお見せして……」


「子供が気を使わない。泣くことは恥ずかしい事じゃないからね?」


恥ずかしそうに、おずおずと私の胸から顔を上げたキャロル。


車が止まる気配がする。

すると、モギじぃがそっと、寝室に入ってきた。

キャロルがビクッとするのがわかる。

モギじぃを私の空間に戻すの忘れてた。


「主よ。昼食飯はいかが致すのかとヒロ殿が聞いておるがの、どうするのじゃ?」


「ああ。もうそんな時間か、キャロルはご飯は食べられそう?」


「はい、大丈夫です!と言いたいところですが、今は無理そうです。何も食べたいと思えなくて」


「それはしょうがないでしょ?無理はしない。でも、何も食べないのは体に悪いからプリンでも持ってきましょうか」


ぷりん?と、首を傾げている可愛いキャロルの頭を、撫でるとベッドから立ち上がり寝室を出た。


台所で冷め切ったココアを手にして、しょぼくれている息子の頭をワシワシと強く撫でる。


「そのココアは私が飲むから、セイはもう一度ココアを入れて持って行ってあげなさい。いきなり近づかない、大きい声で話さない、優しくてね?」


「うん、わかった」


セイは嬉しそうにココアを作りはじめた。

私は、冷め切ったココアを受け取り、飲みながらヒロの所に戻る。


「泣き声したけど大丈夫?」


「大丈夫じゃないわね。ご飯は無理そうだから後から、プリンを持っていくわ。私達のご飯はここで食べるの?」


「ああ。マップ的にあと3時間くらい走れば街に着きそうなんだ。急ぎたいのは山々だけど、女の子にも事情を聞かないといけないし、場合によっては、その街には寄らずに次の街に行くつもりもある」


ヒロと私は、運転席と助手席を180度回転させる。

目の前にはテーブルがあり、テーブルを挟むようにベンチソファーが左右につけられている。

運転手席の真後ろはセイが座る場所で、助手席の真後ろは、ユウがチャイルドシートに縛られている。

先程から、車が止まったので早く降ろせと催促して両手を此方にバンザイしている。

可愛いやつよの。


「そうね。モギじぃの意見では魔物にやられたと思わせたい誰かのせいだろうって。ヒューマンとは断言はできないが、知性がある人型である事は間違いなさそうよ」


私は、インベントリからチャーハン、焼売、餃子、春雨スープを人数分取り出す。


「だろうな。その、知性ある人型がこの先にある街にいなければ良いが……先に食べてるぞ」


春雨スープはキャロルの分も出し、ついでにプリンも出して寝室に向かう。その姿に、待てはできんぞ!とヒロが宣言して来た。

そういうところが、子供っぽくて可愛いのよね。


「うん、冷めないうちに食べて。プリンをキャロルのところに持って行くから」


旦那の可愛い姿にクスリと笑いながら寝室に向かう。


寝室に入ると、嬉しそうにココアを飲むキャロルと、完全に恋に落ちている息子の、なんとも言えない空気が漂っていた。


「セイ、お昼ご飯を食べてきちゃって。キャロルは……はい、プリンと春雨スープ。食べられそうなら食べてみて?」


セイは不満そうな顔をしたが、ちろり、とキャロルの顔を見るとしぶしぶ、本当にシブシブ寝室を出て行った。


先程のしょんぼりとして可愛い息子は、どこへ行ったんだ?








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