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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
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「羽撃け、友よ。」 37

「どうした。何を佇んでいる。」

月夜野アカリはメリアお姫様との打ち合わせを終え部室に戻る。

荷物の整理と充電をしなければ。

「君のスマホも充電するよ。」

「え?はいありがとうごさいます。」

部室に入ろうとしない織機キリ。

月夜野アカリは彼がただ遠慮しているだけとは思えなかった。

元々物静かな少年ではあるが、

再会からずっと心を閉ざしてしまっている。

それは私達演劇部員がどうこうではない。

どうやら別の何かを気に病んでいる。

「話してみたまえ。力になれるとは思えないが気休めにはなるぞ。」


悩んだ。

この人に話して差し支えないだろうか。

何かを背負わせてしまうのではないだろうか。

これは、僕や部長さんのような「異世界の者」が関わるべき問題ではない。

誰かに話して楽になりたいと思う自分と

話したところで何も変わらないと冷める自分。

気休めとは言うが、気休めにすらならないと判っている。

「無理にとは言わない。君にも事情があるのだろう。」

月夜野アカリは少年の苦悩を察する。

どうにもならない。

どうにもならないけど聞いてもらいたい。

キリは、また泣き出した。


必死に堪えようとしている姿が愛おしい。

月夜野アカリは少年の頭を撫でる。

振り絞るようにキリは打ち明けるのだが

殆ど何を言っているのか判らなかった。

黒猫の中に魔女がいて

悪い事をして黒猫に閉じ込められて

身体を見つけて戻らないと

いつか魔女は黒猫になってしまう。

これはこの世界の罰で、僕がそれをどうこう言えない。

でもノトさんは悪い人に思えない。

この国の事を教えてくれて、熊が現れた時も僕を庇おうとして

それなのにこのままだと。

「ごめん。言わせて何だが私にもどうにもできないよ。」

判っている。判っていた。

「打ち明けてくれてありがとう。」

「問題の解決は無理だが」

「君の苦しみを少しだけ一緒に背負うよ。」

「せめて君の涙が止まるくらい。」


2人の姿を見たのは吾妻アヅマだけではない。

副部長の若宮アオバも、道具屋笠懸ヒサシも、

仕立屋の吉岡ハルナも赤堀サワも何やら話し声のする外を

こっそりとドアを少しだけ開いて覗いて見ていた。

(倉渕ミサトだけは、部室に何かしらスナック的な物は無いかと探している)

だがその4人は、内容こそ聞こえていないものの、

その姿が「男女間のイチャコラ」ではなく、

上級生が下級生を慰めている図。としか捉えていない。

「さあほら、顔を上げて。」

月夜野アカリはハンカチを差し出す。

「今度は私の番だ。」

キリはようやくほんの少し笑顔を取り戻す。

「しかし君は本当に動物の事になると見境無いな。」

みさかい?

「我ら演劇部の事はほったらかしで黒猫に現を抜かすとか。」

うつつ?


メリアと演劇部員達の訪問歓迎式典は日が落ちるまで続いた。

むしろ鉱山から男達が戻ってからが本番だったかも。

キリはメリアが無理矢理笑顔を作っていると見て取れた。

自分が判るくらいだ。他の誰もがそう見ているに違いない。

そしてそれを判りながら皆メリアに笑顔を向けている。

きっとこがこの国の人達の「悲しみの癒やし方」なのだろう。

僕には真似できない。

キリは一人その場から去る。

黒猫ノトはその後を追い、気付いたキリは抱き上げる。

互いに何も言わず、ただ星空を眺めていた。


王都に到着した早々に

「お葬式みたい。」

と口にした赤堀サワの言葉は現実。

数人の騎士と共に旅の一座を出迎えたレミー。

メリアは兄の顔を見て、

あの鐘の音が「その報せ」なのだと受け入れた。

何かの間違いであるとか、別の何かであってくれと

今この瞬間までずっと願い続けていた。

ぐっと奥歯を噛み締め、

俯き、そして空を見上げて涙を零した。


逝去の翌日には火葬されていた。

「別れの儀式」はメリアの帰宅を待ち、

翌日の正午の鐘の音と共に行われる。

「キリにも会わせたかった。」

レミーとメリアは揃って言った。

「父はきっとキリを気に入っただろう。」

何を根拠にそう言われているのか判らない。

二人には素敵な「父親」だったのだろう。

「お悔やみを申し上げます。」

この言葉がどの程度通じているのか判らない。

「死」の価値観も判らない。

宗教があるのかないのかも判らない。

それでもただ、身近な人を失った悲しみは

きっとどの世界でも一緒なのだろうと口にしていた。


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