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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
35/181

「羽撃け、友よ。」 35

初めて目にする異世界の演劇。

メリアは大いに盛り上がる。

街の人々も大歓声。

その半ば。

鐘の音。

一つ、二つ、三つ

勿論正午ではない。陽は傾き日没は近い。それでも鐘は鳴る。

四つ、五つと続くが鳴り止まない。

笑顔だったメリアは今まで見せたことのない悲痛な顔を見せた。

空を見て、東に向かい顔を伏せ片膝を付いた。

あれほど湧いていた街の人々も

全員が一斉に立ち上がり、そして東に向かい片膝を折る。

キリと月夜野アカリは理解した。

「王様が亡くなった」

二人が同じように膝を折るのを見て、

他の演劇部員達もそれに習った。


黒猫のノトが戻ったのは皆が寝静まってからだった。

彼女なりに気を使ったのだろう。音も立てず部屋に入り

キリのベッドに潜り込んだ。

「おかえりなさい。お腹空いてませんか?」

「うわっ。何だ起きていたのか。」

二人は静かに部屋を出てそのまま外へ。

「夕食を少し残しておきました。」

蒸した鶏肉を解しトマトのソースで仕上げた。

実際ノトは空腹ですぐにお皿を綺麗に舐めた。

「どうして判った?」

「なんとなくですよ。」

この街は他所からの入国者との交易の場となっていると聞いた。

姿を消したのは情報収集に奔走していたからだろう。

「お前には感謝している。いつかきっと恩を返す。」

「夜食の用意くらいで大袈裟ですよ。」

基本的には急ぎの旅だ。

翌朝には出発するだろう。

ノト自身に焦りがあるのはキリにも判っていた。

「僕にお手伝い出来る事はありますか?」

「これから王都に向かうだろう。お伴に加えてくれればいいよ。」

この少年は本当にただのお人好しなのだろう。とノトは思っていた。

同時に「自分が猫の姿だからこの子は親切なのかも」とも考えられる。


「また逃げる算段をしているのかな。」

魔女のオルン。キリとノトが抜け出したのを見ていた。

キリとノトが一緒にいるのは、オルンにとっては好都合だった。

仕向けたのではなく、結果としてそうなった。

「ノトの監視」は他国の魔女からの依頼。

「監視って?」

黒猫のノトの告白。

「黙っていてすまない。私も魔女なんだよ。」

黒猫のノト。彼女の本当の名は「ツグミ」。

彼女は罪を犯し、裁きを受ける。

その罰として産まれたばかりの黒猫に閉じ込められた。

科学的な根拠なんて判らない。

ただ実際に目の前の猫は語っている。

飼い主であるはずのオルンを避け続け

何の相談をしないのもそれが理由。

この罰が恐ろしいのは、

ツグミはやがて、本当に黒猫のノトになってしまう事だろうとキリは考えた。

脳のサイズに無理がある。

それがどの程度の時間を要するのかまでは判らない。

しかしきっとその意識は失われる。

どんな罪なのか知らない。でもこれはやりすぎだ。

キリはオルンに何も言わなかった。

内政不干渉

それにオルンが罰を与えたわけでもない。

郷に入れば郷に従え。

何とか自分を納得させようと言葉を探し続けた。

見付からず、とうとう泣き出した。


「一緒に逃げましょう。」

部屋に戻るとキリはツグミに提案する。

朝こっそりと再び西へ向かう。

何処の国でも構わない。出国してから次を決める。

「僕が力になります。」

誘惑に揺れる。だが現実を知らないほど愚かな魔女ではない。

「だめだよキリ。ありがとう。」

彼女はそれ以上言わなかった。

自分の罪の重さを知っているからではなく、

ただキリの身を案じている。

それが判るからこそ言わずにはいられなかった。

「何か出来る事は。」

この少年は、一緒に逃げようと言えばそうする。

「美味しい食事とふかふかな毛布があればいい。」

「僕が面倒見ます。」

突然の申し出にツグミは笑う。

「求婚しているのか?」

キリも釣られて笑い出す。


朝の訓練は無いだろうと思ったのは

織機キリと吾妻アヅマ

だがどちらも

「それはそれ」

と外へ連れ出される。

アヅマは馬屋まで歩き騎士団長指導の元乗馬の訓練。

キリは

街中では日課の弓の稽古ができなかいからと

「素手での護身術を」と成り行きで決まってしまう。

「人に殴られても痛い」と身を持って知った。

「何を当たり前の事を。」

ルメニーは笑うが

「人以外に殴られた経験があるのか?」

メリアの疑問に対して

「動物に体当たりされたり蹴られたり。」

遊ぼうとしただけの大きなレトリーバーに体当たりされて吹っ飛んだ。

羊の身体が気持ち良さそうで腕を突っ込んらそのま走り回られ引き摺られた。

注射の気配を察して暴れる猫の後ろ足は凶器でしかない。

そのどれもが楽しい思い出だった。


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