迷子の青空 26
船の整備と物資の搬入を手伝うキリに
他の船員はただただ恐縮する。
見兼ねたメリアが
「その者達の職を奪うつもりか?私と来い。」
と連れ出す。
「お前の世界ではどうか知らないがここでは皆自分の仕事に誇りを持っている。」
僕の世界でもそうです。とは言い切れない自分が情けない。
父と母は獣医としての自分を誇っていただろう。
しかし目の前の現象が全てではない。
「来いって何処へ?」
「観光だ。また面倒を起こすなよ。」
「またって何ですか。」
文化的な違いはさほど感じられない。
西の国のような山に沿った都市ではなく海沿いから広くなだらかな平地。
そして西の国ほど「竜」の姿を見ない。
その代りと言うのはおかしいが、いかにも「騎士」の格好をした者が多い。
大きな港町。観光地ではなく商用地域。
中の国の西地区でも感じたのだが
広い国土だからなのだろう。それぞれの地域で完結させている。
おそらく中の国の国民は他の地域への国内旅行すら行かない人が多い。
まして中央地区の湾岸地域の航海は快適とは言い難い。
もしかしたら陸路のが発達しているかも。
「あ、でも車無いのか。」
移動は馬。
町の中では馬から降りて歩く。
荷を引くのは大人しい牛。
それこそ観光客なんて稀だろうな。
お土産物屋なんてある筈ないか。
ただ食事だけは少々趣が異なった。
海の水温が異なれば生息する魚の種類も変わる。
植物の生育も陸の動物すら細かい分類は異なるだろう。
「沖縄料理みたいだ。行った事はないけど。」
多分きっとこんな気候なのだろうな。と青空から太陽を覗き見る。
北の大陸に渡るには
1.東の国の西地区から船で向かう
2.東の国の西地区で船を降り陸路で東地区まで行き、そこから船で向かう。
「どうしてそんな面倒な事を?」
「南の大陸と北の大陸は東の国で繋がっている。」
広げられた地図は
南の大陸の東の国と北の大陸とが一本の細い橋で結ばれているように見える。
ロシアとフィンランドを結ぶカレリア地峡よりも長く狭く
北アメリカと南アメリカを結ぶパナマ地峡に近い。
残念ながら
北太平洋とカリブ海を結ぶパナマ運河はこの世界にない。
西からならば自前の船で行けるが到着後すぐに陸路となる。
東からなら東の国で船を手に入れなければならない。
「楽なのは東から船だ。船が手に入りさえすればな。」
「この地域(地峡)を直接陸路では行けないのですか?」
「行けなくはないけど岩山しか無いから無謀だな。」
船を解体し陸路を運ぶのは相当の労力を要する。
こればかりはメリアの選択に任せるしか無いだろう。
「ツグミさんのお薦めはどちらですか?」
「うん。そうだな。お姫様と打ち合わせしておくか。お前も来い。」
二人がメリアの部屋を訪れると
彼女も地図を睨みながらその問題に頭を悩ませていた。
西側から北の大陸に入る。船はそこで捨てなければならない。
その後北の大陸で船を調達するのは難しいだろう。
ならば東の国で話を付けるべきではないだろうか。
キリも「そうできるならそうすべき」と考えていた。
北の大陸の王都はさらに東にある。
広い大陸を横断するより海路は遥かに速い。
しかし大きな問題がある。
「他国の船は襲われる可能性がある。」
海上で襲撃されたら間違いなく助からない。
「陸路も危険だが海よりマシだ。」
ツグミの進言は自らの発言を否定するように
西から上陸するより南の大陸の東へ抜けそれから北の大陸を目指すべきだと言った。
「どうしてですか?」
「東の国に行けば判る。」
「ずっと不思議に思っていた事があります。」
どうして西の国から西へ向かい北の大陸の東地区を目指さないのか。
この世界の人々は世界を平面として捉えられているのなら理解できる。
だがこの世界は恒星を周回する丸い星であると認識されている。
船乗りは星を見て位置を確認し自星の公転周期まで把握している。
ならば海域が危険なのか。
ダンクルオステウスやらモササウルス。それともメガロドン?
はたまたクラーケンか。
「お前が何を言っているのか判らないが。」
「確かに危険な生物が棲息している事も航路図のない理由の一つだ。」
最大の要因は「遠い」
水と食料の確保。
海流調査も未だ進まず、要は「そこまでのリスク」を冒す必要が無い。
「それにこれは噂だけどな。」
ツグミは表情を変えずに続ける。
「西の大洋にはもう一つ大陸があってそこには」
「先ずは王都に向かう。そこで北の大陸の情報を仕入れてからだな。」
西地区の東寄り、狭い東の国のほぼ中央の王都。
王にも挨拶をしなければならない。
メリアはこの先どの経路を通るかはそこで決めようと言った。
メリアの決定にツグミも賛成する。
夜、いつものようにツグミがキリの船室を訪れる。
「お前は不思議に思わないか?」
「なんです突然。」
メリアが「こんな事」をしている理由。
今の王様には妻も子もいない。
メリアは王位継承権第一位。
レミーに何かあれば即座にその地位に就く。
手練とは言え騎士団長一人と侍女一人。
「各国への公式訪問は事前に使者を送って日程を調整する。」
突然の直接訪問。
「何か他の理由があるって事ですか?」
逃亡犯の追跡だけなら騎士に任せれば済む。
王子(当時)襲撃と王都を売ろうと企んだ重罪人。
発見次第処刑が妥当だろう。
「王子、いや王様レミーは結構過激な奴だからな。」




