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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
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「羽撃け、友よ。」 09

朝食の席

道具屋の笠懸ヒサシと仕立屋の吉岡ハルナは

ハリボテのドラゴンの制作に取り組むためにと

「やはり一度実物を見たい」と言い出した。

言い分はもっともだ。

メリアは道具屋と仕立屋を

ピータンの食事を運ぶ人員として森の中へと。

崖から落ちて、巨体を引き摺るように現れたピータン。

「思ったよりでかいな。」

「撮影しておきますね。」

顔のディテールを詳しく撮影したいのだが

「怖い。」

道具屋は感動に震えながらも観察をする。

肩から肘のあたりまで翼になっているのか

鱗の形状は菱形ではなく五角形か

後ろ足の爪は一つだけ後ろに向いている。

「さあこのくらいで。」

食事を終えたピータンを気遣い引き上げさせる。

キリはその姿を確認する事はなかった。

メリアとルメニーが去り、キリは竜の背によじ登る。

この大きさ。いつまで掛かるやら。

「でかっ」

「大丈夫なの?食べられたりしないの?」

騒がしい声。

ヤツらは演劇部。

入れ替わるように現れたのは

部長の月夜野アカリ。会計倉渕ミサト。


ドラゴンの制作には城内の使用人等が携わり

指揮は道具屋と仕立屋に任せた。

部長と会計は「暇だ」とも言えずキリの手伝いを申し出た。

手にはナイフと、厚手の手袋まで。

「臭いっ」と言われたキリは二人に鱗の掃除を任せ

用意させた干し草を洞窟に運び入れる。

一度や二度の往復で済む量ではないが夜までには何とかなるだろう。

女子二人が騒がしく少々イライラするピータンではあったが

それでも鱗掃除は気持ち良いのだろうかすぐに眠りについた。。

「街の人達は手伝わないのね。」

手伝いたくても、手伝えない。

守護竜は

王族と、それに仕える者だけが直接関われる。

何より竜は恐怖を具現化したような存在として認識されている。

「実物を見たい」

「あの子の手伝いをしたい」

と言い出した演劇部員達の申し出て、静止も聞かずに飛び出そうとしたので

城内は激しく荒れ、

メリアが「至急の案件」として呼ばれたのだった。

「神聖な守護竜を異世界の者に」

それ言い出したら織機キリはどうなんだ。

何かと屁理屈をこねるじじい共に

とうとうメリアがキレた。

「王子メリアとして命ずる。不服のある者は正式に申し出ろ。」

異世界の者達の申し出ではなく、

姫の勅令としての体裁として許可されていた。

ピータンにもしもの事があれば、

演劇部全員文字通り首が飛ぶ。


日暮れ前に部長と会計二人の女子を城に帰し

「もう少しだけ。」

鱗の中から金貨を落とす作業を一人続けた。

くすぐったいのか、

時折ドラゴンの後ろ足に蹴り殺されそうになる。

何度か転がり落ちて、這い上がり、金貨を落とす。

落とした金貨を拾い集め、袋に詰めて洞窟に戻す。

あっと言う間に、陽が落ちる。

城へ戻った二人がその旨メリアに伝えると

「夜の森は危険だからな。迎えに行ってくる」

と騎士団長を連れ「約束の地」へ。

少年は偉大な守護竜の背中の上で眠っていた。

「何て恐れ多い。」

騎士団長は驚愕する

「これ以上安全な場所はあるまい。」

メリアは声を掛けずに引き返した。


「部室」に戻った三人。

「何だかすごく久しぶりな気がする。」

新入りの赤堀サワが感じるくらいだ

愛着のある吾妻アヅマも若宮アオバも

その気持は変わらないだろう。

鍵を開け中に入り、電気を点ける。

「まだ繋がっているな。充電できるだけしといて。」

コンセントはタコ足。部室に転がる全てのバッテリーに充電を開始。

「これ充電されてます?」

必要になるかも知れない物をカバンに詰める。

「作業するならコレよね。」

サワは皆のジャージを詰める。

この国の服を纏うキリ以外全員制服。

「若宮先輩今着替えちゃいますか?」

サワが振り向くと既に着替え終わっていた。

「はやっ」

女子がいる中、何の躊躇も仕切りも無く着替えるヘタレ。

姉と妹に散々弄ばれた彼にとって

女子の目など気にもならぬ。


待ち構えるように村人からの依頼が殺到する。

のだが、その殆どは大工仕事。

道具屋不在。

それ以前に国の危機。用事が済み次第とっとと戻る。

いやいや口止めされている。なんでだ?

とにかく急ぎの旅の途中です。

残念無念と帰る村人達。

王都での話しとか聞きたくないのだろうか。

じいさんばあさんは新しい物語に興味はないのか。

ドラゴン作って敵を追い払おうと、

何て事を言ったら自作自演がばれるので黙っていよう。

うんざりして道具屋にジェラシー。

次の村人の依頼も「物干し台直して」的な依頼かと

追い返そうとしたのだが何やら様子がおかしい。

しかも知った顔。牧場の子倅。

どうにも演劇部の仕立屋ハルナのように

ごにょごにょもぞもぞ要領を得ない話し方をする。

最初は「どうやらったら勇者になれますか?」で

「どうやったら強く」

「どうやったら頼りがいのある男に」

ああなるほど。と察したのは新入部員赤堀サワ乙女。

「おぬし、好きな人いるな?」

真っ赤になって頷く青年。

赤堀サワのハイテンションにオタ眼鏡師匠は

「うぜぇ。」


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