第4話【先輩挨拶】
「ここを隠れ蓑に選んでいるのなら、お引き取りを」
生徒会長は厳しい口調で、そう告げると綾倉さんは落胆したような素振りを見せる。
流石に出会いがしらに言い過ぎな気がするのだが、生徒会長も考えがあって言っているのだろう。
それは部長である久慈川先輩が何も言わない事からも窺える。
でも、綾倉さんが入れば、この部活も活気あるものになるとは思うんだけどな。
「・・・そうですか。わかりました」
綾倉さんはそれだけ言うと部室を後にする。
「いいんですか、生徒会長」
「ここでは手塚でいいわ。私もここでは一部員でしかないもの」
生徒会長ーーもとい手塚先輩はそう言って俺を見る。
「彼女が本気で部に入るつもりなら、君のように熱意をもって語るだろう。
しかし、彼女はそうしなかった。
つまり、彼女にとって必要なのは有名である自分を隠せる場所って事よ。
仮に彼女が入ったとしても、彼女目当ての幽霊部員が増えるだけだろう。
そんな最初からやる気のないものを迎えられる程、この部活は落ちぶれてはいない」
手塚先輩はそう説明すると久慈川先輩に視線を移す。
「久慈川さんもそう思うでしょう?」
「ええ。そうね。手塚さんの言うように白沢君みたいに真剣な子の妨げになるわ。
彼女には申し訳ないけど、理由が理由だけに今回は手塚さんの配慮が正しいと思うわね」
久慈川先輩が手塚先輩の言葉に頷くと「ただ」と言葉を付け加える。
「部長は私よ、手塚さん。そう言う事は私から言うわ」
「ん?そうだな。すまない、久慈川さん。
またやってしまったようだ」
手塚先輩は久慈川先輩に謝ると久慈川先輩は苦笑し、改めて僕を見る。
「ごめんなさい、白沢君。いきなりの事で戸惑うでしょう」
「そんな事は・・・」
そうは言いつつもやっぱり、一瞬でも綾倉さんと一緒になれると思ったのに残念だとは思う。
まあ、綾倉さんがこの部に愛想をつかせたのなら、それだけだろう。
それに手塚先輩の判断が間違えているとも思えない。
きっと、僕も綾倉さんに気を取られて、自分の作品どころじゃなくなるだろう。
「さてと、改めて、部員を紹介するわね?」
そう言うと久慈川先輩は原稿用紙と参考資料を見比べるホラー映画に出てくる貞子みたいな女子生徒に近づく。
「作業中にごめんなさいね、崎谷さん」
そう言われ、崎谷と呼ばれた前髪を上げるとパッチリした瞳が現れる。
前髪で隠れているが、彼女は髪を上げるとかなりの美人さんである。
「あら、新入部員さんですか?」
「一年の白沢です。よろしくお願いします」
「二年の崎谷です。よろしくね、白沢君」
そう言って、崎谷先輩は微笑むと再び前髪を下ろし、原稿用紙にサラサラと文を書き始めた。
次に紹介されたのはメールをする今風の女子生徒だった。
黒髪なのを除けば、この部室では少し浮いて見える。
「打ち合わせ中、ごめんなさいね、鈴原さん」
「あ、部長。丁度良いところに。
実は今度出す大正の恋愛小説で少し悩んでいるところがあるんですよ。
また、相談に乗って貰って良いですか?」
「それについてはあとで相談にするとして新入部員の白沢君を紹介するわね?」
そう言うと久慈川先輩は俺に鈴原先輩を紹介してくれる。
「鈴原さんは携帯小説で大賞をとった現役の作家よ。
きっと、白沢君の力になってくれるわ」
「まあ、たまたまジャンルが受けただけですよ。
改めて、二年の鈴原よ。よろしく、後輩君」
「こちらこそ、よろしくお願いします、鈴原先輩」
「うんうん。素直に返事の出来る奴は嫌いじゃないよ」
鈴原さんは俺の肩を叩くと再び携帯電話を弄り始める。
最後に紹介されたのはこれまた小柄な女子生徒だった。
一見すると小中学生なんじゃないかと思ってしまう。
「暇そうね、山崎さん?」
「春の作品が出来ちゃったからね。しばらくは読書でも楽しむわ」
「その前に新しい部員の白沢君を紹介するわね?」
そう言うと久慈川先輩は俺に山崎先輩を紹介した。
「改めて、新入部員の白沢君よ」
「白沢です。よろしくお願いします」
「よろしくね。私は三年の山崎。気軽に山っちって呼んでね?」
「山っち先輩ですね?」
「先輩もできれば、いらないんだけど、まあ、無理強いもよくないし、勘弁して上げる」
「山崎さんは推理物を書く事に関しては右に出る人はいないわ。
まあ、トリックはスゴいんだけど、アリバイ作りや動機は二の次なんだけどね?」
「くじっち。それは言わない約束だよ?」
久慈川先輩は山崎先輩と笑い合うと俺を見る。
「部員はとりあえず、この五人ね。
小規模だけど、みんな、それなりの実力者よ」
「は、はあ」
正直、ここまでレベルが高いとは思ってなかった。
しかも、みんな、綾倉さんに負けないくらい美人だし・・・。
これじゃあ、まるでラノベの主人公だ。
まあ、僕の目的は絵本作りだから、恋愛とかは無縁だろうけども・・・。
「気負う必要はない。君は君の思う通りにやりたまえ」
最後に締めで手塚先輩がそう告げる。
ここでなら、良い作品が生まれそうだ。
そんな事を思いながら・・・。