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迷子の青空 39

身支度を整え山小屋を発つ魔女と演劇部部長。

山の上の風は眠気を攫う。

峠道を道なりに歩きフラマーがいた場所へと着くが誰もいない。

と、黒猫ノトが馬の上から飛び降り駆ける。

キリが最初にフラマーを見付けた場所。

フラマーは同じ場所で同じように横になり

その背に少年を乗せて眠っている。

トテテテと同じように近寄る黒猫ノト。

黒猫に頭を擦り寄せられて目を開く竜。

人の気配に顔を上げ

「早いな。」

「キリが気になってね。」

「心配ない。眠っているだけだ。」

見るとさらにボロボロになっている。

「お前達。コイツから目を離すなよ。誰にでも付いて行くぞ。」

ツグミと月夜野アカリは顔を見合わせ笑う。

「心配いらないわ。その子、人には懐かないから。」


疲れ切っているキリの歩みは遅く

峠を越え山を下り「東の国東地区」最初の街に到着したのは

陽も傾きかけていた頃だった。

この日はすぐに宿をとり地区長への諸々の報告は翌日に持ち越した。

「この街でもメリアの格好しましょうか。」

月夜野アカリの提案に魔女ツグミも同意に傾いた。

フラマーを動けなくし峠の山小屋で通行人を監視脅迫していた北の大陸の男二人。

あいつらはこの街で食料を仕入れあの小屋に戻った。

他に仲間がいる可能性を考慮するべきだろう。

だが立ったまま眠っているキリを見て

「今日のところはこのまま休もう。」

考えるのは明日に決めた。

宿の部屋の空きが多いのは地区の交流が途絶えているからだろう。

一人一部屋でも宿の主人は「一部屋分の料金で構わない」と言ったほどだ。

「峠は開通した。迂回路の小さな竜も減るだろう。すぐに元に戻るさ。」

キリは部屋に入るなりベッドに倒れ込む。

「少し見ていてやってくれ。」

「何処か行くの?」

「夕食を仕入れてくる。それとそいつの着替えも。ノト。」

「にゃ。」

魔女ツグミは黒猫を引き連れ部屋を出る。

そして宿の主人に

「組合の場所を教えてくれ。」


「こんなボロボロでよく眠れるな。」

ドラゴンの課す契約の条件とはどんな試練なのだろうか。

月夜野アカリはせめて少しでも寝やすいようにと

マントを外し上着を脱がす。

全く目覚める気配の無いキリ。

「泥のようにってそんな馬鹿なと思っていたけど。」

顔も身体も汚れたまま気絶したかのように眠るキリを見て

「お湯もらわないとダメだ。」

この部屋には入浴設備が無い。

西の国ではどの家庭にもどの宿にも「お風呂」があった。

中の国もこの東の国も宿に「お風呂」は無かった。

どちらも王都のお城の中だけ。

「西の国が襲われたのってあの鉱石とやらが目的かもね。」

「それだけでしょうか。」

キリはまだ眠っている。

答えているのは月夜野アカリ。これは独り言ではない。

彼女は物事や事態を整理するのに他者との会話は有効な手段であると知っている。

そして月夜野アカリは女優である。

こんな少年一人演じるのはわけない。

相手役には「必ず自分の意見を否定してもら」設定で演じる。

「他に何かあるの?」

「鉱石だけが目的なら他の国の竜に被害はでないはず。」

月夜野アカリはキリ達が森の国で何があったのか既に聞いている。

ピータン、アクゥロ、フラマー。各国の竜が何かしらの被害を受けている。

ピータンは毒を盛られた可能性が極めて高い。

(金貨が詰まったのは自業自得だとキリは呆れていた)

アクゥロに関して言えば鱗に詰まった泥はおそらく意図した効果ではないだろう。

寒い地域に追いやり動きを鈍らせ弱らせるのが目的。

フラマーも同様だ。

「ただ」

「いずれも誰かが気付いて対処できる。どうして?」

「どうして?」

「本気で竜を殺そうとしていないのかも。」

月夜野アカリの一人芝居の最中部屋のドアが叩かれる。

「ノックの習慣もあるのね。」


宿の主人がツグミに言われお湯と綺麗な布を持ってきた。

「何の話をしていたか忘れたわ。」

月夜野アカリは思考の整理を中止しキリの上半身から衣服を剥ぎ取る。

失礼だと思いながらも

「貧相ね。もう少し食べろよ。」

前を拭き、背中を向かせようと転がすと

肩に貼り付いている布から何やら草がはみ出して一瞬驚くが

王子様を助けた際に負った傷。先日魔女が治療していた場面を思い出す。

「酷い。」

肩の傷は変色し

どう見ても「健康体」ではない。

この世界の医療では完治しないのではないか。

毒の中和は成功したと言ったが完全ではないのか。

殆ど直感的に「危険」と判断した月夜野アカリは

布を替えた後すぐに自分の手を洗い

宿の主人に新しい湯を用意させると同時に

キリの身体を拭いた布を全て処分するよう伝えた。


「そこまでする必要は無かった?」

戻った魔女に確認する。

「まあ毒は無いからな。でも用心に越したことはない。賢明な判断と処置たよ。」

胸を撫で下ろす月夜野アカリ。そして

「これって治るの?」

「すぐには無理だ。毒は抜けているが傷口は影響を受けてしまったからな。」

言葉を失くす月夜野アカリに

「心配するな。いずれ元通りになる。それより一度起こそう。」

「どうして?」

「食事だよ。お腹空いた。」


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