「羽撃け、友よ。」 33
身支度を整え出発し馬の上で揺られながら
「気をつけろよ。荒っぽいのが多いぞ。」
メリアは含んだような笑いでキリに忠告した。
西の国中央地区。
街の入り口で馬を預け
通りに一歩踏み入れると道が開けた。
尊敬と羨望の眼差しを浴びる一団。
その一員である筈なのに他人事に感じるのはやはり「他人」だからだろうな。
と卑屈にもなる。気分も悪く、ついつい俯き加減になってしまう。
「胸を張れ。姫に恥をかかせるな。」
隣を歩く魔女のオルンに背中を叩かれた。
尊敬を受ける者は、相応の態度と行動が義務となる。
人混みはキリの「苦痛」でしかない。
都会の駅で人の波に酔った。
人の壁に圧倒され目眩に襲われた。
そんな気分でも「異様な集団」だから目を引くのではないと気付いた。
美少女(この世界でもそうらしい)の両脇と後方に屈強な三人の騎士が囲むからではない。
その美少女がメリアだからだ。
道が開かれる。
と同時に人が集まる。
メリアに敬意を示すが平伏なんてしない。
彼女がそうさせない。と言うべきだろう。
声を掛けられると彼女はまさに「気さく」にその全てに応える。
「姫様先に区長の。」
ルメニーに催促され
「用事が済んだらまた寄るよ。」
宣言した通り、
彼女は街の責任者との打ち合わせを早々に切り上げ街へと繰り出した。
「それでどうして僕まで。」
口にはしていないがキリのその表情を見て
明らかに苛立って詰め寄ろうとするルメニーをそうする前にメリアが止める。
「とにかく付いて来い。きっと楽しいから。」
夕食の支度にはまだ早い
それでも賑わっている。
うんざりしているのではなく、本当にただ人の波に酔って歩いていたので
魔女のオルンが姿を消して、替わりに騎士1人(素手武術担当)が
キリの隣に並び歩いていた事に気付くのにしばらく要した。
黒猫のノトも何時の間にか消えていた。
繁華街に戻った一団はすぐに取り囲まれた。
気付くと大きな食堂に連れ込まれ宴会開始。
キリは「荒っぽいのが多い」と言われ覚悟していたのだが
何とも微笑ましい「荒っぽさ」だった。
お姫様の一座に加わる「異世界の少年」が取り囲まれないはずがない。
お姫様の周囲同様、キリの周囲にも人々が集まり
次々に料理や飲み物が振る舞われた。
「食べ(飲ま)ないと失礼になる。」
と直前に脅されていたキリは早々に逃げ出した。
トイレか、裏口があるならそこから外へと店の奥に行くと
通路から厨房が見え、キリの興味はそちらへ移る。
「命を奪い貪り食う罪深さよ。」
動物の命を救う現場を目の当たりにしてもなお
捌いて調理して美味しくいただくこの行為は止められない。
この世界の料理人は、どのような価値観を抱いているのだろう。
キリがこの世界に連れてこられて以来の違和感。
「宗教がない。」
食事や就寝の前の「お祈り」はない。教会や神社もお寺もない。
ピータンを「守護竜」と呼び称えるが崇めてはいない。
生者と死者を繋げる「何か」は存在するのだろうか。
等々御大層な意義を見出すつもりでいたが
厨房からの「贖えない香り」に全て吹き飛んだ。
厨房の料理人は「異世界の少年」を快よく受け入れる。
捌かれる食材の姿形がほぼ同じであれば
捌く道具が似通うのは当然か。
調理方法も似ている。
味付けは俗に言う「フレンチ」に近い。
ベシャメルソース。エスパニョールソース。ヴルーテソース。
ブイヨンベースにフォンを作ってもいる。
「食材を加熱しソースを添える」が基本形のようだ。
主食の殆どは小麦と豆類なのは既に承知している。
お米もあるが日本の「ご飯」には遠く及ばない。
さて何を作ろうかと一思案し小麦から麺を打ち。
2時間ほど寝かせたいがまあいいか。
にんにく、玉ねぎ、トマトを使ってソースを作り振る舞った。
メリア一行の到着と晩餐会場を確認した騎士が
演劇部員達を連れ訪れる。
「でもどうしてお姫様が?」
「うん。キリの護衛だ。」
ただの冗談だと捉えられた真実。
本人がそれを聞いていたなら事実なのだろうと認識する。
直後に魔女オルンが合流。
メリアに何やら伝えてから
「はじめまして異世界の勇者達。私は魔女のオルン。」
演劇部員全員大燥ぎ。
勇者達
勇者キリとその一行。ではなく
綺麗なお姉さまの認識は
異世界の少年少女全員が勇者。
少年少女のように浮かれる高校生。
魔女との出会いは「元の世界への切符」と思い込んでいた。
のだが
「すまない。私も詳しく判らない。王都で調べてみよう。」
「この時の落胆は大きかった」と、笑いながら後に語る日は訪れるのだろうか。




