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砂の国、砂の城 08

演劇部員達の会議。

とっとと荷造りして王都を出る。

この選択肢しか無いはずなのに

副部長若宮アオバは副部長としての責務を放棄するような発言をする。

「王都に残って王様の手伝いをしたい。」

一同

「は?」

「この世界に来てずっと世話になっている。何かしたい。」

姉と妹に世話をするばかりだったこれまでの人生。

これほどの期間誰かに面倒を見てもらった記憶がなく

後ろめたい気持ちが日増しに強くなる。

食事は常に用意されベッドのシーツも毎日交換。

実のところそれがどうにも我慢ならなくなって

「旅に出る」と言い出した最大の理由である。

西の国に戻ると何もしていないのに歓迎されてしまい

今まで以上に居心地悪くなる。

「だからってアンタが残ってどうなるのよ。」

倉渕ミサトは結構な剣幕で声を張り上げた。

「船に火を点ける手伝いくらいはできる。」

「ビビリのくせに出来るわけないでしょっ。」

彼女の言う通り普段はヘタレだ。

演劇部員だけではない

3年生になった今、2年生と3年生の女子8割ほどそれを知っている。


若宮アオバ

その顔とスタイルで女子生徒の注目を集める。

見た目だけで勝手に好意を抱かれ

勝手に惚れられ

勝手に幻滅される。

当初は「この野郎ムカつく」と敵意しか向けなかった男子生徒も

彼の本性を知ると次第に興味も関心を示さなくなる。

ウィルスによって広がった感染者のワクチンであるとか

たちの悪い集団催眠からの覚醒であるとか

ともかく我に返った女子達を「俺の方に向かせる」機会はできる。

実際振り向くかどうかはこの際関係ない。

ただの可能性だ。

若宮アオバは彼が友人だと思っていたクラスメイトに利用されてしまう。

若宮アオバに女子からの目を向けさせ

折を見て彼の本性を暴き、その隣の自分がその女子と仲良くなる。


強引ではあるが月夜野アカリから

「上手な女子のフリ方」を教えるからと勧誘され入部した演劇部。

その方法を教えられぬまま一ヶ月と数日が経過した。

さすがにルックスを利用されただけなのだと気付き退部を決意したその日

彼は当時の部長から役を与えられる。

セリフは無い。

出番は1シーンのみ。

舞台の端から端へとただ歩くだけ。

「とても重要な物語の分岐点になるシーンだ。」

言われたところで渡された台本に目を通すこともなくただ言われたまま歩いた。

当然

「ダメだ。もう一度。」

彼はただ歩く。

「違う。そうじゃない。」

辞めるつもりの若宮アオバが真剣に取り組むはずもない。


部活終わりで月夜野アカリは若宮アオバに声をかける。

「もう諦めるのか?」

普段温厚な彼もこの時ばかりはイラッとした。

「諦めるも何も無い。君は全然何も教えてくれないじゃないか。」

「教える?何の話だ?」

「なっ。女性を傷付けない喋り方を」

「いやだからそれをもう諦めるのかって。」

「なに?」

「なにか勘違いをしているな。」

月夜野アカリは自分が何を勘違いしているのかすらも教えてくれない。

「とにかくもうちょっと続けてみろよ。それからせめて台本は読め。」

月夜野アカリはそれだけ言うととっとと帰る。

唖然とする若宮アオバに救いの女神。

「まったくあの子はいつもいつも。」

倉渕ミサトは

「こんなイケメンが私の相手をするハズがない」と常々心している。

彼が彼に言い寄る女子達にうんざりしている事も知っている。

だから若宮アオバに色目を使わない。

倉渕ミサトは月夜野アカリに接するように若宮アオバにも接する。

「ごめんねーあんな子で。でも根はイイ子なのよー。」

自分を売り込まない。自分以外の誰かを立てる。

若宮アオバには新鮮な相手。

姉や妹達とも他のクラスメイト達とも異なる全くもってフラットな関係。

「私もよく振り回されてイラッとするわ。」

でも月夜野アカリは間違わない。

結果としていつも月夜野アカリが正しいのだと知る。

「言葉が足りないから誤解される事も多いけど」

月夜野アカリは間違わない。

「何の説得力も無いけど、もうちょっとだけ信じてあげて。」

倉渕ミサトの困ったような笑顔が若宮アオバに響いた。

信頼関係。友情。絆。

どれもが陳腐な言葉に思えた。

同時にそれを自分は誰かに抱いた事も無いと思い知った。

若宮アオバは月夜野アカリを信じたのではない。

倉渕ミサトを信じてみたくなっただけだ。


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