「羽撃け、友よ。」 43
かなり横暴な文句である。
王家による人権無視。暴君。
要するにキリは、王様を脅している。
「レミー。もう諦めなよ。」
メリアは席に着こうとしない兄に降参するよう進言する。
事態を理解したルメニーは興奮してキリの腕を取り振り回す。
「判った。会議にかけるよう伝える。」
体裁を整えるために正式に申請するようにと念を押された。
「だが今の言葉ではダメだぞ。そんな無茶は僕が許さない。」
「私が手伝います。メリア様よろしいですか?」
「頼むよ。」
ルメニーの機嫌は治ったようだがどうしてこんなに燥いでいるのか。
キリの手を取り別室へと
「今から?」
慌ただしいルメニーにキリは戸惑う。
「姫様と旅立つ前にどうしても。」
旅?
キリの興味は「申請方法」などではなく、
メリアの旅の目的とその行き先になった。
「副部長。皆を頼むよ。」
月夜野アカリは旅立ちの決意を固める。
「やっぱり俺も行こう。」
いてもたってもいられない。のは道具屋笠懸ヒサシ。
「稼ぎ頭の君が残らないでどうする。」
王都を拠点に、演劇部は公演を続ける。
タイトルは「異世界での日常生活」。
道具屋と仕立屋はそのスキルを駆使し生活費を稼ぐ。
残りの者も早々にジョブを見付ける。
「ずっと言っているだろ。演劇部に不可能はないって。」
吾妻アヅマはその姿を消した。
1人部室に戻っただけなら人騒がせな笑い話で済む。
赤堀サワに伝言を残した翌日、
騎士二人と笠懸ヒサシは部室を訪れるが
吾妻アヅマが立ち寄った形跡は見受けられなかった。
小心者のアヅマが夜中に1人抜け出して何処へ行くのか。
「1人では無かったとしたら。」
逃亡中の執政官が城内に現れ、
吾妻アヅマと鉢合わせたのだとしたら。
脅迫にせよ唆されたにせよ、
人心掌握の術に長けているのはこれまでの行いで実証されている。
「たしかに小心者だし小賢しい奴だけど。」
笠懸ヒサシの吾妻アヅマ評。部活動の後輩。それ以上の付き合いはない。
だが2年間共に活動してきて
「あいつは基本イイ奴だ。俺達を見捨てるうよな真似はしない。」
「見捨てたんじゃなくて見捨てられたと思ったのかもよ。」
呟いたのは月夜野アカリの親友、倉渕ミサト。
「恋するアホは死ぬほどバかをする。夏の夜の夢。」
「アンタだって気付いていたんでしょ。」
だからこその決意に何も知らない少年が水を差す。
「僕が行きます。お姫様には了解を得ました。」
織機キリは、月夜野アカリは演劇部の部長としての責任を果たせと言っている。
副部長の若宮アオバが頼りないから。ではない。
彼はこの世界に来てからずっと織機キリを気にかけていた。
特別扱いではない。
他の部員にそうするように、細かい気配りをする男。
ジゴロと呼ばれるのはそのルックスだけではない。
誰かが座ろうとすればハンカチで埃を払い
誰かのグラスが空になりそうなら注ぎ足す男。
演技に悩む後輩に声をかけ、
空腹の同僚に皿を渡す男。
それがイケメンヘタレジゴロ若宮アオバ。
若宮アオバは月夜野アカリ不在の演劇部をそつなく回すだろう。
「だからこそだよ織機キリ。」
「君は元の世界に戻る機会について考えているのだろう?」
その時、彼女が別の場所にいたなら、
もしかしたらこの先ずっと、一生、死ぬまでこの世界に留まることになったら。
「本音を言うとね、君に甘えたいよ。」
それでも行かなければならないのは
「君にアヅマの件を任せたら余計こじれるからね。」
元々はメリアの旅の同行。
目的は逃亡した執政官の逮捕。
キリは同時に消えた演劇部員を探すつもりでいた。
おそらく一緒にいるのだろうと推測。
「私が守ってやる。」
ツグミが続ける。
「私なら山の向こうの国もその向こうも知っている。」
北の大陸から海を渡り南の大陸へ。
「お前も逃げて来たのだろ。。」
ツグミはオルンの素性を知っている。
「逃げた?」
「北の大陸は荒れているからな。」
それ以上詳しくは語らなかった。
「そんな事よりも。」
と、早速メリアと同行する者達の人選が行われる。
レミーは三人の騎士を付けるつもりでいた。
西の地区から共に帰還した大隊長達。
だが騎士団長が立候補する。
「三人もいらない。私一人で充分です。」
騎士団長としての責任よりも、メリアの護衛を買って出たのは、
三人の大隊長を独り立ちさせたいから。
そしてこの任務が終われば「引退」するつもりだから。
「それで目処は付いているのか?」
数名の捜査員が既に情報収集に向かっていいる。
各地区に伝言を残しているだろう。
「悠長だな。」
ツグミが短剣を取り出し続けた。
それは王子様を襲った元執政官が持っていた剣。
「私はこいつの出処を知っているよ。」
ツグミは「向かうのは北の大陸だ」と言った。
レミーはツグミの言葉を信じ、北の大陸を目指すよう指示する。
基本的には船に乗り海沿いの街を進む。
ただ一箇所だけ、寄り道をして欲しいとメリアに頼んだ。
「母に会いに行ってくれ。」




