「羽撃け、友よ。」 36
演劇部員達(数名除く)も早朝トレーニングを終え、
そろそろ朝食の席へとその時、
黒猫が部屋から外へ。キリに朝食の催促。
女子部員達が食いつかない筈がない。
キャイキャイ言いながら追いかけるが当然逃げる。
「サワっち左から。仕立屋は後ろに回れっ。」
「サワっち?」
黒猫相手に追い込み漁。
本物の猫だって警戒する。警戒して逃げる。
逃げる黒猫ノトはキリの頭に飛び乗る。
「ちくしょうっまたお前かっ。」
結構本気で怒る女子部員達(倉渕ミサトは不参加)。
「ずるいぞお前ばかり。」
「またとかずるいとか何の事ですか?」
メリアにルメニー、あの美しいお姉さまは魔女。
自分はごついおっさんとマンツーマンでお馬の稽古。
見るとアイツは一人で馬に乗り隊列を組んでいる。
馬車に揺られながら、アヅマは自分が憐れで惨めで情けなくて。
先に行こうとしているのに置いていかれている。
俺だって主役を張りたい。
でも無理だ。
最初の日。
あの日の夜、俺はアイツに食事を運ばせた。
上にいようと思ったあの時点で下にいる。
きったない盛り付けだったが気遣ってくれたのがすぐに判った。
俺にはあんな気遣いはできない。
俺は俺の事しか出来ない。
降り注ぐ矢の雨の中、アイツは部長を救いに飛び出した。
俺はどうしていた?足が竦んだだけだ。
吾妻アヅマは知っている。
脇役にヒロインは靡かない。ただ微笑むだけだ。と。
キリは自分が主人公だなんて微塵も考えていない。
少しでもその気があったなら
この状況もきっと変えられると信じただろう。
危ないからと馬車に預けた黒猫ノト。
馬に乗りながらずっと彼女の今後を思案した。
野営地に到着しても狩りにも行かず、
弓の稽古も体長が悪いと断り、
実際食欲も無く殆ど部屋から出なかった。
この国が、この世界が長閑で平和に感じるのは幻想なのだろうか。
罪に対する罰が重いから皆穏やかに振る舞っているのだろうか。
国民はその恐怖に怯え、見せかけの平和を演じているのだろうか。
そんな事ばかり考えてしまった。
メリアもルメニーもオルンも、キリが不機嫌な理由を知っている。
キリが特定の誰かを責めているのでは無いことも判っている。
ツグミが何をしたのかを知れば、キリは彼女を軽蔑しただろうか。
寝ている時間が増えたり、頻繁なグルーミングも
きっとそれが遠くないからだろう。
ツグミもそれを承知している。
キリは、何もできない自分がただ許せないだけだ。
守護竜を救った少年を西の地区に向かわせ
護衛を妹と現地の三騎士に委ねた。
「エンゲキブ」を騎士団長に任せ王都から離れさせた。
キリの出発の前日、レミーは執政官二名を拘束した。
しかし一名は未だ行方不明。
さらに、居るべき場所に国王が「いない」。
国内の「ごたごた」を異世界の者達に晒すまいと遠ざけたのは
同時に危険な目に合わせてしまう可能性も考慮しての事だ。
王都にはまだ騎士が少ない。
守護竜ピータンがいる限り攻め込まれる心配はない。
だがこの手薄な状況を利用するしか策は残っていない。
逃亡中の執政官が追い詰められどのような手段を用いるか。
人質にでもされたら面倒だ。
拷問を好まないレミーは捜索を続けるが
国王が発見されたのは翌々日の夕暮れになってからだった。
既に息は浅く、そう長くはもたないだろうと
父のその姿を見て理解した。
メリアをキリの元に向かわせたのは
父のこの姿を見せたくなかったからでもある。
「せめてメリアの帰還まで頑張ってください。」
返事も出来ない父の手を取るが
その願いは叶わず翌日息を引き取った。
鐘を鳴らし、国中に国王崩御を報せる。
葬儀だけはメリアの帰宅を待つ。
レミーは引き続き騎士達に行方不明の執政官の発見を急がせた。
演劇部員の護衛と称し騎士団長に追わせ探らせている。
メリアにも西地区から探させている。
往く先々で賞金首として触れ回り追い詰める。
必ず見付け出しその報いを受けさせる。
部室
メリアは始めてそれを目にする。
「倉庫か?」
「失礼なっ。」
「失礼と思うなら片付けろ。」
「ぐぅ。」
村では既にメリアと演劇部員達を歓迎する式典が準備されていた。
国王の葬儀が先じゃないのかと
演劇部員達は少々恐縮したのだが
「生者との再会は素直に喜ぶべきだよ。」
と言われその歓迎を素直に受け入れた。
キリは到着早々牧場の夫妻に掴まり
綺麗になった制服を受け取った。
山ほど果物やら乳製品やらをいただき
部室で荷物の整理をしている演劇部員に分けようと訪れる。
ドアは閉まっている。
中は賑やかだった。
キリはドアに手を掛けられなかった。
ここに置いて行こうか。
それとも宴会の席で皆に振舞おうか。




