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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
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「羽撃け、友よ。」 06

街の入り口。

と言っても門があるわけても線が引いているでもない。

読めば判る立て札もない。

「ここは○○の街だよ。」

とウロウロしている住民もいない。

ただ馬を預かる場所が用意され、

それか実務的意味として街の出入り口に設定されている。

キリはここでも馬具を外して馬の手入れを手伝おうとするのだが

「ここではいい。」

騎士の乗る馬は専門家が管理しているからと

そのまま名残惜しそうに眺める。

「歩行者天国」

街の中は徒歩での移動。

白い石の家の上や、通路の角、所々に

竜を象ったレリーフや彫像が置かれている。

街は居住区と商店街に分けられているようだ。

居住区には集合住宅らしきはないが

商店街の中には大きな建物がある。

他は石造りなのに、二階建てのそれは木造。

「宿。かな。一階が酒場になっているような。」

子供達が走り、

夕食の買い物なのだろう商店街は賑わう。

とても「これから戦争」になるような雰囲気ではない。

もしかしたら、知らされていない?


「結構歩くのね。」

「だから痩せろって。」

会計係ミサトと道具屋ヒサシの掛け合いはいつもの事。

城。

門はない。スロープが終わり、平に均されそこが入り口だと判断する。

白い石畳と緑。植樹しているのだろう。

「ここでお待ち下さい。」

敬語だ。

部長が副部長アオバに耳打ちする

「アンタちょっと一歩前出て。」

「どうしてそんな」

「いいからほら。演技しなさい。キュー出ししまょうか?」

武器(玩具だとしても)は持ち込めないと荷台に置いてきたのが悔やまれる。


俺は勇者。

ドラゴンスレイヤー。ドラゴンバスター。ドラゴンキラー。

凛々しい顔付き作って、

黙って立っていればそれだけで「絵」になる男。

それがヘタレ副部長若宮アオバ。

スラリと長身。母性を擽る甘めのマスク。

ああヘタレでさえなければ。

産まれた瞬間から姉に玩具にされ続け

数年後妹にも玩具にされ続け

イタズラの全ての責任を押し付けられ、

小学3年の夏まで続いた強制女装に

若宮アオバは全世界の女性を軽く嫌う。

中学、高校と「告白」を受けた人数は両手では足りない。

「ごめんなさい。イヤです。」

その断り文句に、何人の女子が泣いただろうか。

罰当たりなクソ野郎。

男子からの反感を買っていた彼を救ったのが当時演劇部新人月夜野アカリ。

「私が女の振り方を教えてあげる。」

お芝居をすれば相手を傷つけることも無い。

男子から反感を買うようなこともなくなる。

甘い言葉に騙された。

女の振り方どうのなんて一度だって教わっていない。

しかし演劇部には入部させられていた。

若宮アオバは、さらに女性を恐れる。


城から現れたのは二人の少女。

クリーム色の長い髪。青い瞳。

黒く短めな髪。黒い瞳。

「お姫様」

と呼ばれて現れるのはどちらでしょうとクイズがあれば

8割超えが「前者」と答えるほどのお姫様感。

ただ、この少女はそのルックスだけでなく、

歩く姿が威風堂々。

胸を張り、前を見据え、余裕のある表情。

「ようこそ異世界の放浪者達。」

見た感じは同年代だが、その態度は大人。

「私は西の国の王の子メリア。」


「俺、勇者」

の演技を続けるヘタレイケメンのアオバの脇を素通りし

「勇者よ。名を聞こう。」

「はい?人違いではありますまいか?」

織機キリは大混乱に陥った。

放浪者が招かれたのは会議室。

長老が三人。執政官が二人。騎士団長が同席する。

お姫様が引き連れていた少女はいない。

お姫様は演劇部員達の現れた経緯を確認する。

月夜野アカリは、

「演技を続けるべきタイミングではない」

と弁え

ドラゴンはハリボテで、あの場は混乱を収めるために

「緊急アドリブ公演。」

長老と執政官、騎士は混乱する。

伝えられた「事実」は

「暴れる竜を倒した勇者が現れた」

この世界にも「演劇」はある。世界を旅する吟遊詩人がいる。

伝説や物語を語り継ぐ「語り部」もいる。

それらどの作品の中にも、ドラゴンを倒した「人類」は語られていない。

歴史的な事実が、異世界からの放浪者によって覆された報せ。

長老や執政官がその「事実」を確認しようと

勇者達一行を呼び寄せた。

そして異世界の者達から発せられた言葉は

「全部演技でした。てへぺろ。」

混乱しない筈がない。

メリアは月夜野アカリの発言を疑っているのではない。

メリアだけが「演技」の可能性を候補の一つに挙げていた。

「まやかし」だとか「洗脳」だとか怪しげな事象すら選択肢に加えていた。

「部長」と呼ばれる少女は嘘を吐いていない。

メリアにはそれだけで充分だった。


「んー。もっと食い付くかと思ったんだけどなぁ。」

「何?」

「天然ジゴロのアオバをガン無視とか。」

若宮アオバは女性を恐れるヘタレだ。

しかし常日頃から怯ているわけではない。

媚びていないだけ。

興味が無いので、女性を舐め回すように眺めるような真似もしない。

彼にとっては悪循環なのだが

女性に関心を示していない態度こそが、女性の心理を擽るらしい。

そして女性が声をかけると、恥ずかしそうに目を逸らす。

実際はただ怯ているだけなのに勝手に勘違いをされ

さらに女性のハートを震わせるらしい。

月夜野アカリはそのあたりを心得違いをしている。

若宮アオバに余計な演出はいらない。

「でも、どうしてアイツを勇者って呼んだんだ?」

オタ師匠吾妻アヅマの疑問はもっともだ。


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