「羽撃け、友よ。」 41
キリだけが知らされていなかった。
魔女宅から城まで
街の住民が通りの両脇に並ぶ。
大人も子供も、
揃い騎士の「敬礼」を模している。
(子供達はキリの学校の制服のレプリカを着ている)
一人の小さな女の子がキリに駆け寄り手にする花を渡そうとする。
キリは目線を合わせるように膝を折り
「ありがとう。」
と受け取る。
それを合図に他の女の子も一斉にキリに駆け寄る。
気付くと同年代の少女や魔女達と同年代の女性まで。
「人生で最も女性にモテた瞬間」
は騎士団長の
「城で国王がお待ちしております。」
と無理やり手を取られ女性の輪から引きずり出され、
呆気なく終わる。
沿道の人達はキリ達の後ろに続き城内へと。
盛大な式典が催されようとしているのはキリにも判った。
そしてそれが
新たな国王に対する国民からの祝福なのだろうと。
城への到着と同時に仰々しく現れる騎士団。
一糸乱れぬその行進に圧倒され少々恐怖さえ感じた。
キリは後退りするのだがツグミとオルンがその背中を押す。
キリより驚くノトがキリの頭に爪を立てる。
「いだだっ。」
騎士団はキリの目前で止まる。
脇にいた騎士団長がその騎士団の前に立ちキリに向き直る。
「捧げよっ。」
その号令に、騎士団は揃いキリに剣を捧げた。
レミーとメリアと、そして演劇部員達が出迎える。
晩餐
レミーとメリアは手を付けない。
城に勤める者も騎士達も、長老も政治に携わる者も誰一人
並べられた食事に目もくれない。
集まった住民達だけがそれを堪能できる。
さらに騎士達は街へ降り余所者による空き巣の警戒まで。
キリも頭の上のノトに分け与えながらフラフラと参加していたのだが
何処に居てもワッと人が集まり
その度にノトが驚いて爪を立てるので
途中で席を外してしまった。
庭園には誰もいなかった。
城内の晩餐は聞こえてくるが煩いと感じるほどではない。
ノトは頭の上から降りて風に揺れる花を追う。
キリが寝転がると
ノトは「遊んでやろうか?」と彼の胸の上に飛び乗る。
キリはノトに遊んでもらう。
「君は本当にその猫の言葉が判るのか?」
月夜野アカリがキリの顔を覗き込む。
「へ?いえ今はもう聞こえません。でも言っている事は判るかな。」
彼女がキリの隣に座るとノトは少し警戒しながら月夜野アカリを品定めする。
「手を出して。」
キリの言うまま手を出すとノトが匂いを確認する。
それから頭をなすりつける。
「撫でさせてもらえますよ。」
今度はアカリが少々警戒しながら小さなノトの頭を撫でる。
「もっと撫でろ」
ノトが頭を擦り付ける。
「今のは聞こえたでしょ?」
気になった事がある。
キリは彼の名前を知らない。聞いていなかった。
効果を担当していた男子部員。
「あの人の姿が見えませんでした。」
ノトは蝶を追い二人の元から走る。
月夜野アカリはそれを見送り、語る。
あの時、王子が襲われキリが助けに入ったあの瞬間。
「アヅマもその男が気になったらしい。」
だが動かなかった。動けなかった。
城の中は騒然となり混乱する。
応急手当が行われキリは城の医務室に運ばれる。
(翌日から魔女宅に移された)
夜、眠れず部屋を出て城内をうろつく吾妻アヅマ。
きっと本人も気付かなかっただろう。
彼は織機キリの眠る医務室の前にいた。
目的があったわけでも見舞いに訪れたのでもない。
ただその部屋の前を通りがかっただけ。
看病を続けるオルンとツグミは
「戻って休め。」
としか言わない。
その戻り際。
アヅマはどうやら一人の男に出会す。
吾妻アヅマは演劇部員の部屋へ戻る。
演劇部員達はいなかった。
話しをすれば「バカな事を」と止められただろう。
そしてそれが月夜野アカリであれば尚の事。
それを期待していたのかもしれない。
現れたのは一年の新入部員赤堀サワ。
知り合ってまだ一月も経っていない。
「なんかもうドロドロしてますねー。早く帰りたいですよ。」
帰りたい
父母は無関心。優秀な兄も出来の悪い弟の存在を否定する。
帰りたい。か?
帰ったところで何がある。
誰も俺に関心を示さない。
月夜野アカリでさえも。
「そういや俺はお前の名前覚えてないな。」
「うわっ酷くないですかそれ。」
「今更覚えるつもりもない。」
「はい?」
「部長に、月夜野アカリに伝えろ。」
「俺は演劇部を辞める。」
ノートパソコンの入ったバッグを担ぐ。
「星よっ。その明かりを消せ。俺の暗黒の野望に光を当てるな。 」
「え?ええ?何でマクベス。」




