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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
3/181

「羽撃け、友よ。」 03

この世界に連れて来られた演劇部員は七名。

疲れているのか一人部外者のキリの処置を放置。

部員達の話しを聞く限り、

部員は他に二年生の女子が二名いるが

幸い「買い出し」に行ったらしい。

キリは、肩身の狭い思いをしながらも

部室に布団を運び就寝の準備を手伝い、

そのまま部室に寝泊まりさせてもらう事になった。

人数分寝られるだけの場所を確保するのに

満たされたお腹は邪魔だった。

少々汗もかいたのだろう。

「シャワー浴びたい。シャワー浴びたい。」

会計の倉渕ミサトがこぼす。

「痩せれば。」

ボソリと呟く道具屋の笠懸ヒサシの独り言を

倉渕ミサトは聞き逃さない。

「それ関係なくね?」

寝巻きにと、部室に置きっぱなしのジャージに着替える面々。

「仕立屋。この子の寝巻きになるような服ある?」

この子とは1年1組織機キリ。

「私のジャージなら。」

「アンタはどうするのよっ。天然か。」

勇者衣装に比べ装飾の少ない村人衣装を与えられる。

「今日はもう寝ましょう。考えるのは明日。」

部長の月夜野アカリは早々に横になる。

道具屋は独り言を続ける。

「目が覚めたらみんな部室の中で寝てました。」

「俺の、俺だけのスマウグも無事でした。」

それに対し効果担当オタ眼鏡の吾妻アヅマは

「知らないんすか?主人公は現世で死んでから異世界に行くんすよ。」

倉渕ミサトが有り得そうな憶測を口にする。

「道具屋の作ったハリボテが暴発して巻き込まれたに違いないわ。」


翌朝。一番に起きた副部長の若宮アオバ(わかみや あおば)は、

半泣きで祈りながら部室のドアを開ける。

が景色は変わらなかった。

朝の陽射しがいつもより眩しいのは遮る建物がないから。

頬にあたり髪を靡かせる風がいつもより冷たく心地よいのは、緑と土を駆けるから。

長閑で、静かで、非日常的な日常。

開ける。見る。閉める。開ける。見る。閉める。

「ええいっやめろ鬱陶しい。」

部長月夜野アカリの声に全員目覚める。

先ずは顔を洗いたい。水場を探そうと打ち合わせる。

キリが村人に尋ねると

「どうぞ。うちのお風呂を使ってください。」

各家庭には井戸から水道が引いてある

「上水道が整備されているとかファンタジーにあるまじき。」

水資源が豊富。

「しかもお湯が出る。」

何かしらの燃料で水を沸かしているのか、それとも温泉なのか。

「上水どころか下水までありまよ。」

「細かい事はいいわ。皆で宿のシャワーを借りましょう。」

この村唯一の宿屋と言ってもさすがにシャワーは無いが

大きな湯船と手桶が置いてある。

そして

習慣とは恐ろしい。

全員「村人の衣装」ではなく、制服を着てしまう。


居着いたとして、食事はどうする。

いつまでも「勇者様ありがとうキャンペーン」が続くとは思えない。

「帰れない場合の事も真剣に考える必要がある。」

道具屋の意見はもっともだ。

「アンタはどの世界でも生きていけるわ。」

事実、彼はこの村でとても重宝される。

家屋や納屋の修繕からテーブルのガタツキまで。

余談だがこの世界にロッキングチェアを持ち込んだ。

口は悪いが腕は確か。

人見知りの激しい仕立屋の吉岡ハルナが苦労するだろうと思われたが

仕立屋としての能力が覚醒する。

互いの世界の衣服のデザインと機能について情報交換を行い、

気付くと村の若い女性達と馴染んでいた。

会計係の倉渕ミサトは

「うーん。レストランでも開業するか。」

「料理できるの?」

「味見なら。」

それを料理と呼ぶミサトはきっと大物に違いない。


ここまで全く存在感の無い副部長の若宮アオバでさえ

本人が何かをしているでもないのに

何かと女性が声をかけ取り囲まれている。

この村には男性が少ない。その理由は後に判明する。

何も無いのが1年の赤堀サワ(あかほり さわ)。

赤堀サワ

彼女は「演劇部に入りたくて演劇部に入った」真っ当だが面倒な娘。

帰宅部希望だった中学の同級生、吉岡ハルナを誘い入部。

魔法使いの通訳としての存在感はもはや失せ

「私することねーじゃん。」

からの、

「自分は何者なのだろう」

などと今更ながら中二病を発症した。

演劇部なのに異世界サバイバル。

つーか異世界モノとか興味ねーし。

苛立ちの愚痴を聴かせられた部長は

「この世界の物語を聞いてみたら?」

残念ながらボイスレコーダーの充電は切れている。

クリップボードとペンを持ち、

村のお年寄り達を取っ替え引っ替え捕まえ

「村でも国でも世界でもいいから」

昔話を、神話や伝説を、とにかく昔話を聞かせてほしい。

喜んで語る老人。

同じ話のなんと多いことかっ


「お前達外でウロウロしているけど突然戻ったらどうするんだよ。」

と、トイレ以外外へ出ない吾妻アヅマ。

音響、照明、演出上のテクニカルな部分は彼の得意分野。

スマホに小さなプロジェクターを接続して

プロジェクションマッピングは軽くこなす。

「異世界でも引き篭もりとか。何やってるんだ?」

外で汗を流す道具屋が大工道具を取りに部室に戻り

相変わらず部屋の隅でカチャカチャやっているオタに声をかけた。

「使えそうなアプリやら無いかと思って。」

「電波来てないんだろ?もしかして有線あるとか?」

「いや。ダウンロードだけはしてあるから。」

ライトを使ったフラッシュ。

モスキート音。

磁気センサーを利用したコンパス。

「ジャイロセンサーで水平とれるっすよ。」

「水平器ある。」

近接センサーも使えそうだな。

トラップ仕掛けて。

「ああっGPSあればオートマッピングできるのにっ。」


充電器をコンセントに刺すと充電が始まった。

のだがメモリが増えない。パーセントも変わらない。

「それでも俺達の世界と繋がっているって証拠だ。」

基本方針として

「帰る」

ただ

「探す」

「待つ」

に割れる。

「ミ○トは動いたら死ぬ。」

「キュ○ブも。」

ただそれは、「待つ」を主張する者にとっては拠り所にはなっても

サンプル数の多さなら

「探す」が勝る。

王道ファンタジーの登場人物たちは、常に行動的で能動的に状況を進める。

自らが進むべき道を選ぶ。

それが登場人物としての、主役としての努めだ。

「どのみち脇役だと順番に消える。」

「いやファンタジーは殆ど生き残る。退場するのはSF。」

「映画の話しはいいのよ。」

話しが脱線するのは、答えを出すのが怖いから。

もしその選択が誤っていたら。

画面の中のゲームと違ってリセットもセーブも出来ない。

「積極的に手掛かりを探すのか」

「積極的に部室警備をするのか」

この二者択一の多数決から始まる。

八人の高校生の選択は

七対一


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