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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
34/181

「羽撃け、友よ。」 34

半分は気を使って、

半分は伝え広がる事実。

「何が伝わっているのか怖いわ。」

「事実よ。」

王都でメリア姫と共に戦った事実。

炎を吐く竜を携え、この国の守護竜と共に王都を救った英雄達。

「チヤホヤされる筈だわ。」

厨房から料理を運ぶキリは、それを聞いて心の底から安心していた。

ああよかった。これで僕一人勇者だなんだと囲まれずに済むと甘く考える。

「オルン。こいつ凄いんだぞ。自分で料理作れるんだ。」

「もうこの子が何をしようと驚きません。」


演劇部員達もいるのだからと、キリも厨房から出るよう言われるが

挨拶もそこそこに引っ込んだ。

演劇部員達がどうこうではない。

ただただ賑やかで騒がしいのが苦手なだけだ。

調理場に空いた皿を下げ、身体を伸ばそうと搬入口から外へ出ると、

月夜野アカリがへたり込んでいる。

彼女は嗚咽している。朝も昼も何も食べていないので戻しようがない。

キリは一度厨房に戻りそれから駆け寄る。

「キミか。」

聞きたいこと、訊ねたいことがあった筈だが

吐き気に負け咽る。

キリは何も言わずに水の入ったカップとハンカチを渡す。

「すまない。ありがとう。君はすごいな。」

「すごい?」

いつもいつも適切な対応をする

君にはどんな状況にも対処できる特殊能力でもあるのかもな。

「そんなもの。あるわけないでしょ。」

少年は初めて感情をあらわにした。

何かあったのだろう。話を打ち明けさせよう。

立って、年長者として力になうとするがフラリとよろめいてしまう。

キリは彼女を支え

その軽さに驚く。

「もしかして何か」

「いやいやその心配は無用だ。ただのプレッシャーだよ。」

そう言いながら腰を下ろし隣にキリを座らせる。

公演の前はいつもこうだ。

加えて部長としての、年長者としての責任。

「すまない。部員達にこんな姿を見せられないからな。」

「少しだけ。キミの肩を借りるよ。」

月夜野アカリは、この世界で始めて弱音を吐いた。

「私達、本当に帰れるかな。」


キリは彼女を支え抱きながら

「判りません。」

嘘を吐いて気が晴れるなら、気休めになるのなら。

そう思わないでも無かった。

でもこの人にはそれは通じない。なんの慰めにもならない。

「正直だな。」

キリは元の世界への帰還方法について既に魔女に尋ねている。

その返答は

「王都に戻って調べてみよう。」

確約なんてできない。

だが現状それに縋るしかない。

「考えたのですが。」

キリは最初からそのつもりだった。

「皆さんは部室にいてください。少なくともあの村に。」

「キミ一人王都に戻るつもりか。」

「誰かがすべきです。僕が適任だ。」

「どうして適任なのか教えてくれ。」

「僕は演劇部員ではありませんから。」

キリの作り笑いが、月夜野アカリの胸に刺さる。


「道具屋の笠懸ヒサシは君の行動力に感心していた。」

「仕立屋の吉岡ハルナは君の写真を見てニヤニヤしていた。」

「なんですかそれ。」

「私も、キミには私の近くにいて欲しい。」

ああ何ということでしょう

吾妻アヅマが姿の見えない部長を探しに宴席を抜け出し、

建物の陰から聞こえた声にこっそり覗いてその姿を確認する。

勇者様織機キリが、ああ憧れで、好きな女性の肩を抱いている。

いつも凛々しくて、俺を鼓舞してくれるあの部長が

その肩に寄りかかり「そばにいて欲しい」と「縋り」ついている。

現実なんて。

異世界だからって浮かれていた。

異世界だろうとこれは現実で、自分に特殊能力が備わったわけじゃない。

ゲームや小説のように「俺ツエェ」なんてならない。


「帰る時は皆一緒に帰れるように皆で一緒にいよう。」

「正直に言います。僕は帰れなくても構わないと思っています。」

察しは付いていた。

この少年は、私達演劇部のために行動しているのではない。

彼は帰る方法を捜しているのではない。

この世界で生きる方法をこそ求めている。

月夜野アカリが口を開く前に

少し離れた場所で

「おうアヅマ。部長いたか。」

道具屋の声が聞こえた。

「私ならここだ。」

演劇部部長は立ち上がる。

「さあ行こうか。幕が上がる。」

月夜野アカリは一人立ち上がる。



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