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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
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「羽撃け、友よ。」 38

演劇部員達は来賓として城内に部屋を宛がわるが

織機キリだけは

「一緒に来なさい。」

と魔女オルンに呼ばれ城を出る。

演劇部員達はレミー、メリアとの夕食に同席する。

「質素なのね。」

各村や街での宴会を期待していたのだが

野営地での食事と変わらない。

「これ、食べてよ。」

若宮アオバが皿を渡す。

「もっと食べなさい。」

と言いながら皿を受け取る倉渕ミサト。

何度か目に耳にしたこの行為にメリアは

「それは、その、何かの儀式なのか?」


月夜野アカリは翌日の国王の葬儀の席で

失礼にならないよう食事の作法を確認しようとしたのだが

ふと戸惑った。

「スプーンて、通じます?」

「うん?スプーン。これだろ?」

メリアはスプーンを手に取る。

月夜野アカリはもう一度戸惑う。

「匙。ではないのか。」

「だからスプーンだろ?君達の世界では違う呼び名があるのか?」

「あ、いえ。」

会話の食い違い。

メリアには「匙」も「スプーン」も同じ言葉に訳されているのだろう。

織機キリが黒猫から聞いた言葉の調整(翻訳)とは

物を示す単語や記号、単位にも適応されているようだ。

「私演劇部で良かったかも。」

月夜野アカリ部長の突然の発言に

部員達が戸惑った。


魔女の家

大鍋でマンドラゴラを煮込んではいない。

大きな本棚に多くの書物。大きな木製のデスクには

「回路図?」

「似たようなものだな。」

足元からの声。黒猫のノト。

キリはこの時は気付かなかった。

この世界にも回路図があると認めた黒猫。

テーブルの上にはその回路図とどうやら鉱石がある。

「無闇に触るなよ。」

「あ、はい。」

少し扉の開いた奥の部屋をチラリと覗くと

「拷問道具?」

アニメや映画で見たような、人を痛めつける道具が並ぶ。

「君は料理が得意と聞いたが。」

「得意と言うほどの腕前ではありません。」

「私は汗を流してくるから食事の支度を頼む。」

「え?はい。」

魔女オルンのシャワーシーンを期待するには

あの拷問道具を見てしまったキリには酷と言えよう。


キッチンテーブルに魔女と少年が対面で食事する。

テーブルの上には鶏のトマト煮込み。豆のスープ。

そして黒猫のノトとその食事。

「君は何も聞かないんだな。」

つい先日も同じ事を言われた。

「え?いや。」

「私からは聞きたいことがあるが、いいかな?」

「勿論です。」

「君は魔女なのか?」」

「違います。ただ知識があるだけです。」

「そうか。では召喚については?」

武器、薬物、それらに関する技術の持ち込みは固く禁じられている。

国や地方によって他にも条例がある。

「ノトさんから聞きました。」

だがそれ以上の事は知らない。

手順や手続きが必要なのか、それが魔法なのか儀式なのかも判らない。

一体どうして、誰が、何の目的で召喚されたのか。

「その事で実は問題が起きてね。」

夕食後、オルンはお茶を淹れもてなす。

「問題」についてキリはおよその検討を付けている。

問題は、ルールを破った罰則にある。

製作者なのか

使用者なのか

関係者なのか。


城の者達は早朝から「別れの儀式」の準備に追われた。

演劇部の連中も自ら名乗り出て手伝いに奔走する。

賑やかな儀式だった。

キリの知る「死」とは異なる向き合い方。

後にそれが「王族の死」への特別な悼み方だと知るが

キリにとって「死」は痛みであり苦しみでしかない。

ただでさえ黒猫ノトの事と、兵器云々の問題を抱えている。

賑やかに、騒がしく、陽気な気分になんてなれない。

レミーとメリアは共に笑顔で参列者の輪に加わる。

キリは耐えきれず1人城内から外へ。

彼がすぐに引き返したのは、

入れ違いにすれ違った男性の表情が気になったから。

キリの知る「葬式」にとても似合う悲痛な顔。

違和感と言うよりただ気になり殆ど無意識に後をつけた。

背中を丸め、人混みの中で人目を避けているような。

「キリっ」

遠くで声がした。

黒猫のノトがご馳走にたどり着けずにいる。

キリは男性の後ろ姿を見失う。気にしながらもノトの元へ。

「食事には気を使ってくださいね。」

「判っているよ。」

と言いつつ「アレが食べたい」「コレも美味しそう」と彷徨う。


しばらくするとオルンがキリを呼ぶ。

「レミーが探している。改めて感謝の意を示したいと。」

「充分感謝していただきましたから。」

「そうじゃない。それを皆に知らしめるためだよ。」

それこそ勘弁して欲しいと断るのだが

「次期国王の頼みでもダメか?」

命令することも可能だぞ。と言いたいのではない。

それが判るからレミーの元へと向かう。

演劇部員達は既に全員新国王の元に集っている。

談笑している。

王子にお姫様に、魔女。そして演劇部の皆。

どうして自分がこの輪にいるのか急に不思議に感じた。

「何日学校を休んだだろうか。」

学校なんて今更どうでもいいと決意した筈だ。

元いた世界で、誰か心配してくれる人はいるのだろうか。

目の前の人達のように僕に笑顔を向けてくれる人はいるのだろうか。

背中を丸めた男がレミーの背後に見えた。

キリは

レミーを突き飛ばし自分の身を投げ出していた。


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