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「お前たちは下がれ。取り調べは俺が行う」



玄峰さんは武官たちを払う。



「麗華さん、大丈夫か?」

「えっ……」



武官たちがいなくなると、玄峰さんはすぐに縄を解き始める。

取り調べではないの?

次に子雲さんの縄も解き、私たちに椅子を勧める。



「怪我は?」

「大丈夫です」

「劉伶さまから、言伝がある」



玄峰さんにそう告げられて、子雲さんと顔を見合わせた。



「濡れ衣であることはわかっている。必ず疑いを晴らす。ただ、今は地方に目を配らなくてはならず、数日耐えてほしいと」

「劉伶さまが、そう?」

「あぁ。しかも、後宮から出したのは、牢のほうが安全だと瞬時に機転を利かせたからだと思う」



よかった。信じてもらえているのだ。

随喜の涙が止まらなくなる。先ほど死を覚悟したときより激しくむせび泣いた。



「今は、反乱軍を集めている地方だけでなく、別の地域からも目が離せない。皇帝が変わり、陳情がいくつも届く。それらの対処を誤ると、第二の反乱軍が生まれないとも限らない」



きっと、香呂帝のときに苦しんだ辺境の地の人々は、光龍帝に望みをかけている。決して絶望はさせてはならないのだろう。



「博文がいない文官たち官吏は、少々心もとない。そのため陛下が博文の代わりを務めていらっしゃる。博文がもうすぐ戻ってくるはずだ。そうすれば劉伶さまにも余裕ができる」



もともと科挙を最高位で通過し文官として活躍していた人なのだから、そうしたこともできるのだ。



「そんな状態なのに、茶会に来てくださったんですね」

「あぁ。麗華さんが後宮の妃賓のいがみ合いをなくそうとしていると気づいている。少しでも役に立ちたいと」



なんて素晴らしい皇帝なのだろう。思慮深いだけでなく行動力もあり、そして思いやりがある。



「昼間は取り調べということでここにいればいい。俺以外は近づけないようにする。ただ、李貴妃やまわりの宦官がどう動くかわからない今、劉伶さまを後宮には戻せない。子雲もいないしね。応龍殿にとどまってもらい禁軍幹部とともに警備をする。だから夜間は牢で耐えてほしい」



玄峰さんが強面の顔をゆがめ深く頭を下げる。



「やめてください。私は劉伶さまが信じてくださっただけで幸せです。それに、私が余計なことをしたからかもしれません。玄峰さんが謝るようなことはなにひとつありません」

「麗華さま、申し訳ありません。私がもっと――」



次に子雲さんが悲痛な表情で話し始めたので、彼の腕を握って止める。



「子雲さんには本当に感謝しています。今はどうすべきか知恵を絞りましょう」



せっかく劉伶さまがこうして私たちを守ってくれたのだから、彼に頼るばかりでなく自分たちでも考えなくては。

玄峰さんはうなずいて口を開いた。



「麗華さん、李貴妃との接触は初めてだったのか?」

「いえ。以前薬膳料理をと依頼されて紅玉宮に参りました。でもそのとき……」



子雲さんの顔をチラリと見てから続ける。隠しておく場合ではない。



「尚食の分際で陛下に近づくなんて姑息だと、お茶を投げつけられて頬をぶたれました。それからは一度も接触しておりません。茶会に来られたのも今日が初めてです」

「そんなことが……」



玄峰さんは目を大きくして眉を上げる。


「徐青鈴は仲がよかったはずだな。彼女はどうして李貴妃側についたんだろう」



玄峰さんのふたつめの質問に、今度は子雲さんが説明をしてくれた。



「妬み、か。青鈴は捨て駒だろう。いざとなったら罪を被せられ殺される」

「そんな……」



青鈴が死ぬなんて耐えられない。



「麗華さん、あなたは青鈴に裏切られたんだ。彼女のために顔をしかめるのは違う」



玄峰さんの強い言葉に首を横に振る。



「でも青鈴はたしかに友だったんです。香妃の寵愛が私に移ってつらかったのは理解できます。彼女も頑張っていたから」



とことん恨めたらどれだけ楽か。

もしかしたら青鈴のせいで自分の命がなかったかもしれないのは承知している。でも、彼女を完全に憎めない。



「まったく。離宮の頃から人がいいのにも程がある。俺たちのこともすんなりと受け入れ、尽力してくれた。だから今度は俺たちが麗華さんを守る」



これが刎頸の友ということなのだろうか。



「心強いです。ありがとうございます」

「青鈴は酒の存在を知っていたんだね」



次にそう問われてうなずく。



「子雲さんに運んでもらっているところを見られて、劉伶さまが寝つきが悪いからゆり根酒を用意していると話しました」



あの酒が私の部屋にあると知っているのは、子雲さんと彼女だけ。ということはやはり青鈴が李貴妃に話したのだろう。



「毒を仕込んだのが青鈴だとは限らないが……今回の件は、青鈴なくしては起こらなかったわけだ」

「そう、ですね。でも、なにかずっと引っかかっていて……。それがなんなのかわからないのですが」



このモヤモヤはなんだろう。



「とにかく、麗華さんではない誰かが、劉伶さまの指示で探される前に酒に近づいたという証拠が必要だ。子雲も不審な者を見ていないんだな」

「申し訳ありません。私は厨房の外におりましたので房のほうはわかりません」



厨房に置いておけないから自分の房に隠しておいたのだが、それがあだとなった。



「李貴妃の近くにいつもいる宦官は、間違いなく貴妃を操り権力を手に入れようとしている。前皇帝の血筋で今生き残っているのは、劉伶さまと……」



そこで玄峰さんはなぜか子雲さんをチラリと見てから続ける。



「すでに嫁がれた公主さまが数人。男系に至っては、あとひとり昇龍城を追放された男がいるが寺に入ったはずだ。到底戻ってくることはできない。他はすべて亡くなっている」

「亡くなって?」

「ああ。香呂帝が皇位に就くときに、香呂帝の頭の切れる弟は無残な死に方をしたし、もうひとりの弟は香呂帝と共に自刎した。劉伶さまの兄上も、実は亡くなっている」



劉伶さまも兄弟を亡くしているの?


『無残な』とは、暗殺や自刎といった寿命をまっとうしない死に方だろう。それくらい昇龍城は権力争いが過酷な場所なのだ。



「つまり、劉伶さまに男児が誕生しない限り、皇帝の座を継ぐ人間が決まっていないということだ。妃賓が次期皇帝を孕みたいとより躍起になる状況が出来上がっているし、その妃賓を操って意のままに国を動かそうとする宦官がいてもおかしくはない」



香呂帝のときも、権力を握っているのは宦官だと聞いた。それを狙っているのだ。


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