ありきたりなしきたり
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なんかすごい目で睨まれながらもなんとか街に入る事が出来た俺達はその足で俺の身分証を作るため、ギルドとやらに向かった。
「ギルドってどういうところなの?」
また怖い人が居たらたまらないのでユミィにそう聞いてみる。
「ギルドっていうのは冒険者達が集まるところですよ! そこでクエストって呼ばれる依頼を請けたり、ゴブリンみたいなモンスターの輝石を売ったり出来るんです!」
ユミィはそう言って腰につけたポーチを叩いた。
ああ、だからあんなヌルヌルになってまで三体のゴブリンから石を回収していたんだな。
そんな場所ってことは荒くれ者が沢山居そうなイメージだけど大丈夫だろうか。俺は途端に不安になってきた。
体調と心の問題で足取りは重かったが街を入ってすぐにギルドがあったため、心の準備もそこそこに開け放たれたドアからギルドの中に踏み入ることになった。
建物の中はそれなり広いスペースになっていた。
入ってすぐの右側に長いカウンターがあって、その奥ではここで働いている職員であろう人々が動き回っていた。なんだかお役所、みたいなイメージだな。実際に見たことはないけど。
逆に左側は……と目を移すと、そこはさながら待合スペースみたいな感じで、テーブルがいくつも置かれていた。中には酒を飲んでいる人も居たので、食事をする事が出来るのかもしれない。
でも広さの割には人が少ないな……俺がそう思っていると、
「この時間くらいだとちょうど依頼を請けて外に出ている人が多いから、ここに残っている人は少ないですけどあと一時間くらいしたら人が集まってきますよ。夜になるとここのテーブルがいっぱいになっちゃうんです!」
ユミィがそう教えてくれた。ここのテーブルがいっぱいになるって……それはすごいな。
でも人が多いのは怖いから人が集まる前にさっさと用事をすませてしまおう。
「すみませーん」
ユミィがカウンターの奥の職員に声をかける。
すると職員は俺達に気付いたようで、にこやかな顔をしてこちらに近づいてくる。
「あ、ユミィちゃん! ゴブリンを倒してやるーって息を巻いて出ていったから心配してたのよ?」
「ごめんなさいアリーシャさん。あ、でも! ちゃんと……ほら!」
ユミィはポーチからゴブリンの輝石とやらを取り出してギルドの職員に見せつける。
その時のユミィの顔は誇らしいような、喜びを隠しきれていないような……ドヤっという顔をしていた。
「あら、凄いじゃない! 買い取りはあっちでしているわよ」
「あ……じゃなくて、まずはこっちのクロウさんの冒険者証を作りたいんです!」
ユミィがそういうと、俺の存在にようやく気付いたようでびっくりした顔をしていた。
そして俺を上から下まで舐めるように見つめてくるギルド職員。
思わず俺も見つめ返してしまう。
薄い緑色の長い髪、そしてやや垂れた目に長いまつげ。あまりにすらりとした肢体は病弱そうにすら見えるほどだ。そして顔の横につく耳が……あれ、この人って……。
「あら、そんなに見つめちゃって……エルフが珍しいの?」
うお、やっぱりこの世界にはエルフがいたのか!耳がちょっと長かったからもしかして、なんて思っていたんだ。
「す、すみません」
「いいのよ。あら、その目って……」
俺はそう言われて慌てて左目を閉じた。
そうするとそれは自然とウインクになってしまうわけで。
「まぁ……! ん、でも弱そうだしなぁ、強くなったらまた、ね?」
そうにこやかに言われてしまった。
そんなつもりじゃなかったのに、俺の周りはこのままだと大変な事になってしまいそうだ。
隣でそんな様子を見ていたユミィはじとっとした目で俺を睨んでいる。
「と、登録をお願いします!」
俺は強引に話を逸らすと、苦笑いをしたアリーシャさんがカウンターの下から登録用紙を出してくれた。
紙の質は昔のわら半紙よりも低そうだったけど、羊皮紙とかじゃなくてよかった。
「文字は書ける?」
「あ、大丈夫です」
反射的にそう言ったけど、あれ日本語しか書けないぞ……。
まぁ英語が書けても何一つ意味がないとは思うけど。
そして受け取った紙を見て……やっぱり文字が読めないや。
「あ、あの……」
紙から顔を上げて隣のユミィと話をしているアリーシャさんに助けを請おうとする。
「はぁ、なるほど……ユミィちゃんが気に入るのも分かる気がするわぁ。ユミィちゃんルクセレス様の建国物語大好きだもんね」
「もーからかわないでくださいよー」
楽しそうでなによりだ。それにしてもやっぱりユミィはこの目があるから俺なんかと……?
そう何気なく左目に触れた。
おっとそんな事よりもまずは登録だな。
「すみません! この紙なんですけど」
俺はそう言ってアリーシャさんに声を掛ける。
「あら、もう書けたの?」
「いえ、そうじゃなくてここの部分なんですけど……」
そういって紙になんて書いてあるのかを聞こうとするが。
「あ、あれ? 読める……ぞ」
どうしたことか、再び紙に視線を戻すと不意に紙に書いてある文字が”分かる”ようになった。
練習した外国語のように"読める"という感じではなく、慣れ親しんだ言語であるように自然と"分かる"のだ。
「あら、まだ書いてないじゃない」
「いますぐ書きますっ」
そういって俺は名前や年齢など、必要な項目を埋めてアリーシャさんに渡す。
「ちょっと分からなかった部分は空白にしてます」
「ふむふむ、名前はクロウで年齢は24歳、住所不定の無職っと」
う……まぁそのとおりなんだけど。職は元々なかったけど住所も失ったと思うとぐっとくるな。
「じゃあ適正を調べるからこの水晶板の上に手を置いてね」
そう言われて俺は差し出された水晶板に手を重ねた。
ちょっと冷やっとしていて気持ちいいいな。
「えーっと……ん? ん?」
何かあったのだろうか?アリーシャさんが驚いた顔をしたあと、ダラダラと汗を流し始めた。
ああ、やっぱり違う世界から来たみたいだしどっかおかしい所があるのかもしれないな。
俺はなんとか言い訳をしようと口を開こうとする。
「あ、あぁ魔力が高いから……えっと……魔道士タイプからしらね? おほほ」
なんだか声が上ずっているけど、まあいいか。
魔道士かぁ……俺も魔法とか使えるのかな?やっぱり練習とか必要なのかな……。
大魔法を使っている自分を夢想すると自然と口元が緩んでしまった。
やっぱりまだ厨二病を引きずっているようだ。
ふと気づくと横でアリーシャさんがユミィになんか耳打ちをしている。
あれはもしかしたら俺の悪口かなんかを言っているのかもしれない。
途端に昔の記憶を思いだして……緩んでいた口元を引き締めた。
「何言ってるんですか! どうして一緒にいちゃいけないなんて……!」
突然ユミィが大声を出したので俺は驚いてユミィを見る。
ギルド内にいた多くの人達も同じ様にユミィに注目しているようだ。
そんなユミィの様子をみたアリーシャは慌てたように弁解を口にする。
「そ、そうじゃないのよ……私としてはもうちょっと距離をおいて……って」
「それも同じ事です! 私とクロウさんはその……こっ……婚約者なんですからっ!」
ユミィは顔を真っ赤にしてアリーシャにそう言い切った。
それを聞いたアリーシャはぽかんとした顔をするばかりだ。
いや、このギルド全体が静まり返って、全員が同じような顔をしているな。
そんなギルド内の静寂を打ち破る声が入り口の方から聞こえた。
「あー? 誰が誰の婚約者だってぇ?」
声のした方を見るとガタイのいいまさに冒険者、というような男達数人がギルドに入ってくる所だった。
隣のユミィは少し体を震わせて「ブルートさん……」と言った。どうやら戦闘にいるリーダーのような男は知り合いのようだ。
「ユミィ……お前ェは俺たちのパーティの荷物持ち兼雑用係だろうが?」
「ん……っでも私だって冒険者になれるって、そういったじゃないですか。今日だって……クロウさんに助けてもらいながらだけどゴブリンを討伐してきました。なのにずっと雑用なんてあんまりです!」
「それが嫌だったら一生俺だけの雑用をしろって言ったと思うが?」
その言葉に男のパーティだという周りの仲間達が笑い声をあげはじめた。
その笑い声があまりに下卑たもので、あまりにユミィを馬鹿にしていたものだったから。
「おい、やめろ」
俺はそう声を出してしまった。でも、後悔はしていない。
「ああ? なんだお前が婚約者とか言われて勘違いした野郎かあ? ひょろひょろで……モヤッシーかてめえ」
そういって俺の胸を押す。
その余りの力に俺はよろめくが後ろにはユミィがいるんだ、ここで倒れる訳にはいかない。
「ユミィは俺の婚約者だ。あっちへいってろ」
そう言いきってやった。
「はいはい、わかりましたよ……ってなるか! この野郎っ!」
そういって男は俺に殴り掛かってきた。
ふふ、俺は大魔導師になる男らしいからこんな男なんてチョロいもんだ。
あのゴブリンだってピクピクのピクだったんだからな。
「目覚めよっ! 我が魔眼っ!」
俺はそう叫ぶと同時に、殴られた衝撃で床に崩れ落ちるのだった。
なんで何も出ないのぉ……
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