迷子の青空 32
翌朝、地区の不祥事に責任を感じた区長が
メリアの願いを叶えるべく馬車を用意する。
そのメリアを襲撃した四つの影は全員男性だがそれ以上は判らない。
「北の大陸の者だろうな。」
メリアは確信している。だから四人の処分を地区長に任せた。
ゆっくりと静かに進む馬車の中。
「お前たちは西の国へ戻れ。」
これから進むべき先はこのような事態が日常的に起きる可能性がある。
「東の国の王都からなら大きな船も用意できるだろう。ボクが手配するから」
月夜野アカリはメリアの提案を遮る。
「メリア殿下。本当の事を教えていただけませんか。」
月夜野アカリとメリア、ルメニー、吉岡ハルナの乗る馬車。
魔女や騎士団長に隠しているのならこの機会しか無い。
「執政官でしたっけ?国を売ろうと企んだ犯罪者を追うのは判ります。」
だがどうして殿下自ら?騎士に任せてその首を持ち帰らせればいい。
北の大陸に行くだけならドラゴンに乗って一飛びだ。
「態々他の国の王都を訪れるには理由があるはず。」
「君達が異世界の者だから黙っていたのではない。」
ルメニーにも告げていない真実。
「我々西の国は北の大陸からの侵攻を許した。」
これは明らかな侵略行為である。
「この旅の本当の目的は南の大陸の各国王への協力要請だ。」
一役人は勿論、長老や執政官でもこの任務は行えない。
王族の者のみその発言の効力が発せられる。
「効力?」
「宣戦布告。」
大戦後に結ばれた各国との条約。
メリアは西の国の代表として
形式に則り各国の代表者に対し
その旨を口頭で伝える役目を果たしている。
「でもそれこそ態々船で回らなくても。」
月夜野アカリの疑問は解決されていない。
ドラゴンに乗って各地を巡り、最終的に北の大陸に行けば済む。
「守護竜は自分の住処を守るためだけにその国民に協力する。」
守護竜
その呼び名が示すのは精神性やただの修飾ではなく
その存在意義に由来する。
融通の効かない人だ。と思わなくもない。
だが先の大戦はその箍が外れた結果によるものだと異世界の者は知らない。
守護龍を核抑止力のような存在と称した織機キリの言葉は誤りである。
この世界の人々は、「竜の世界」に「人の世界」を築いたと認識している。
「人」が「竜」を作ったのではない。
まず竜がいる。そして人がいる。
竜はただ自己の寝床を荒らされぬよう暮らしているに過ぎない。
その土地に人が住むようになり共生が始まった。
守護竜とは兵器ではない。
人が好き勝手に「あれしろこれしろ」と注文できる存在ではない。
そもそも「抑止力」としての効力が無いのだが
長い年月を経て
いつしか「竜は我らを守る存在」へと人々が勝手に思い始めた。
そして恐ろしいことに
ただそこに暮らしていた巨大な生物を崇め讃え
その生物に義務感を植え付けてしまったのだった。
煽てられ乗せられた竜の一体が
その国民に煽られとうとう他国への侵略を開始する。
人類の争いに加担させられた竜族同士の殺し合い。
キリや月夜野アカリ達が耳にする「大戦」とはこの一連を指す。
「いかなる理由があろうとも守護竜を軍事利用してはならない」
と後の国際会議で決定する。
メリアがピータンに乗らず船で旅を続ける理由。
「メリアさんの用事って次の王都で王様に会えば終わりですよね。」
「終わり?」
各国に協力を要請。そして敵に立ち向かう。
「聞いていなかったか?ボクは宣戦布告に行かねばならない。」
「行くって何処へ?」
「我が国に攻め込んだ愚か者共の国だよ。」
大戦以降、北の大陸は一つの国が統治している。
その王都は東にある。
「レミーは売られた喧嘩は買う。それを伝えに行く。」
相手はその宣戦布告をしなかった。
それを侵略行為と呼ぶ
この旅は「我々はそうではない」と伝える行為。
我々はお前達とは違うぞ。と示す。
異世界の少年少女は「形式に拘り過ぎている」と感じている。
「これから戦争を行います」と相手国に告げに行くのだ。
その道中襲われ怪我までしている。
理解に苦しむ。
そうする意味が判らない。だかきっとその価値はあるのだろう。
途中宿場町に寄り一夜を過ごす。
「副部長。ハルナと西の国へ戻れ。」
「部長はどうするの。」
「私は旅を続ける。元々最初の予定ではそうだったんだ。」
それを織機キリが余計な気を回して出し抜いたに過ぎない。
「アヅマを連れて帰るからそれを皆に伝えてくれ。」
「でも。でも。」
吉岡ハルナの心配は痛いほど伝わる。
「本当にゴメン。怖い想いをさせて。」
「そんなんじゃありません。部長がまたあんな目にあったら。」
「大丈夫。さっき魔女のツグミさんと話してその心配は無くなりそうだから。」




