「羽撃け、友よ。」 08
織機 キリ 帰宅部 1年 男子
月夜野 アカリ 演劇部 3年 女子 部長
若宮 アオバ 演劇部 3年 男子 ヘタレ先輩
倉渕 ミサト 演劇部 3年 女子 会計 部費
笠懸 ヒサシ 演劇部 3年 男子 道具屋
吾妻 アヅマ 演劇部 2年 男子 オタ師匠
吉岡 ハルナ 演劇部 1年 女子 仕立屋
赤堀 サワ 演劇部 1年 女子
メリア 王子 女子
ピータン 守護竜 ?
城内は慌ただしく騒がしい。
メリアお姫様は長老達から報告を受ける。
そして演劇部員達の前に歩み出た。
「異世界の者達よ。心から感謝する。」
「一夜城ならぬ一夜竜。」
「三日もあれば充分だ。」
道具屋は設計図を作り、木枠で骨組みを作る。
縫い合わせは仕立屋が指揮を執る。
「足りない。」
オタ眼鏡がいつもの不平。
「ここにある物だけじゃ無理だ。部室に戻らないと。」
「私も。充電切れそうです。」
赤堀サワの申し出に。
「そうね。そうしましょう。副部長。頼むわね。」
「ええっ」
副部長ヘタレ若宮アオバと効果担当「オタ師匠」吾妻アヅマ。
新入部員赤堀サワの三人は
翌朝、騎士の引く馬に揺られ部室へと向かう。
が、その前に月夜野アカリがアヅマと道具屋を呼び寄せ
何やら隅でごにょごにょ始める。
「できるわよね。」
「またそんな事。」
「面白そうじゃない。」
織機キリは城内での騒ぎの頃市場にいた。
城の騎士をお伴に従えお買い物。
あのドラゴンの一日に必要なカロリーや栄養素なんて判らない。
少々余らせてもこの際仕方ないと割り切りつつも
病で胃腸が弱っているとして、先ずは消化に良いものを優先して等々。
野菜。それなりに種類豊富な葉物と人参やかぼちゃもトマトもある。
「フトアゴとして考えて大丈夫なのかな。」
さすがに昆虫は売っていないし採取している暇もない。
しばらくは野菜と魚を中心にして獣肉は控えた方がいいかも。
タンパク質は豆で補うか。
必要であろうと思われる食材を城に運ぶように騎士が指示。
「足りなければ言ってください。収穫お手伝いします。」
この発言は騎士ではない。
勇者様が何を言っているのだろうと驚いているのが騎士。
「もう一軒。鍛冶屋はどこでしょう。」
キリが購入したのは剣や鎧ではない。
鍛冶屋の使う厚い「手袋」。
全ての指示を終えキリが城に戻る頃にはすっかり暗くなっていた。
慌ただしい城内でメリアを捜し
「この辺りにあの子が日光浴できる場所はありますか?」
静かで、何者かに邪魔されないような場所。
「森の中にある。」
約束の地と呼ばれる場所。
「明日の朝、ピータンをそこに連れ出してください。」
食事は全てそこへ運ぶように。
「調理場は何処ですか?献立を考えないと。」
周りの喧騒がまるで耳に入らないキリ。
場所だけ聞くと調理場に向かい、城の調理人と打ち合わせ。
それを見かけたのが
今のところハリボテドラゴンの制作にまったく関与できない部長と会計。
キリの帰還にヘッポコ無能コンビがここぞとばかりに追いかけマウント。
「それで、君は何をしているのかね。」
「ドラゴンの治療を頼まれました。」
「やはりそうか。」
月夜野アカリの予想通りの返答。
「こちらは今もう一度ハリボテを作っているよ。」
互いの事情の情報交換。
互いの作業は夜通し行われた。
すぐにでも部室に戻るつもりだった三人も
「夜は危険だ」
との助言に従い逸る気持ちを抑えこの日は作業に加わり
翌早朝、日の出と共に出発。昼過ぎに村に到着するのだが。
まさかの事態に襲われる。
早朝、メリアはピータンの洞窟に向かい説得を試みる。
「この少年がキミを治してくれる。」
竜は首を上げる。
だがすぐに突っ伏して眼を閉じる。
キリはドラゴンの鼻の乾きを確認しようとする。
フンッ
その鼻息に、小柄な少年は吹っ飛び
ドラゴンの集めたであろう金貨の上にドシャリ。
むくりと起き上がり、
荒々しく乱暴にドラゴンに歩み寄り
その鼻先をパチンっと叩いた。
「とっとと表へ出やがれこの引き篭もり爬虫類っ。」
ギロリと睨みの音が聞こえるが少年は怯まなかった。
ドラゴンはその大きな口を開く。
「ヒィ」と小さな悲鳴を上げたのは同行している侍女ルメニー。
食べられるっ
キリはそう思わなかった。
だがまさか、まさかドラゴンから「ゲロ」を浴びるとは思いもしなかった。
「ぎゃっ。」
キリの妙な悲鳴に逸らした目線を戻すルメニーは
嘔吐物にまみれた少年を見て吹き出してしまった。
「食事を用意したよ。お願いピータン。」
メリアの懇願に、竜はようやくその巨体を起こす。
お姫様がドラゴンを散歩に連れ出す絵はシュールだ。
お城の脇、やや上。
街からは城で死角となっている洞窟。
眼下の森にぽっかりと空いた穴。
「約束の地」
ドラゴンはその翼を広げる
本当にでかいな。
が、羽ばたきもせず、転がるように落ちた。
広場にはキリが指示した料理が並ぶ。
野菜を中心に魚も全て「加熱」調理してある。
キリ本人は一人洞窟に残っている。
ドラゴンが降りた(落ちた)崖。
道らしい道は無いがお姫様達は無事だろうか。
キリは持参したスコップでギリギリ落ちない場所に大きな穴を掘る。
固い。岩場だ。面倒だから外に出して乾燥させるだけにしようか。
だからって出入り口を生ゴミだらけにするのも気が引ける。と奮闘する。
そこに洞窟内の生ごみを放り埋めた。
臭くて泣きながらの作業を終えると
洞窟内の金貨を洞窟壁側に寄せ「地面」を露出させる。
あの巨体が横たわれるだけの空間を作るのは結構な労力。
一段落終えたキリが崖を滑り降り、森の中へ入ると
ドラゴンは用意された食事を全て食べ終えようとしていた。
「この食欲なら。」
キリはメリアに
「ここでしばらく寝ているように言ってください。」
「それはいいが、お前臭いぞ。」
食事を終えたドラゴンは、大きく身体を伸ばし
お姫様の言うままその場に横になった。
キリは、ナイフを手にした。
今朝、食事中「ちょうどいいな」と返さずにいた。
メリアはぎょっとする。が
「何を。いや何かするにしてもそんな小さな刃で。」
先日鍛冶屋の主人から譲り受けた厚い手袋。
キリはドラゴンの脇腹の鱗部にナイフをあてがう。
削るようにナイフを動かすと、そこから金貨が二枚落ちた。
鱗を手探りし、金貨を落とし続ける。
「ボクも。」
メリアは腰から短剣を抜く。
「あ、鱗は危ないので素手では」
その鱗に手を伸ばしたその時
騎士がメリアを呼びに馬に乗り現れる。
「至急の案件」とやらだが
ピータンから離れたくもない。
「お姫様はお城へ。ここはお任せください。」
少年の気遣いに、お姫様はナイフを持って襲い掛かる
「ひっ」
ぎゅっ
「ありがとう。」
メリアはキリの手を取り、短剣を預ける。
「ルメニー馬をっ」
侍女は既に控えている
「ピータンを頼む。」
彼女は風のように舞い乗る。
侍女ルメニーはキリを睨み
「どうしてうわっ臭い。どうして行かせたんですかっ。」
捨て台詞を残し、お姫様の後を追った。




