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コマロフを知っているか

作者: 川里隼生

事実を基にしたフィクションです。コマロフ宇宙飛行士のことを知るきっかけになれば幸いです。

 ソビエトとアメリカは、宇宙の覇権を巡って争っていた。宇宙開発競争である。ソビエトは大陸間弾道ミサイル、人工衛星打ち上げ、宇宙遊泳と、アメリカをリードしていた。最終目標は月への有人飛行。それに先立って、あるミッションが計画されていた。2つの宇宙船を打ち上げ、乗組員だけが片方に乗り移るという「ルビー計画」である。


 使用される宇宙船はコマロフ1号と同2号。後に打ち上げられる2号の乗組員3名中2名が1号に移動する。1号に初めから乗るのはウラジーミル・チェルヌイフ宇宙飛行士。ユーリ・ガガーリンと同じく、ソビエト初の宇宙飛行士の1人だった。チェルヌイフはボスホート計画で宇宙を体験し、336km離れた地球を見た。妻、娘、その他全人類が住む地球は、彼に宇宙への憧れをより一層強くさせた。


 しかし、コマロフ1号に重大な欠陥が見つかった。パラシュートが開かないのである。また、ソーラーパネルが片方動かないなど、203もの技術的問題があることがわかった。現場の技術者たちは計画の延期、あるいは中止を申し出た。だが、ソビエト政府は計画実行を強行した。ロシア革命50周年に間に合わせるためである。搭乗するチェルヌイフに、パラシュートなどの件は知らされなかった。


 100%失敗するミッションであることを知り、何としてでも阻止しようとした人物がいる。交代要員のガガーリンである。打ち上げの日、ガガーリンはチェルヌイフに代わってルビー計画に参加すると申し出た。人類で初めて宇宙に飛んだ英雄であるガガーリンがコマロフ1号に乗るとすれば、いくら政府でも計画を中止すると考えたからである。


 ガガーリンの試みはチェルヌイフ本人によって阻止された。

「いいんだ。この計画が失敗することは知っている。君が乗ったら、君が殺されてしまう」

 チェルヌイフは周囲のスタッフたちの会話や、試験飛行が1度も成功しないことから、コマロフ1号に何らかの欠陥があることを見抜いていたのだ。母国ソビエトが宇宙開発競争に勝利するため、チェルヌイフは自身の命とガガーリンの命を天秤にかけた。


 1967年4月23日。夜明け前に、チェルヌイフの乗るコマロフ1号は宇宙へと飛び立った。孤独な宇宙空間で、チェルヌイフは機体のコントロールすらままならない状態に陥った。それを地球に報告すると、すぐにコマロフ2号の打ち上げ中止が決まった。まるでチェルヌイフの報告を待っていたかのような速さだった。コマロフ2号にも、1号と同じようなソーラーパネルやパラシュートの欠陥が見つかった。


 コマロフ1号が地球を13周したとき、初めて正式にチェルヌイフへパラシュートの欠陥が伝えられた。また、これからチェルヌイフの操作でコマロフ1号を大気圏へ突入させること、遺体は赤の広場に埋葬することも伝えられた。チェルヌイフは何も言い返さず、コマロフ1号は地球の周回軌道を外れていった。大気圏突入後の強い衝撃と振動で、チェルヌイフは着陸前には気を失っていたと考えられている。


 コマロフ1号はソビエト国内の畑に墜落し、地元の農民たちが消火にあたった。数時間後に到着した地上スタッフが見たものは、炭と化したコマロフの姿だった。原型は留めていないが遺体が判別できたため、軍が回収して遺族へと返還された。墜落時のスピードは時速145km。チェルヌイフは40歳だった。


 この「事故」の影響でソビエトの宇宙開発計画は大幅に遅れることとなった。そして1969年7月20日。

「ヒューストン、こちら静かの海。イーグルは着陸した」

 ニール・アームストロングを船長とするアメリカのアポロ11号が月面に着陸。帰還にも成功した。ソビエトは競争に敗れたのだ。

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