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砂の国、砂の城 09

若宮アオバは台本を開く。

ただ歩くだけなのに。

舞台の(客席から見て)左から右へとただ歩くだけ。

セリフも無く、名前の無い少年がただ歩く。

何度読んでもそれだけのシーン。

仕方なく最初から読む。

主人公は冴えないサラリーマン。

男はもう一人の登場人物に愚痴をこぼし続けている。

忙しいが給料は少ない。

人付き合いが悪くて同僚から相手にされない。

妻も子供もいない。恋人も友人もいない。

どうしてこんな事になったのだろう。何処でこうなってしまったのだろう。

惰性で生きている男性。

その心情が高校一年生の若宮アオバに理解できる筈もなく彼は退屈に読み進める。

男は正体不明の一人の子供と会話する。

「もう一度やりなおしたい。」

「もう一度って何処から?」

「小学生とか。もうちょっと真面目に勉強していい大学入って。」

「あーそれな。もう一度戻ったところで君はまた同じ事をするよ。」

「そうとは限らないだろ。今度こそ。」

「実はもう二度ほど君は君をやり直しているんだけど?」

「ええっ?」

「冗談だよ。」

笑っている自分に気付かず読み進める若宮アオバ。


「戻ったところでまたここに戻ってくるよ。」

項垂れる男性。

「ここに来たくて来たんじゃない。」

「じゃあ何処へ行きたかったんだい?」

「何処かな。とにかくここじゃない。」

項垂れる男性。

ここで若宮アオバの登場シーン。

学生服の少年、舞台下手から歩く。

「あの子は?」

男の背後を歩く少年。

再び項垂れる男性。

「あの子はね」

「半年ほど前に母親を病気で亡くしてここへ来たんだよ。」

顔を上げ少年の歩く後ろ姿を眺める。

「半年か。」

「君は何年になるかなぁ。」

少年は舞台上手へ消える。

若宮アオバの出番が終わり、それでも彼についての台詞が続く。

「あの子はきっとまたここへ来るだろうね。」

出番は終わっているのに自分が語られている。

教室の中で行われている自分の悪口を廊下で聞いてしまったような気持ち悪さ。

このあともう二くだりあって、男は立ち上がり

少年と同じように上手へと身体を向けたところで暗転する。


「登山の途中のベンチとかそんな感じでした。」

翌日、部長(当時)に脚本の感想を聞かれた若宮アオバの返答。

「じゃあもう一度君の思う通り歩いてみてくれ。」

母親が亡くなって

半年泣き続けた

それでも日常は立ち止まらない。

ボクもいつまでも立ち止まっていられない。

だから歩く。

怖いけど。

歯を食いしばって歩くんだ。

「いいじゃないか。どうだ?」

「絵になるわね。」

「顔が派手過ぎて脇に向かないと思ったけどいいな。」

上級生たちが絶賛する。


若宮アオバをこの少年役に推したのは月夜野アカリだった。

彼女の目論見は

地味で控えめな芝居をする二人の主演の後ろに

希望の象徴として華を添える役目となるこの少年に一度目を向けさせる事で

観客の集中力を取り戻させそこから一気にラストへと繋げる。

月夜野アカリの思惑以上に見事に填まった。

「顔が派手だから」と言った先輩の言うように

ただそれだけの理由で後ろを歩かせた。

若宮アオバはそれ以上に「演技」をしてみせた。

まったくやる気無くただ無感情に歩いていたので

せめて自分が何者を演じるのかを知れと言いたくて

「脚本くらい読め」と言っただけなのに

彼はその上で自分なりの解釈を役に込めた。

一瞬、月夜野アカリは若宮アオバに嫉妬する。

勿論若宮アオバはそれを知らない。

当の月夜野アカリ本人でさえもその事実をすぐに忘れてしまう。

「このまま演劇部を続けていたら。」

「女子を傷付けずに振る方法なんてすぐに解るよ。」

もうそんな事はどうでもいい。

若宮アオバは「演劇部員」になってしまった。

男子生徒達から何を言われようと構わない。

女子生徒達からどんな目で見られようと知った事か。

成りたい者になれる。

行きたい場所に行ける。

演じる楽しさを知った彼は次の公演から早速主役に選ばれ

以来月夜野アカリと主演俳優の座を競い合っている。


「副部長はビビリでもヘタレでも無いよ。」

道具屋笠懸ヒサシ。

2年と少し、彼を隣で見続けていた。

1年生で主役に選ばれ彼はそれを演じ切った。

文化祭でも

大会でも

公民館での定期公演でも

彼は人前で主演俳優として常に晒し者になっていた。

「晒し者は酷いよ。」

「こいつは俺なんかよりよっぽど度胸がある。」

笠懸ヒサシは自分も残ると言い出した。

「俺が残るのは副部長が残るからじゃないぞ。」

最初からそのつもりで副部長に先を越されただけだと何度も念を押す。

突然の申し出に国王レミーは戸惑う。

有り難い申し出ではあるが

この世界の争いに異世界の少年少女を巻き込み申し訳ない想いしか無い。

だが彼は一思案しその申し出を受け入れる。

「王都にはピータンがいる。」

「でも戦争が始まったら一緒に連れて行くのでは?」

「いや。守護竜はその土地と土地に住む者を守るだけだ。」

人と人との争いに関与しない。

「それじゃあ相手の国の守護竜には攻撃されますよね。」

「あ。」

赤堀サワが思い出す。

「北の大陸にはドラゴン一体しかいないはず。しかも東の国ですよね。」

レミーがは頷き勝算があるからこその宣戦布告だと言った。

「我ながらおかしな話だとは思う。」

自衛の手段としての宣戦布告。

侵略を仕掛けてきたのは相手国だ。

それなのに戦争を宣告するのは我々だ。

負ければただの茶番でしかない。


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