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迷子の青空 34

「不機嫌な守護竜」

キリは一人でも峠道を進むつもりでいる。

「止めたほうがいい。フラマーは人を襲う。」

フラマー

東の国に住む守護竜。

「人を襲う?具体的にはどうしたのでしょう。」

「詳細はまだ届いていないが怪我人の報告を受けている。」

「それでは現在東地区とは連絡すら途絶えているのか?」

メリアの目線はキリとは異なる。

「現状はそうです。」

「では孤立しているのではないのか?」

海路も陸路も絶たれている。

「食料の自給率に問題はありません。元々交易は少ない地域ですから。」

何とも放任主義な王様だな。

事実東の国の東地区は同国内の交流よりも

北の大陸との交易が盛んな地域ではある。


「僕が先発します。」

襲われても襲われなくても一度引き返し他の皆に伝える。

「私は常にお前と共に歩く。」

魔女ツグミはそれがどれほど面倒で困難で複雑な旅路であろうと共に歩く。

「また私を出し抜くつもりか?」

月夜野アカリは実は未だ根に持っている。

そもそも今回の旅の主人公は私だろと憤る。

装備を城下町で揃え一泊。翌明朝出発。

メリアは「せめて騎士団長を護衛に」と言い続けたのだが

「後から追ってくるご自身にこそ護衛は必要でしょう。」

と月夜野アカリは頑なに拒んだ。

そう言えとツグミから言われた。

「君達二人程度なら私一人で充分だよ。」

余裕のある発言を信じるしかない。

「ではせめてコレを付けろ。」

渡されたのは外套の留め具。竜の紋章が刻まれた胸飾り。

隣の少年が付けているそれと同じ物。

そして

「私になるのならこれも必要だろう。」

メリアは腰から短剣を外し月夜野アカリに預ける。

副部長若宮アオバと仕立屋吉岡ハルナは負傷した二人の騎士の回復を待ち

共に西の国の王都へと帰還する。

「私がアヅマを連れて戻るまで部活さぼるなよ。」

「皆で一本作り上げておくように。」


出発前、キリは改めてメリアに確認する。

「東地区からでよろしいのですね?」

「うん?ツグミもその方が良いと言っただろう。どうして確認する。」

気になることがあるからと続ける。

西の国は一体「何処」から攻撃を受けたのか。

「北の大陸からで間違いないだろうな。」

「どの地域でしょうか。」

それを口にしたのは東の国に来て改めてその地理的困難さを感じたからだ。

地峡による分断

これは北の大陸にも同じ事が言えるのではないか。

北の大陸の東の国から東へ向けての航路を確立したのだろうかと聞くと

「捕虜に与えた漁船は中の国で拿捕された。」

航路が確立し東の国に帰還するのであれば西に向かう筈だ。

「では北の大陸の西からとなります。」

「ボクもそう思うよ。」

メリアはキリが何を言おうとしているの理解する。

「無視しているわけじゃない。」

その地形から北の大陸の西地区は

同じ大陸の他の都市よりも、南の大陸の各都市との交流が盛んだ。

「だがそれは北の大陸が併合されるまでの話だ。」

今はここ東の国との交易すらなくなっている。

現在の状況は不明。

「敵国の軍事施設を偵察できるのであれば有利になる。」

「しかし目的は宣戦布告であってそれには首都に行かねばならない。」

好んで敵国の最前線に足を踏み入れる必要も意味も無い。

出向いて捉えられたら何のための旅なのか。

「ボクは目立つから。」


峠の手前まで(山道入口的な看板は無いのだが)騎士の引く馬車に揺られる。

実感するのは「東西の物流は殆ど無いのだろうな」。

迂回路は数日要する。坑道は狭い。峠道は険しい。

整備されているとは言えアスファルト舗装の筈もなく

最も「なだらか」であろう地形は当然山の谷間であり落石の危険もある。

さらに谷を流れる川に架かる橋は無く、道は山へと続く。

直線は急勾配ではあるが気分的に楽だった。

だが九十九折(つづらおり)の山道は

登っている実感が薄くうんざりしてくる。

「それでも直線で歩くより楽ですから。」

途中小休止でキリは自分にも言い聞かせる。

自分の我儘でこの道を選んだ罪悪感も少しある。

「ドラゴンに乗ってピューと行けないもんかね。」

「行けたら楽でしょうね。」

「お前二回も乗っただろ。」

「二回?ああそうですね。」

西の国で王都から西地区へ。森の国でアクゥロの引っ越し。

青空は気持ちよかった。

「ドラゴンの背に乗るって珍しいの?」

月夜野アカリも背に乗った。掃除で。

「大戦以前はそうでも無かったらしい。」

人と竜が今より近かった時代も確かにあった。

魔女ツグミは自分の言葉にフと疑念を抱く。

それより以前は竜と人とは対立していた。

互いの共生に折り合いが付いて竜と人は近くなった。

だが大戦でその仲は割かれ

竜は人を遠ざけ、人は竜をただ敬うだけの存在になっている。

だがコイツが現れて

「なんです?」

「あ、いや。今は守護竜だのと呼んでいるがその昔は名前で呼び合っていたらしいからな。」

森の国で子供達はアクゥロの背に乗っていた。


夕暮れ前に山小屋に到着する。

立派な施設とは言い難いが宿泊するだけなら問題なさそうだ。

生活感。人の「いた」気配が残る。

食器が片付けられていないだとか暖炉が燻っているだとかではないが

数時間から数日確かに誰かがここにいた。

脇には馬小屋が併設され三人はそれぞれ馬を繋ぐ。

「近くに湧き水があるって言っていたな。」

だからここに小屋を建てたのだろう。

「暖炉の薪も必要だな。日のあるうちに準備しよう。」

「キリ。水を頼む。判っているだろうが」

「馬達の分もですね。」

「あ、いや気を付けろよって言いたかったがそれも頼む。」

ツグミと月夜野アカリは薪を集める。

さて近くの湧き水と言われたところでそれが何処にあるのやら。

山小屋から山道とは別に伸びる獣道は湧き水へと続いているのだろうか。

「ノトさん水の匂いします?」

「うにゃ。」

トテテテと獣道を歩く黒猫。言っている事が判るのか?

「山頂近くの山小屋」と言っても

一番低い山の頂き。右も左も聳える山、山、山。

まあこのまま道なりに歩けばと思った瞬間

黒猫ノトは道を逸れる。しかも小走りに。

慌てるキリ。追うキリ。急げキリ。


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