これワンチャンありますよね?
「あんた今の気持ちどう?」
「あれもしかして悔しすぎてなんも言えない?仕方ないなぁ。私だけずっと傍にいてあげるよ」
黙れ。
はぁはぁ。
無意識に息が荒くなっている。
まさに悪夢だな。
いてて。まだ右頬と腹部の痛覚が残っている。あいつら手加減無しかよ。
まじイカれてる。
右腕、左腕と順番に力を入れて上体を起き上がらせる。
「もう、大丈夫?」
横から透き通るような美声が聞こえる。
声のする方へ目を移らせるとそこには橘花凛がいた。
普通ならなんでここにいるんだ?今は授業中だぞ?などの質問をするだろうが、俺はなんせ生粋の陰キャぼっちだったので、そんな質問が浮かぶことはなく。
「ふぇえ?」
腑抜けた声を出してしまった。可笑しくて顔を合わせられなくなったのか橘はそっぽを向いて失笑する。
「ごめんなさい。つい面白くて。意外でしたあなたがあんなこと言うなんて」
なんのことかと思ったけど、さっきの藤原の事だということが、明確に脳裏に浮かんだ。
「ちょっと耐えきれなくなってな。」
ふふっ。と可笑しそうに笑う橘。
何がそんなに面白いんだよ。とつい突っ込みたくなる程だが、我慢我慢。
「橘こそ。なんでここにいるんだ?」
「さっき意識失ってから、私が見守ることになったんです。というか私が率先してやったんですけどね。」
「なんで俺なんかに、、。」
「そりゃ私の王子様ですから。」
「ふぇえ?」
また腑抜けた声を出してしまい、橘は口元を指で隠しているものの、失笑し笑い声が聞こえる。
「私、なんか学校の四大美女とか呼ばれてて、それで気に食わないからって藤原さんにいじめられていたんです。それを救ってくれたのがあなたなんです。」
なるほど。じゃねぇぇぇぇえ!。
境遇すぎるだろ。ちょうど橘がいじめてて俺がたまたま助けたと。偶然にもほどがあるわ。
こんな四大美女と二人きりなんて珍しいというか、奇跡としか言いようがない。
学校のモブキャラである俺がこの人の隣にいていいのだろうか?。
こんなとこ見られたらスキャンダル。次こそ学校から永久追放になってしまう。
「そんなに焦ることないですよ。この保健室には今、私とあなただけですから。」
いやいや。何も安心できませんよ。その状況こそやばいんですからね。
てか、人とどうやって会話するんだっけかな。藤原のせいでまともに人と話す機会なんてなかったし。まず日本語話せてるかな。
考えれば考えるほど混乱し思考が錯乱する。
「あれもしかして混乱してます?」
イエス。まさにその状態でございます。
「私元々、こんなに明るくなかったんですよ。小学校の頃は地味で目立たなかったんです。」
意外だ。こんなに明るくて八方美人な橘さんが昔は陰気で控えめな性格だったなんて。
人は見た目によらないとはよく言ったものだ。
「でも一人の男の子のいじめられてても立ち上がる勇敢な姿を見て私もあんな風になりたいなと思いこうなったんです。」
「それは雄介くんですよ」
右頬に痛覚とは違う、柔らかな感触が感じられる。温もりと愛を含んだ慈愛に満ちた唇。
待ってくれ。状況整理が出来ない。オーバーヒートしそうだ。
顔全体が熱い。熱気に包まれる。唇が離れる僅か二秒の間に二回目の意識が飛んでしまった。
一体、俺は今日何回気を失えばいいんだ。